2019年3月に退役が予定されているイギリス空軍のトーネードGR.4攻撃機。その別れを惜しむスペシャルマーキング機が3機登場し、2019年1月23日に空軍による記念撮影が行われました。
イギリス、ドイツ(西ドイツ)、イタリアの共同開発により、1974年8月14日に初飛行したトーネード。イギリス空軍では1982年から初期型のGR.1が配備され、戦略爆撃機アブロ・バルカンを置き換えました。現行のGR.4は湾岸戦争(1991年)の戦訓なども含めた能力向上型で、1996年から2003年にかけてGR.1を改修する形で配備されました。
現在はノーフォークのマーラム空軍基地に所在する第IX(B)飛行隊と第31飛行隊が運用しており、退役までの残りわずかな時を過ごしています。このうち第IX(B)飛行隊は1914年に作られた歴史ある飛行隊で、爆撃中隊時代の1944年にはドイツ海軍の戦艦テルピッツをフィヨルドの海に葬った実績を持っています。また、1982年にトーネードの運用を最初に始めた飛行隊でもあります。
トーネードを特徴づけるのは、兵装や増槽を装着できる可変後退翼と、スラストリバーサ(逆噴射装置)を装備した唯一の超音速機という点でしょう。多種多様な攻撃任務に対応する豊富な兵装搭載量を要求されたため、主翼に設けられえたハードポイント(兵装や増槽を取り付ける場所)は、後退角が変化しても常に搭載兵装が前方を向くよう、回転式となっています。可変後退翼は短距離で離着陸できる性能と、高速飛行時の性能を両立させるために採用したもの。着陸距離を短くするスラストリバーサの採用も同じ目的です。
今回「お別れ記念」として3機のトーネードに実施されたスペシャルマーキングは、初期にまとっていいた迷彩カラー(ZG752)と、第IX(B)飛行隊のマークであるコウモリ(夜間爆撃任務を行なっていた1936年に当時の国王エドワード8世から下賜されたもの)を垂直尾翼に描いたもの(ZG775)、そして第31飛行隊「ゴールドスターズ」のシンボルである金の星を垂直尾翼に描いたもの。3機のトーネードは北海上空で、ブライズ・ノートン空軍基地を離陸した空中給油機A330MRTTボイジャーと合流し、記念撮影を行いました。
第IX(B)飛行隊と第31飛行隊のマークを描いた機体の垂直尾翼には、グレーでトーネードのシルエットも入っています。背中の部分には、第IX(B)飛行隊は「1982-2019」、第31飛行隊は「1984-2019」と、それぞれトーネードを運用してきた年が記されています。懐かしの迷彩パターンを身にまとった機体は、イギリス空軍の全トーネード飛行隊を代表するものとして、これまでトーネードが配備された飛行隊のエンブレムがずらりと並びます。
懐かしの迷彩パターンのトーネードを操縦し、このスペシャルマーキング機の編隊を率いたマーラム空軍基地司令のイアン・タウンセンド大佐は「この『テイルアート』編隊を率いることができたのは、非常に誇らしいことと感じています。この記念撮影は、40年以上にも及ぶ我々空軍におけるトーネードの歴史に別れを告げるイベントの始まりとなるものです。今回の任務が成功裏に終わったのは、軍全体のサポートもさることながら、1982年に最初のトーネードが到着して以来、ずっと支え続けてきたマーラム基地の人々の努力の賜物だと思います」と語っています。
イギリス空軍で最後のトーネード操縦課程の卒業者、ネイサン・シャウヤー大尉は「トーネードが空軍で就役した時、まだ私は生まれてもいませんでした。今日の訓練飛行で飛ぶことができ、しかもこんな素晴らしい写真を撮ってもらえたのは、この課程に在籍できた特権ですよね。でも、もうすぐこのトーネードがエンジンを停止し、空を舞うことがなくなるのは、とても悲しいことです」と、自分の大先輩にあたるトーネードについて語っていました。
イギリス空軍のトーネードは2019年3月で退役しますが、第IX(B)飛行隊と第31飛行隊は、地上攻撃能力を強化する能力向上改修「プロジェクト・センチュリオン」を実施したユーロファイター・タイフーンに一旦機種改編を行う予定。その後は増備されるF-35に再度機種改編するものと思われます。
Images Credit:Corporal Tim Laurence, RAF. Crown Copyright 2019
(咲村珠樹)