2023年2月24日でロシアの侵攻から1年を迎えたウクライナ。アメリカやドイツ、イギリスといった西側諸国からの支援が続けられていますが、その中で「ブカレスト9」と呼ばれるヨーロッパ9か国が存在感を増しています。

 日本ではあまり知られていない「ブカレスト9」について、その構成国やウクライナ支援の内容をお伝えします。

■ ロシアのクリミア侵攻を機に発足した「ブカレスト9」

 「ブカレスト9」は、2014年に発生したロシアのクリミア併合とウクライナ東部への干渉を背景として、2015年11月4日にルーマニアの首都ブカレストで発足しました。参加国はエストニア、スロバキア、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ラトビア、リトアニア、ルーマニア(50音順)の9か国です。

 9か国はいずれもNATO加盟国で、かつてのソ連構成国や、ソ連が主導したワルシャワ条約機構に加盟していた国々。NATOの東端を構成し、有事の際にはNATO加盟国の中で真っ先に侵攻される可能性がある、という地理的状況にあります。

 結成のきっかけは、ルーマニアのヨハニス大統領とポーランドのドゥダ大統領との会談で、両国間の戦略的パートナーシップが締結されたこと。その後、2015年11月4日にブカレストで開催された9か国首脳会合で、今後も相互に対話と協議を深めることを確認し、2018年6月8日に第2回会合が開かれました。

ポーランドで開かれたブカレスト9+2首脳会合(画像:NATO)

 2023年2月22日には、9か国にアメリカのバイデン大統領、NATOのストルテンベルグ事務総長を加えた首脳会合をポーランドの首都ワルシャワで開催。アメリカやNATOと共同で、ウクライナに強力な支援をすることで合意しました。

ブカレスト9+2首脳会合でのバイデン大統領(左端)、ポーランドのドゥダ大統領(中央)、NATOのストルテンベルグ事務総長(右端)(画像:NATO)

■ ウクライナ支援に熱心なポーランド

 ウクライナに対する支援で顕著な動きを見せているのがポーランド。ウクライナだけでなく、ロシアに協力的な姿勢を見せるベラルーシとも国境を接しており、ウクライナからの避難民も数多く受け入れています。

 ポーランドは第二次世界大戦の開戦時、ナチス・ドイツとソ連の双方から侵攻されるという経験があり、終戦後はソ連の影響下にある共産主義政権が続きました。1993年まではロシア軍が国内に駐留しており、ロシアに対する嫌悪感も強いようです。

 レオパルト2戦車の提供を申し出たのも、ポーランドが初めて。これは陸軍で戦車戦力を世代交代する時期にあたり、アメリカのM1エイブラムス戦車(M1A1が116両、最新のM1A2SEPv3が250両)と韓国のK2戦車(ライセンス生産分を含む1000両)に更新するため、旧来のレオパルト2が余剰になることも影響しています。

ポーランドでレオパルト2の訓練を受けるウクライナ兵(画像:ポーランド国防省)

 現在、レオパルト2を運用する陸軍第10機甲騎兵旅団では、2007年に開設された訓練施設でウクライナ兵に対し、レオパルト2の運用訓練を行っています。この訓練施設はシミュレータもあり、様々な状況での運用や戦闘を効率的に学ぶことが可能。

ポーランドでのレオパルト2シミュレータ訓練(画像:ポーランド国防省)

 もちろん、戦車の乗員だけでなく、整備士の訓練も行っています。これまで使っていたロシア製の戦車とは異なる部分が多いので、学ぶことは多いようです。

ウクライナ兵にレオパルト2のパワーパックについてレクチャーするポーランド陸軍の教官(画像:ポーランド国防省)

■ バルト3国では撃破されたロシア戦車を展示

 かつてソ連の構成国となっていたエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国も、国家規模に対して大きなウクライナ支援をしている国々。それぞれGDP比で1%以上もの金額が人道支援や軍事支援に費やされています。

 リトアニアではクラウドファンディングで国民からの寄付を募り、トルコ製の無人偵察・攻撃機バイラクタルTB2をウクライナに送りました(メーカー側が無料で提供し、集まった資金は人道支援に)。

 リトアニア軍はイギリス、ドイツ、ノルウェーと協力し、ウクライナ兵の基礎訓練も実施しています。小火器の射撃訓練のほか、CBRN(化学・生物・核兵器)に対する訓練もあり、どのような状況にも対応できるよう教育が行われています。

リトアニアで訓練を受けるウクライナ兵(画像:リトアニア軍)

 ウクライナからはバルト3国に対し、撃破されたロシア軍の戦車が展示用に1両ずつ提供されました。エストニアでは2023年2月25日、首都タリンの自由広場で破壊された戦車を展示。

エストニアの首都タリンで展示される撃破されたロシア戦車(画像:エストニア外務省)

 エストニア歴史博物館では、2023年3月12日まで、ウクライナ兵が使い被弾したボディアーマーなどを美術作品として展示したアートイベント「ArtArmor 命を救う芸術」を開催中です。

エストニア歴史博物館での「ArtArmor」展の様子(画像:エストニア外務省)

 展示されている「作品」は購入することが可能で、その代金は全額がウクライナ軍へ保護具(ボディアーマー、ヘルメット、イヤーマフ、手袋、ゴーグルなど)を送るために使われるとのことです。

エストニア歴史博物館での「ArtArmor」展で展示品を撮影する来場者(画像:エストニア外務省)

 ロシアのウクライナ侵攻はヨーロッパ、特に旧ソ連構成国や東欧諸国に大きな衝撃を与えました。ブカレスト9各国のウクライナ支援は、自分たちの危機として捉えていることの表れといえるでしょう。

<出典・引用>
NATO ニュースリリース
ルーマニア大統領府 プレスリリース
ポーランド大統領府 プレスリリース
ポーランド国防省 ニュースリリース
リトアニア軍 ニュースリリース
エストニア外務省 ニュースリリース
画像:NATO/ポーランド国防省/リトアニア軍/エストニア外務省

(咲村珠樹)