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【建物萌の世界】第4回 ザ・ビヤホール

ザ・ビヤホールこんにちは、咲村珠樹です。「建物萌の世界」通称「たてもえ」ですが、前回の予告通り、今回も昭和初期の建物をご紹介したいと思います。

建物(街並み)散歩をしていると、お腹もすくし、喉も渇きます……ということで、ちょっとお店に入りましょう。


  • 東京・銀座7丁目に、ビヤホールの名店「ライオン銀座7丁目店」があります。
    日本に現存する、最も古いビヤホールの建物で、1934(昭和9)年の完成。設計者は菅原栄蔵です。これはもともと、大日本麦酒(戦後、集中排除法によりサッポロビールとアサヒビールに分割)の本社ビルとして建てられたもので、完成当初は1・2階がビヤホール、3階から上は本社……という形になっていました。これ以前にも、明治時代から新橋の辺り(現在の銀座8丁目)や尾張町交差点(現在の銀座4丁目交差点・銀座サッポロビル)に直営ビヤホールを持っていた大日本麦酒でしたが、ここは本社併設のビヤホールということもあり、かなり力の入った建物でした。

    ビヤホールの名店「ライオン銀座7丁目店」

    戦後の1952(昭和27)年1月までは進駐軍に接収され、軍専用のビヤホールになっていたこともあります。その後、本社機能が移転したことにより、1978(昭和53)年に建物全体を改装して、全てのフロアが飲食店として営業する現在のような形になりました。その際に外装などもずいぶんいじってしまったので、外観に関しては建築当時をうかがい知ることは困難です。

    1978(昭和53)年に建物全体が改装されており、側面ではこの階段室ぐらいしか当時の面影は残されていない

    建物側面のこの部分(階段室)ぐらいが、外壁で当時をしのべる場所ですね。後は、屋上の建屋部分(ここの色がオリジナルの外壁の色)と塔が、建築当時のままです。

    当時の面影を残す屋上の建家部分 当時の面影を残す屋上の塔

    離れたところから見上げないといけないので、外からはなかなか確認できないのですが、いわゆる「ライト風」のデザインがなされているのが判ると思います。設計者の菅原栄蔵はフランク・ロイド・ライト(旧帝国ホテルの設計者)の弟子という訳ではなかったのですが、この他に旧新橋演舞場(1925年完成・1979年解体)など、ライト的なモチーフを使った建築を発表しています。ちょうど屋上に付いてる装飾と似たものが、旧新橋演舞場の外壁(表面はスクラッチタイル貼り)にも付いていました。

    中に入るとこんな感じ。2階部分は何度か改装されてしまっていますが、この1階部分の内装は、完成当初の状態を良く保っています。

    建物内部の1階部分

    様々な装飾がなされていますが、最も目立つのが、壁面を飾る縦2.75メートル、横7.75メートルにも及ぶ巨大なガラスモザイク画。

    壁面を飾る縦2.75メートル、横7.75メートルにも及ぶ巨大なガラスモザイク画

    日本で初めて作られたガラスモザイク画で、女性達が麦を収穫する様子が描かれてますが、後ろに遠く、ビール工場が描かれているのが判るかと思います。彼女らが収穫してるのはは小麦ではなく、ビール麦なんですね。ビール会社らしいモチーフです。使われているガラスピースは250色にもなるそうで、色調調整などに約3年を費やした、という話も残っています。

    これ以外にも、店内には大小10面のガラスモザイクの壁画があります。

    店内には大小10面のガラスモザイクの壁画がある 店内には大小10面のガラスモザイクの壁画がある

    天井を見上げてみると、まるで教会のよう。荘厳な感じがします。

    天井を見上げてみると、まるで教会のよう

    2色のタイル貼りの壁面と柱の装飾。非常に彫刻的で、独特のディティールにあふれています。

    2色のタイル貼りの壁面と柱の装飾 2色のタイル貼りの壁面と柱の装飾
    2色のタイル貼りの壁面と柱の装飾 2色のタイル貼りの壁面と柱の装飾

    この装飾が、独特の空間を形作っていて、なんともイイ感じです。

    正面にあるカウンター。こちらも左右に装飾が施されています。使用されている大理石は、ドイツから輸入したもの。この大理石は壁面の方にも使われています。

    正面にあるカウンター。こちらも左右に装飾が施されています。

    さて、この建物のデザインを「ライト風」と表現してますが、実際に日本でフランク・ロイド・ライトが設計した代表的な建物である帝国ホテル(1923年完成・1967年解体。現在愛知県犬山市の「博物館明治村」にて正面玄関部分のみ移築保存)と比較してみましょう。

    1923年完成の帝国ホテル(「博物館明治村」に正面玄関のみ移築保存されている) 1923年完成の帝国ホテル(「博物館明治村」に正面玄関のみ移築保存されている)

    左が外観(斜め後ろから撮影)で、右がホールの内装。直線基調のデザインと、彫刻的なモチーフが特徴であることがお判り頂けるかと思います。そして、石とタイルを用いてコントラストがつけられていますね。奥の柱にあるような、サイコロ状のものが重なったデザインは、ライオン銀座7丁目店の2階窓枠に見ることができます。また、細かくガラスを分割したステンドグラスなども、やはり店内に。

    ライオン銀座7丁目店の2階窓枠 細かくガラスを分割したステンドグラス

    また、明るいので判りにくいのですが、実は一見ただの球形に見える照明器具にも、このようなデザインが施されているんです。

    一見ただの球形に見える照明器具にもライト風のデザインが

    ……とまぁ、1階ビヤホール店内だけでも、これくらいの見所があるのですが、裏手の方にも、個人的にはたまらない空間があります。この階段室の部分は、昭和初期のビルの雰囲気を良く伝えていると思うんですね。

    昭和初期のビルの雰囲気を残す裏手の階段室 昭和初期のビルの雰囲気を残す裏手の階段室

    階段部分は、前回ご紹介したジントギ(人造石の研ぎだし仕上げ)、壁面はタイルと漆喰で仕上げられています。1階から2階に向かう踊り場の、特徴的な窓の部分は石造り。

    階段部分はジントギ(人造石の研ぎだし仕上げ)、壁面はタイルと漆喰で仕上げられている 1階から2階に向かう踊り場の特徴的な窓の部分は石造り

    建物の魅力ももちろんですが、こちらには海老原さんという「ビール注ぎの達人」がいることでも有名です。現在は定年を迎えてしまったのですが、嘱託としてお店に残り、毎日ではありませんがカウンターに立ってらっしゃいます。では失礼して、建物を愛でながら、一杯いただきます。

    建物を愛でながら一杯

    ■ライター紹介
    【咲村 珠樹】

    某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
    人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
    そんな息抜きで得た、無駄に広範な趣味と知識が人生の重荷になってるかも!?
    お仕事も随時募集中です。

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