2019年10月14日(現地時間)、イギリス議会の定例議会が開会しました。上院にあたる貴族院では、議員や職員が美しい伝統の衣装に身を包み、女王を迎えました。

 イギリスの議会は上院にあたる貴族院(House of Lords)と、下院にあたる庶民院(House of Commons)で構成される両院制。政治の中心は庶民院にあり、首相を含む各大臣は基本的に庶民院議員から選ばれています。

 貴族院は貴族によって構成される非公選制の議会で、議員の任期は終身制。ですが代々続く世襲貴族の議席数は現在制限されており、大半は「一代貴族」という一代限りの爵位を得た議員で占められています。

 立憲君主制のイギリスは、日本と同じく通常議会の開会に際して女王(国王)の親臨を賜ります。その出御に際しては、当日未明の午前3時から近衛兵を中心としたイギリス軍の部隊が出動。バッキンガム宮殿から議事堂となっているウェストミンスター宮殿までの道に展開し、リハーサルを行います。

 議会開会式に動員される将兵は1300人、そこに200頭の馬が加わります。すべてを統括して指揮するのは、ベン・バサースト少将。人々が寝静まるロンドン中心部には、馬の蹄音だけが響きます。

 明け方まで降っていた雨もあがり、いよいよ当日の朝。議事堂のウェストミンスター宮殿では、女王の馬車を迎えるため、門からの通路にクッション砂を敷き詰めます。

 エリザベス女王、チャールズ皇太子、カミラ夫人が出御します。先導するのは王室騎兵乗馬連隊。その後ろには王冠と王剣を載せた馬車が続き、さらに女王の馬車が続きます。

 2019年にウェストミンスター宮殿でのお迎え役を拝命したのは、近衛歩兵のウェルシュガーズ。赤と黒の鮮やかな正装に身を包み、到着を待ちます。

 宮殿内部では職員が伝統の衣装に身を包み、ランプを掲げて回ります。当然ですが現在の議場及び宮殿内部は、電気による照明が使われています。あくまでも「儀式」として残っているわけです。

 王冠を乗せた馬車と、女王を乗せた馬車が到着します。ここで王冠が王室から議会へ、一時的に託されます。この王冠は1937年にエリザベス女王の父、ジョージ6世の戴冠にあたって作られたもので、1838年のヴィクトリア女王の王冠をモデルにしています。


 この王冠には1905年に発見された史上最大のダイヤモンド原石から切り出された「カリナンII(アフリカの星II)」をはじめ、「黒太子のルビー」や「スチュアート・サファイア」、「セント・エドワード・サファイア」「エリザベス女王の真珠」といった、名前のついた宝石が散りばめられています。

 女王の到着にあわせ、グリーンパークでは王室騎馬砲兵による41発の礼砲が実施されています。女王を迎える階段には、馬車列の先導をした王室騎兵乗馬連隊の兵士が抜剣して整列。

 高齢のため、表舞台の行事から引退された女王の夫、エディンバラ公フィリップ殿下に代わり、チャールズ皇太子が女王と共に議場へ入ります。議員は伝統の赤い儀礼用ローブを着用し、女王に続いて議場へと歩を進めます。


 女王は議場奥に設えられた玉座へ。夫君のフィリップ殿下は王室での立場の違いから、1段下がったところに設けられた椅子に着席していましたが、今回はチャールズ皇太子と並んで女王は着席します。

 女王は玉座で開会の辞を述べ、議場を後にします。ウェストミンスター宮殿を離れる際は、ロンドン塔で名誉砲兵による41発の礼砲が行われました。


 開会式を終えた議会が最初に審議するのは、女王のスピーチを受けて、議会としてどのような返答をするかというもの。そして「女王陛下の素晴らしいスピーチに対する答礼決議」が採択され、本格的な論戦が始まるのです。

<出典・引用>
イギリス王室 プレスリリース
イギリス陸軍 プレスリリース
Image:Crown Copyright 2019/House of Lords 2019

(咲村珠樹)