イギリスの主力戦車、チャレンジャー2。1998年に就役して以来、コソボ紛争やボスに・ヘルツェゴビナ紛争、イラク戦争などの実戦を経験してきた歴戦のツワモノですが、戦車に関しては堅実をモットーとするイギリスでは2035年まで現役にとどまらせることを発表しています。このため、近代化改修の必要性が出てきているのですが、製造元であるBAEシステムズがそのデモンストレーター「ブラックナイト」を開発。9月に行われたイギリスの防衛車両見本市で公開しました。
チャレンジャー2は、1983年から実戦配備されていたチャレンジャー戦車の改良版として開発されました。チャレンジャー(1983年~2001年)はさらにその前作、1960年代に採用されたチーフテン(1965年~1995年)をベースに装甲などを改良した戦車なので、イギリスの戦車開発は改良を重ねつつ進化していく堅実性が特徴だということが判ります。
堅実に改良を重ね、最新の状態にアップグレードしていくイギリス戦車の伝統にのっとり、チャレンジャー2も性能を高めながら2035年まで現役にとどまることになりました。実戦配備からすでに20年、これからさらに20年近く現役を続けるとなると、装備のアップデートは不可欠です。
イギリス陸軍では、このチャレンジャー2の寿命延長プログラム(LEP)について、現在評価検討を行っており、遅くとも2019年中頃には何らかの結論を出す予定となっています。これを見越し、チャレンジャー2の製造元であるBAEシステムズを中心とした企業連合「チーム・チャレンジャー2」は、性能向上版のチャレンジャー2 Mk.2としてデモ車両「ブラックナイト(Black Night)」を開発。9月19日・20日に開催されたイギリスの防衛車両見本市「DVD(Defence Vehicle Dynamics)2018」で初公開しました。
ここで注意したいのは、デモ車両の名称は「黒き騎士(Black Knight)」ではなく、「暗い夜(Black Night)」であるということ。つまり、夜間戦闘の能力を向上させているという意味です。車両の前後には、監視・照準用の回転式赤外線カメラを装備。感度とシャープさを高めた赤外線暗視映像で、周囲の脅威をいち早く察知します。また、カメラが2つあるため、片方を砲手が照準に使用していても、もう片方で車長が周辺警戒を行うことができます。
主砲は滑腔砲に比べて有効射程が長く命中精度の高い、イギリス伝統のライフル砲を装備。自動追尾機能を持った火器管制装置と合わせ、より精密な射撃を実現します。もちろん、火器管制システムや警戒システムはコンピュータネットワーク化されています。
砲塔の四隅にはセンサーが備えられ、相手からの照準用レーザーの照射をいち早く感知し、その方向を示します。また、すでに対戦車ミサイルなどが発射され、こちらに向かってきている時でも、砲塔の周囲に備えられている「アクティブプロテクションシステム」が作動し、無力化します。着弾時に爆発し、衝撃を無効化する爆発反応装甲の改良版ともいえ、先に爆発とともに破片の幕を作り出し、着弾前にミサイルや砲弾を破壊するという仕組みです。
さらに行動時間を長くする工夫として、電動回転式砲塔に回生ブレーキシステムを搭載しています。これは電車やハイブリッド車に用いられている回生ブレーキと同じ仕組みで、回転する砲塔を停止させる時、駆動用モーターを発電機として使用し、発生した電力をバッテリーに戻すことでエンジンについた発電機の負担を減らし、より燃料消費を抑えて行動時間の延長をはかります。また、前照灯も電力消費の少ない高輝度LEDを使用。LEDは白熱電球より光の直進性が強いので、光が漏れる範囲が狭くなるという特徴もあります。
これは現時点でBAEシステムズらが「近代化改修するならこれだけのものが作れますよ」という技術的なアピールも兼ねた車両であり、これがそのままイギリス軍の改良型チャレンジャー2になる訳ではありません。予算規模などの問題もありますし、さらに技術が進んで装備が強化されるかもしれません。しかし「未来のチャレンジャー2」の一形態として、一見地味なようでいてインパクトのある戦車といえそうです。
Image:BAE Systems/Crown Copyright MoD
(咲村珠樹)