「うちの本棚」、今回は田渕由美子の代表作のひとつである『フランス窓便り』を取り上げます。
フランス窓のある家に住む3人の女性たちそれぞれの恋愛を描いたラブロマン。3人3様の恋の物語は読者の心もピュアな気持ちにしてくれるのではないでしょうか?
「りぼんマスコットコミックス」の作品集3冊目は3つのエピソードから成る『フランス窓便り』で、この作品は田渕の代表作でもあり、読みきり作品しか描いてこなかった田渕の連載(3回ではあるが)作品でもある。
フランス窓のある一軒家を3人の女子大生が共同で借りているという設定で、その3人それぞれの恋物語を1話ずつ描いた3部作。タイプの違う3人の恋の行方が気になる作品です。
『白いカップにお茶の色』は初期作品『ただいま契約期間中!』のリメイクといってもいい作品で、義理の姉弟の恋物語。
『ローズ・ラベンダー・ポプリ』は幼なじみの恋物語。この作品を読んだ同時期に、清原なつのの『花岡ちゃんの夏休み』を読んでいて、どうも印象がかぶってしまう。
収録された作品はいずれも田渕の代表作となり得るもので、充実した一冊という印象すらある。連載の長編作品を描かない分、ストーリーと作画にじっくりと取り組んでもいたのだろうが、この時期はまさに脂の乗った状態だったともいえるだろう。
勘違いやすれ違い、誤解、さらには言い出せない言葉の数々が恋の物語を味付けし、泣いたり怒ったりして最後には想いを伝えるハッピーエンド。こう言ってしまうとあまりにワンパターンな気がしないでもないが、読後のさわやかさやほんわかとした温かさが田渕の作品の人気の理由だったのではないかと思う。まあ、そこには独特な台詞回しもあったりするのだけれど。
また田渕作品の特徴として言えるのは、優しく抱きしめるようなシーンはあってもキスなどもあまり描いていない印象があること。70年代後半といえばそろそろ少女漫画にもフィジカルな描写が目立ってきたころで、あくまでもプラトニックな、ピュアな恋愛を描いていたことも支持された理由なのかもしれない。
冷静に考えてしまうと、本書に収録された作品の主人公たちは女子大生がほとんどなので、そりゃあ幼すぎるだろうと言えないこともないのだが、ほとんどの作品で幼さが魅力であり、本人はそれをコンプレックスに感じている主人公が登場しているので、違和感を感じなかったりする。もっとも絵柄的にもそれでいいんですけどね。
今読み返してみると恋愛というメルヘンを描いていたのかなあと思うわけであります。
初出:フランス窓だより/集英社「りぼん」昭和51年6月号~8月号、白いカップにお茶の色/集英社「りぼん」昭和52年6月号、ローズ・ラベンダー・ポプリ/集英社「りぼん」昭和52年8月号
書 名/フランス窓便り
著者名/田渕由美子
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/340円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1978年7月10日
収録作品/フランス窓だより、白いカップにお茶の色、ローズ・ラベンダー・ポプリ
初出:フランス窓だより/集英社「りぼん」昭和51年6月号~8月号、白いカップにお茶の色/集英社「りぼん」昭和52年6月号、ローズ・ラベンダー・ポプリ/集英社「りぼん」昭和52年8月号
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)