朝日新聞社が主催する第21回手塚治虫文化賞のマンガ大賞最終候補作品が2月末に発表されました。
話題の人気作が多くノミネートされ、野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』、雲田はるこさん『昭和元禄落語心中』など、さすがとしか言いようのないラインナップでネットでは早速様々な意見が交わされています。あの作品が受賞するかな?これかな?これは未読だから読んでみよう……。結果は4月下旬に朝日新聞紙面にて発表予定となっており、受賞作が決まるまでは、ファンにとってもドキドキ、そして想像のはかどる楽しい時間です。
この手の賞の場合、ノミネートされるというだけでも作品に興味を持つ人が増える機会となり同じく漫画ファンとしては本当に喜ばしいばかりですが、今回のノミネートの中で筆者が個人的に「これは」と思っているのが大月悠祐子さんの『ど根性ガエルの娘』。
大月悠祐子さんは『ど根性ガエル』著者・吉沢やすみさんの娘。タイトルやかわいらしい絵柄だけ見ると「ほのぼの作品」をつい連想してしまいますが、天才ともてはやされたものの、スランプとそれが起因するギャンブルに溺れていった父である吉沢さんと、そんな父を支えながらも少しずつ壊れていった母、気丈に成長していった弟、そんな機能不全家族の中で育ち、学校でのいじめや引きこもりなどを経て漫画家になった大月さんのリアルな人生が描かれています。特に最新話が読める「ヤングアニマルDensi」(白泉社)では1月20日に公開された第15話が「よくぞ描いた!!」と絶賛されて話題になりました。
第15話は当時大月さんと付き合いがあり、白泉社の前に『ど根性ガエルの娘』を執筆する話が持ち上がっていた担当編集者とのやり取りが描かれています。担当編集者は「あまりに酷い話は読者が読みたくありませんから」という理由で「感動の家族の再生ストーリー!!!」を描くよう促します。しかし、そんなキレイ事だけでは描くことができなかったのが本ストーリー。過去に大月さんが両親から心理的虐待とも言える仕打ちを受けてきたことを描かかずキレイ事で終わらせることはできなかったのです。
現在放映中のTBSドラマ『カルテット』の第3話で、満島ひかりさん演じる世吹すずめが毒親である父親の最期を看取ることを拒否し、それを松たか子さん演じる巻真紀が肯定するシーンが話題となったことは記憶に新しいと思います。
親だから許さなければならない、親だから過去に何をされていても受け入れなければならない。そして、すべて許した先に幸せがある……。そんなふうに、過去の傷を塗り固めて見えないようにした先に待っているのは大団円ではないかもしれません。でも作者は過去の事実から目をそらさずに、自分の心を削って作品上にそれを描き、読者へ伝えようとしています。
真正面から家族の呪縛に向き合った『ど根性ガエルの娘』は現在2巻まで発売中。最新話は「ヤングアニマルDensi」にて公開されています。若い世代だけではなく、それこそ『ど根性ガエル』をリアルタイムで読んでいた世代にも、ぜひ読んでいただきたい名作です。
(貴崎ダリア)