「ファミコンで本格的なRPGを」という熱意の元制作された、今や日本国民で知らない人はいないのではないか、というくらいの人気ソフトであるドラゴンクエスト。しかしドラゴンクエスト1は大変な難産だったのです。
■ ファミコンのメモリが少ない!
一番の問題は、ファミコンのメモリ(容量)の少なさでした。
ファミコンはそもそも「アーケードゲームで人気のあるドンキーコングを、家でも遊べるようにしたい」ということから仕様が形作られていきました。
まだまだゲームのジャンルすら未分化の時代、テキストをたくさん表示させる必要のあるRPGのようなジャンルがファミコンに登場するとは想定していなかったのかもしれません。
ドラゴンクエスト1は、マップの地形データや戦闘背景……メモリに格納するデータが多すぎて、当初予定していた全部を入れることは不可能だったのです。
■ それならカタカナを削るしかない!
そこで、いったんゲームの世界観を完成させて、名付けた名称に使われたカタカナの内、使用頻度が高いもののみ残す、という手法がとられました。実際にゲーム中に登場するカタカナ交じりの言葉は以下のとおりです。
【カタカナのことば】
「ラダトーム」「ガライ」「マイラ」「ドムドーラ」「リムルダール」「メルキド」「ギラ」「トヘロス」「ベギラマ」「ベホイミ」「ホイミ」「マホトーン」「ラリホー」「リレミト」「ルーラ」「レミーラ」「ロトのつるぎ」「ロトのよろい」「のろいのベルト」「ロトのしるし」「キメラのつばさ」「スライム」「スライムベス」「ドラキー」「ゴースト」「メイジドラキー」「メーダ」「メトロゴースト」「ドロル」「ドラキーマ」「リカント」「リカントマムル」「ゴールドマン」「キメラ」「ヘルゴースト」「メーダロード」「ドロルメイジ」「メイジキメラ」「メタルスライム」「キラーリカント」「スターキメラ」「ドラゴン」「ゴーレム」「キースドラゴン」「ストーンマン」「ダースドラゴン」「ローラ」「ロト」「コマンド」「こうげきカ」「しゅびカ」
これをさらに、文字ごとに何文字使われているか集計したものが以下のとおりです。
【カタカナのしようかいすう】
「イ:10」「カ:6」「キ:12」「コ:9」「シ:3」「ス:11」「タ:7」「ト:16」「ヘ:6」「ホ:4」「マ:8」「ミ:4」「ム:8」「メ:11」「ラ:24」「リ:6」「ル:10」「レ:3」「ロ:10」「ド:13」「ン:10」
こうして見てみると「ト」や「ラ」の頻度が高いことが分かります。ちなみに「リ」と「ヘ」については形が似ていることから、ひらがなの「り」「へ」がそのまま代用されているので、実質は19文字しかありません。
「ド」を別に計上しているのは、「コマンド」等で「ド」の出現頻度が高いためか、専用の1文字が登録されているためです。他の濁音については、濁点1文字をつけて表現されています。
「ダークドラゴン」と呼称されるはずだったのに、「ク」がないことから「ダースドラゴン」に変更されたのは有名な話だったりします。
また、「ク」「エ」がないので「ドラゴンクエスト」を「ドラゴンくえすと」、「ア」「フ」がないので「アレフガルド」を「このち」と表現する一面も……。
■ ドラゴンクエストの独特の世界観を産み出すことにも一役買っている
スピンオフ作品「ドラゴンクエストモンスターズ」があるくらい、作中には多くのモンスターが登場しますが、「モ」がないため、作中では「まもの」と呼称されている、という工夫も。
ファンタジーの世界にも関わらず、ドラゴンクエストにどこかしら日本的な雰囲気が漂うのは、苦肉の策でカタカナを削ったことで、それを違和感のないひらがなの呼称に置き換えた結果なのかもしれませんね。
<参考>
おとなのしくみ(4)鈴木みそ著
※初出時、「ス」がないため、作中では「まもの」と呼称されている、と表記しておりましたが、正しくは「モ」がないため、でした。訂正してお詫び致します。
(ゆっくりドットコム)