毎年夏の夜に各地で開催される花火大会。会場となる場所は公共交通機関から若干離れており、辺りも暗いため帰り道に駅の場所が分かりにくくなってしまった経験を持つ人も多いと思います。終了後は人の流れに乗ってそのまま駅に、という形で進めるかもしれませんが途中で帰らなければならない時、人混みをかき分けて駅のマークを探すのは大変。そんなイベント会場での画期的な試みがツイッターで注目されています。
4階建てくらいの白いビルの上辺にはJR門司港駅の方向案内、もう1辺の上辺には通行規制中の方向案内。それぞれ、方向表示の下には「迂回のご協力をお願いします」の文字。案内表にの下にはプロジェクションマッピングらしく、美しい装飾も写し出されています。
このプロジェクションマッピングを見た人からは、「確かに正しい活用法」「普段は街の景観を損ねず必要な時だけ情報を表示する方法で理想的」「デジタルサイネージや臨時看板よりも低コストで効果も大きい」と絶賛されています。
https://twitter.com/tsuka02hira/status/1029001328482123776
これは、九州産業大学・芸術学部ソーシャルデザイン学科の専任講師である岩田敦之先生の取り組み。岩田先生にお話を伺ったところ、2014年からこの取り組みは実施しており、今年も行っていたとの事。岩田先生によると「この取り組みは、多くの人が訪れる花火大会の人流計測の研究を中心とし、Webサイトによる混雑情報の配信、プロジェクションマッピングの技術を活用した誘導案内(ガイドプロジェクション)を研究者のチームで実施しております」との事で、岩田先生の他に北海道大学大学院情報科学研究科の山下倫央氏と、奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構の荒牧 英治氏、公立諏訪東京理科大学工学部の宮部真衣氏などが共同研究を行っている「IT を活用した群集流動における安全安心の実現に関する実証的研究」でその研究成果を発表しています。この中では大規模イベント時における人の流れや混雑具合、それに対する公共表示としてのプロジェクションマッピングの活用などが報告されています。
岩田先生によると、プロジェクションマッピングはアートやエンターテイメント分野での使用がほとんどで、今回話題になった使用方法はほぼ見られていないという事。駅構内などのデジタルサイネージは常設型のサインとなりますが、プロジェクションマッピングは仮設型の動的サイネージとして活用でき、その特徴を目的に応じて活用すれば、夜に多くの人が集まるスポーツイベントやライブ、お祭り、また災害時などにおいて有益な情報伝達が行えるのではと考えているとの話です。
公共物の表示などを業務の一つとして、業界に詳しい株式会社石井マークの石井社長にも聞いてみたところ「こうした実用例は(試みとして)日が浅いですが、夜間でなくとも建物内などで活用できますので、工場の床面などに『動的なサイン』として安全通路の確保や誘導用途への製品化が始まっています。動的なサインである事のメリットとしては、状況にリンクして直ちに表示を切り替えられること、や重機付近の危険区域を表示する例のように表示場所を動かせるなどが挙げられます。今後1~2年のうちに更に普及が進むはずです」との事。
屋内であれば一定の明度で利用が可能であり、時間を問わず安定して表示ができるという利点があります。また、安全を第一に考える工事現場や重機を使う工場内ではLEDサインよりも、表示できるサインがより多彩に場所を選ばず表示できるプロジェクションマッピング表示がより安価で有効性が高い事も考えられます。2020年の東京オリンピックでも、こうしたデジタルサイネージに変わる新しい表示方法が見られるのかもしれませんね。
岩田先生によると、関門海峡花火大会(門司側)では来年以降も継続予定、また地域のお祭り「二日市温泉と天拝山観月会」でも継続して実施していくという事ですので、今後イベントに参加される人はその辺りも気にして見てみると新たな発見があるかも知れません。
<記事化協力>
九州産業大学 芸術学部ソーシャルデザイン学科 岩田敦之先生
つかささん(@tsuka02hira)
株式会社石井マーク(@ishiimark_sign)
(梓川みいな)