豊臣秀吉の旗印にもなったほど、縁起物として知られるひょうたん。近年では夏の日差しを防ぐ「緑のカーテン」として栽培されることもある植物です。

 ひょうたんは昔から、実を鑑賞の対象や細工物の材料として利用されてきました。Twitterなどで作品を発表している「ひょうたんすみじろう」さんも、ひょうたんを素材にステンドグラス風のランプやジオラマといった作品を作っています。

 古くから中をくり抜き、液体を入れる容器にするなど、身近な素材として親しまれてきたひょうたん。近年ではあまり見かけませんが、昭和20年代~30年代ごろには、実の出来栄えを競うコンテストなどもあったようです。

 このひょうたんと、ひょうたんすみじろうさんとの出会いは、2014年のこと。

 「毎年ベランダでゴーヤなどを使ってグリーンカーテンを作っていましたが、何か新しい植物でグリーンカーテンを作ろうと思って調べたところ、ひょうたんを見つけました」

 実が食べられるゴーヤ(ニガウリ)と違い、実の活用法はあるのだろうか……とさらに調べていたところ、ひょうたんランプの存在を知り、その美しさに衝撃を受けたそうです。

「自分でも作ってみたい!と思い、栽培したり、たまたま実家にあったひょうたんをもらって、ランプの作成を始めてみました」

 ひょうたんランプを作っていくうち、彩りのあるステンドグラス風のランプという技法を思いつきました。2017年からは、実を切り開いてくり抜いた空間にジオラマを作るようになったといいます。

 そして「ひょうたんすみじろう」という屋号(名前)を名乗りだしたのは2016年からのこと。現在までにランプが200点ほど、そして36点のジオラマ作品が誕生しています。

 どのように作品を作っているのか、最新作であるステンドグラス風ランプ「狂骨の夜」を例に教えてもらいました。

「狂骨の夜」ジオラマ作品(ひょうたんすみじろうさん提供)

 これは過去に制作したジオラマ作品がもとになったもの。ジオラマ作品は、すでに人手に渡っていますが、お気に入りでもあったため今度はランプとして制作してみることにしたのだそうです。

 手元に残してあるジオラマ作品の写真を参考に、ランプとしての図案をスケッチ。表現方法が異なるため、モチーフの重要な部分を踏襲しつつ、ランプに合わせたアレンジも施しました。

「狂骨の夜」ランプ用スケッチ(ひょうたんすみじろうさん提供)

 フロアランプになるよう、底の部分をカットし、内部をくり抜きつつ表面を絵柄に合わせて彫り進めていきます。

 「彫りに使うのは、プロクソンのミニリューターです。これに0.7mm前後のドリルビットを装着して作業しています」

作業台でのひょうたん(ひょうたんすみじろうさん提供)

 彫り進めたひょうたんを内側から見てみると、外側から見た時とはまた違った世界が広がります。内と外で、だいぶ印象が変わるものですね。

内側から見たところ(ひょうたんすみじろうさん提供)

 ある程度彫り終わると、中に電球を入れて光らせ、光の具合をチェック。光の漏れ具合を確認しつつ、彫った部分を微調整していきます。

照明を入れテスト(ひょうたんすみじろうさん提供)

 思い通りの形に出来上がると、内側から色セロファンを貼り込み、ステンドグラス風に加工していきます。平面ではなく立体、しかも上の部分に行くほど空間は狭くなるので、作業は数日がかりになるのだとか。

内側から色セロファンを貼り込む(ひょうたんすみじろうさん提供)

 完成したランプ「狂骨の夜」は、古井戸から飛び出した幽霊に人間が腰を抜かす、という場面をモチーフにしたもの。背景は色セロファンを複雑に貼り、おどろおどろしい雰囲気をかもし出しています。

完成したランプ「狂骨の夜」(ひょうたんすみじろうさん提供)

 ランプの作品は、単体で見るだけでなく、壁に映った影でも楽しめるのが特徴。色のグラデーションなど、さまざまな表情を見せてくれます。

壁に映る影も見どころ(ひょうたんすみじろうさん提供)

 お気に入りの作品についてうかがうと、真っ先に挙げてくれたのがジオラマ作品「モネの池」。岐阜県関市の根道神社参道脇にある灌漑用貯水池の通称で、観光名所としても知られています。

モネの池(ひょうたんすみじろうさん提供)

 すみじろうさんはネットに投稿されている画像を参考にし、その澄んだ水に泳ぐニシキゴイたちの姿をひょうたんの中に閉じ込めました。下から光が当たることで、より透明感や美しさが際立ちます。

 もう1つ、ジオラマ作品で挙げてくれたのが「Haunted Hotel」。扉状になったフタを開けると、そこにはどこまでも続く廊下が伸びています。

ジオラマ作品「Haunted Hotel」(ひょうたんすみじろうさん提供)

 まるで永遠に続いているように見える廊下。ひょうたんという限られた空間に作られていることを忘れて見入ってしまいます。これはほかの人のもとへ旅立った初代に続き、2代目の作品として作られたとのことで、思い入れの深さを感じさせます。

扉を開くとどこまでも続く廊下(ひょうたんすみじろうさん提供)

 そしてステンドグラス風ランプの作品で挙げてくれたのが「がしゃどくろの夜」。普通のランプの場合、作業時間はトータルで6時間~10時間くらいのところ、およそ3倍の30時間ほどかかって完成させたという労作。

「がしゃどくろの夜」点灯前(ひょうたんすみじろうさん提供)

 お気に入りだったこともあり、ベッドサイドのランプとして使っていたそうなのですが、ベッドで飛び跳ねる息子さんのダイビングボディプレスで割れてしまったのだとか。それでも、思い入れの深い作品のため、わざわざ修復して手元に置いているといいます。

「がしゃどくろの夜」点灯後(ひょうたんすみじろうさん提供)

 こちらのランプはフロアランプではなく、吊り下げ式のランプシェード仕様。空中に浮かぶと、また趣が違って見えますね。

「がしゃどくろの夜」は吊り下げ式ランプシェード(ひょうたんすみじろうさん提供)

 表面を彫っていくランプと違い、ジオラマ作品はひょうたんという不定形の空間に合わせて作り込んでいくのが大変なんだそう。こんなエピソードも語ってくれました。

 「粘土で作ったものがひょうたんの中に入らない!もしくは入り口に開けた穴から入らない!という痛恨のミスをしないよう心がけています。何度か経験があるのですが、粘土で作った人形が大きくて、ひょうたん内部に思うように納まらず、結果造形の一部をガッツリ削り取ったことも……(苦笑)」

 完成した作品はminneで販売しているほか、オーダーによる製作も受け付けているとのこと。また、毎日20時からは17LIVEで作業風景を生配信しているので、興味のある方は公式サイトやTwitterをチェックしておくとよさそうです。

<記事化協力>
ひょうたんすみじろうさん(@nagaoryuu33)

(咲村珠樹)