時代に埋もれた名作映像作品の数々を紹介する「名作映像案内」。今回取り上げる時代劇映画は平成22年の水戸藩創設四百周年記念映画『桜田門外ノ変』です。
この映画の監督は佐藤純彌。数々の大作映画を監督した人物として知られています。


この映画の特徴として挙げられるのは、1860年以降のエピソードと1853年以降のエピソードを同時並行して描いていること、そして1853年以降の政治的エピソードには国際的視点が取り入れられていることです。

映画は1840~1842年の阿片戦争と1856~1860年のアロー戦争の解説から始まります。そして現代の国会議事堂から桜田門にかけての風景が映し出され、映画の題名が表示されるのでした。現代の風景を取り入れることで、単なる昔話ではなく現代にも通じる事件として描いていると言えます。このような手法は、1966年の米仏合作映画『パリは燃えているか』でも見られます。『パリは燃えているか』は第2次世界大戦時における連合軍のパリ解放を描いたモノクロ映画ですが、ラストでは映画制作当時のパリをカラーで映しています。何の映画か忘れましたが、現代の警視庁を映した時代劇もあったような記憶があります。尚、『桜田門外ノ変』と同時期に公開されたリメイク版『十三人の刺客』では冒頭に広島・長崎に原爆が投下される百年前の出来事だとの字幕が表示されました。その後の歴史との繋がりなり対比なりを意識した時代劇映画が、同時期に2本公開されたことになります。

本篇の撮影に使われたオープンセット 本篇の撮影に使われたオープンセット

さて、ストーリーは、1860年以降の展開と、1853年以降の展開が交互に描かれ、上映開始後30分の時点で桜田門外の変に到達します。大雑把に言って、1860年以降の場面は水戸浪士個人個人を描き、1853年以降の場面は徳川斉昭、井伊直弼、阿部正弘、徳川慶勝、松平春嶽ら政治の動きを描いています。政治の描写においては、説明台詞が多いことが難点ではあるものの、やはり国際的視点が持ち込まれていると言ってよいでしょう。例えば、1856年に勃発したアロー戦争が、日米修好通商条約調印時(1858年)に進行中であったことなどが意識されています。

映画の後半部は、桜田門外の変に参加した浪士が協力者を頼ったり逃亡したりする場面に費やされ、茨城県の観光名所である袋田の滝などが登場します。

そして映画は、1868年において桜田門を訪れる西郷隆盛を描き(この時に流れるのが、幕末を描いた映画に必ず流れる「トコトンヤレ節」)、再び現代の桜田門から国会議事堂にかけての風景が映し出され映画は幕を閉じるのでありました。激動の国際情勢の中で日本の行く末を考えさせる映画だったと言えるでしょう。

本篇に登場する袋田の滝

因みにどうでもいい話ではありますが、桜田門外の変を描いた初の映画だとか、佐藤純彌監督による初の時代劇映画だとか宣伝されていたのは、やや違和感がありました。昭和40年の映画『侍』や昭和44年の映画『日本暗殺秘録』は桜田門外の変を映画全体の主軸に据えていないというのは分かりますが、昭和36年には『桜田門』という映画がありました。また、佐藤監督の時代劇映画には昭和59年の『空海』がありました。

<スタッフ>
監督:佐藤純彌/原作:吉村昭/脚本:江良至、佐藤純彌

<キャスト>
大沢たかお、長谷川京子、柄本明、生瀬勝久、加藤清史郎、西村雅彦、伊武雅刀、北大路欣也

(文:コートク)