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【新作アニメ捜査網】第13回 大魔神カノン

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皆さん、こんにちは。今注目のアニメをご紹介する本連載ですが、今回は、テレビ東京系列で深夜に放送されている特撮ドラマをご紹介したいと思います。その名も『大魔神カノン』。この番組は、昭和41年に大映(現・角川映画)が公開した3本の特撮時代劇映画『大魔神』シリーズを現代劇としてリメイクしたものです。

  • 大魔神というと、かつての横浜ベイスターズの抑えピッチャー・佐々木主浩投手のニックネームとして用いられた他、サントリーやエースコックのテレビコマーシャルに登場したこともあるため、比較的名称自体をご存知の方も多いことでしょう。

    その『大魔神』の映画が公開されたのは昭和41年。
    特撮作品の歴史において第一次怪獣ブームと呼ばれる時期の作品であり、『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』と2本立てで公開されました。この時、大魔神とバルゴンの縫いぐるみを作った美術家が高山良策です。ちなみに高山は、同年の『ウルトラQ』『ウルトラマン』で怪獣の縫いぐるみを作った人物でもあります。
    また、この時の『大魔神』の音楽を手掛けたのは、同年の東宝映画『サンダ対ガイラ』も手掛けた作曲家で、重厚な作風で知られる伊福部昭。
    第一次怪獣ブーム期は大映のみならず邦画各社が怪獣映画を製作した時期という特徴があり、東映が『怪竜大決戦』、日活が『大巨獣ガッパ』、松竹が『宇宙大怪獣ギララ』を公開するなど、怪獣映画製作本数が空前絶後の時期でありました。

    さてこの昭和41年版『大魔神』ですが、勧善懲悪のストーリーであるという印象を持っている方もいらっしゃるでしょう。
    しかし1作目においては、勧善懲悪の要素はありません。映画1作目において、それまで眠っていた大魔神が覚醒し、悪い領主とその一味を壊滅させたのは、悪い領主によって虐げられている百姓を助けようとしたからではありません。
    領主とその一味が大魔神を冒瀆し、大魔神の顔に杭を打ち込んだからです。領主とその一味を壊滅させただけでは大魔神の怒りは収まらず、領主によって虐げられていた百姓にまで猛威を振るっています。
    いわば大魔神は人間に祟る恐ろしい神であり、この点が、悪い領主によって虐げられた百姓を助けるために奮闘する土人形を描いた北朝鮮の怪獣映画『プルガサリ』(1985年製作)と異なっている点であります。但し3作目の『大魔神逆襲』では鷹を派遣して人間の子供達を助けるなど子供の味方になっており、作品によって描かれ方に違いが見られます。大映映画で子供の味方といえば、ガメラもそうですよね。

    そして44年の時を超え、角川映画によって新作『大魔神カノン』が製作されるに至りました。物語の主人公・巫崎カノン(演・里久鳴祐果)は、山形県から上京してきますが、不人情な世の中に戸惑います。郷里の祖母からカノンが聞かされた歌を、バンド活動している男性に聞かせたところ盗作されてしまい、更に、ファミリーレストランで働いたところ老人を冷たくあしらう客の姿を目の当たりにし、あまつさえ、大学では同級生に都合よく利用されてしまうのでした。人を信じるというのはどういうことか悩み、苦しむカノン。遂にカノンは、自身が持っていた筈の優しい心もどこかに置き忘れてしまいます。第6話ではカノンの眼前で、子供を連れた主婦が大量の果物を道に散乱させてしまいますが、カノンは見なかったことにして立ち去ってしまうのでした。世知辛い現代の世相を考えさせられるドラマとなっています。

    ところで本作では悪霊が跳梁跋扈しており、悪霊を退治する力を持った存在である大魔神は、眠りに就いたままの状態となっています。そんな大魔神を目覚めさせる歌を歌えるのがカノンでした。しかし人を信じる心を失い、歌を歌う心も失ったカノンには、大魔神を目覚めさせることができません。即ち、人々が信じ合える世の中になることでカノンも歌を歌えるようになり、すると大魔神が復活して悪霊を退治することができる、というお話の流れになっています。恐らく本作における悪霊は、現代人が優しい心や人を信じる心を失ってしまったことを具象化した象徴的存在であり、人々が優しい心や人を信じる心を取り戻すことによって世の中が良くなるだろうという願いがストーリーに込められていると言えます。

    尚、『大魔神カノン』における大魔神は、かつて人間に愛された事物が意思を持った存在であり、人間に恩返しをする心優しい存在であるという設定になっています。この点は、領主に虐げられた百姓を踏み潰していた初代大魔神とは決定的に異なる設定であり、時代によって大魔神のキャラクターも変化していると言えます。筆者がこの原稿を執筆している時点で第6話まで放送されていますが、大魔神はまだ眠ったままです。昭和41年の映画でも大魔神が眠りから覚めるのはクライマックスのみでしたから、『大魔神カノン』でもやはり終盤になってから目覚めるのでしょうか。

    本作は現状ではとても悲しい物語となっていますが、カノンが他人への信頼を取り戻す過程をきっと描いてくれるものと思います。

    ■ライター紹介
    【コートク】

    戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。

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