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「固定電話恐怖症」の新人 褒めて伸ばしてくれた上司に感謝

 朝の情報番組で大きな反響を呼んだ、「固定電話恐怖症」。新卒で大事な用件かもしれないのに電話を取れと言われると、まだビジネスマナー的な受け答えが上手くできない若い人にとっては恐怖と苦痛。SNSでも様々な意見が飛び交いました。そんな中、一人の上司の新人に対する対応が素晴らしいと大きく話題が広がっています。

  • ■ 新人に固定電話を取れというのは超高いハードル

     「固定電話恐怖症かあ…正直今も苦手だけど、最初の時緊張しすぎて『おおお、男の人です!!!』って言ったにも関わらず『オッケーそれでいい!取ったのが偉い!次は名字だけ聞き取ってみよ!』と褒めて伸ばしてくれた上司様、貴方のことを忘れません。ありがとうございます」とツイッターに投稿したのは、ネットユーザーの永井さん。

     誰からだったか?と聞かれても、あまりの緊張っぷりに名前まで記録を取る余裕もなく、ただ男性であることには間違いがなかったのでビビりながらも「男の人です」とだけしか答えられなかった永井さん。

     この状態で、「それだけじゃ誰だか分からないだろうが!」と怒るのが恐らく最も多いのではと思いますが、この上司さんは違いました。まず「できた」ということ自体を認め、その先に進むステップを分かりやすく指導しています。

     新しい環境で、慣れないことを企業の一人として行う……それまで自分以外の「企業」という看板をしょって、顔の見えない、誰か全く分からない人と話をするのは、それまでメールとLINEや知っている相手だけとの通話などで過ごしてきた若い人たちにとっては不安だらけの世界であり、そこで辛うじて用件は聞き取れても通話相手の名前まで書き留めきれなかったりというのはよくあることです。

     自分が新人であるということだけで、周りにいる同期以外はみな先輩。どう考えても委縮しやすいのは間違いのない環境に置かれているのですから、せっかく入ってきた人材を上手く伸ばすのは周りの先輩の仕事。新人にとって、どの人がどんな性格で、どんな話し方、接し方をするのかなんて分からないのも当然のこと。

     だから、新人が不必要に委縮した結果、鬱に陥るなんてことになったらそれは社会的にも大きな損失。そうならないために、永井さんの上司さんはできたことをまず認めてできることを少しずつ段階的に上げていく「スモールステップ」を実行していたのでしょう。この指導方法のおかげで、永井さんは「今も電話は得意では無いですが、上司様の指導のおかげで『恐怖症』というほど苦手意識を持たず仕事が出来るようになりました」と、恩師ともいえる上司さんに感謝しながら仕事を続けることができているそう。

     この指導方法を行える上司さんに対し、リプライでは「こんな上司の下で働きたかった」という声が非常に多く、永井さんもある人のリプライに「会社だと企業全体に迷惑がかかる!という気持ちから余計怖くなった覚えがあります」と返答しています。

     永井さんが研修の時からお世話になったという上司さんは、実はコワモテだったそうですが、中身は愛想と面倒見のいい人で、失敗をしても「ここで永井がこうしてたから最悪の事態にはならなかったな!よし!」とポジティブな言葉がけをしてくれていたそう。

     これ、できる人ってそうそういないと思います。人はいい面よりも失敗したり間違ったりとマイナスの面に視点が行きがち。「失敗」という事態のなかで、「でもこの時ああいわずにこういう言い方をしたのは良かった」とポジティブな面を拾うことができる人って、果たしてどのくらいいるのでしょうか?

    ■ 人の上に立つときに学んでおきたい「コーチング」

     上に立つ人が学んでおきたい「コーチング」の要点をこの上司さんは確実に実行できているのでは、と筆者は個人的に思います。実際、永井さんによると、上司さんは観察眼が鋭く、その人の特性を見抜いたうえで、一人一人の特性に合った言葉掛けや方法の提案をしていたとのこと。さらに、褒めるときは「人前で部下のことを褒める人です。これ、すごく照れるんですがものすごーく嬉しくて…笑」と永井さん。

     会社の中でのルールはある程度は必要です。しかし社内ルールとして不要なまま誰が決めたのかも分からないまま漠然と続いているものって、意外とありますよね?「電話を新人が1コール以内に必ず取る」というルールがある企業も結構あるように思いますが、会社のこと自体まだ把握しきれていない新人が電話を取るのは、かなりハードルが高いのではないでしょうか?

     外線電話であれば、かけてきた人が名乗ってくれて、用件を伝えてくれるでしょう。しかし、ある程度規模の大きな会社の内線電話で、まだ部内外の人の顔と名前が一致していないのに突然「○○おるか?」って名乗らずにいきなり言われても、ぶっちゃけ困りますよね。こういう人に限って「新人のクセにワシの名前も知らんのか!」って言うんですけど、新人だから知らないんです。これはしょうがないでしょ。いくら自分の役職が要職で、知る人ぞ知る存在であったとしても、知らない新人だってそれ以上に多いんです。

     知らない相手からの電話を取るだけでもハードルが高いのに、他部署のお偉いさんが文句付けた結果、新人を叱る羽目になり病んでいく優しい先輩もいますし、分からない上に名乗らない、しかも社内で「どの部署のだなたですか」って、新人でなくても受話器の向こうにお偉いさんに聞くのめちゃくちゃ勇気いりますよ。それを新人に強要させるのは、指導としては不適切と言わざるを得ないのではないでしょうか。

     永井さんの上司さんのように、適切な言葉と方法をその人に合ったやり方で指導するには、まずこうしたお偉いさんが、自ら名乗り用件を伝える、新人関係なく電話は出られる人が出る、などといった「脱お偉いさん体質」が望ましいものです。

     上に立つ人が率先することで、下にいる人が真似しやすい環境を整えることができます。その分、昔から続いていた意味不明な社内ルールも撤廃できるかもしれません。さらに一人一人の特性を直属の上司と部署長が把握することで、その人に合った仕事の教え方や仕事の割り振りができるようになります。

     これはいわゆる発達障害者の就労支援にもつながっていきます。発達障害という言葉は非常に大きな括りです。その中には極端にできることとできないことがはっきりしている人、言葉のチョイスを間違えなければ確実に言われたことができるけど、曖昧な言い方では伝わらない人、書類の文書を作るのが得意でも数えることが苦手な人、凹凸や強弱があっても、そこを見抜いて適切な指導と仕事の割り振りができれば、パワハラも起きないはずです。

     ここで初めて「コーチング」という言葉を見た人は、人の上に立つ前にコーチングの指南書を何冊か読んでおくことをお勧めしますよ。

     筆者も、職場を転々としてきましたが、そのたびに気分は新人でびくびくしていましたから……。

    <記事化協力>
    永井(準急)さん(@sakushiya03)

    (梓川みいな)

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    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

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