おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】226回 あのころの風景/田渕由美子

あのころの風景 「うちの本棚」、田渕由美子の単行本を紹介するシリーズの最後は『あのころの風景』を取り上げます。

 田渕由美子は個人的にも「あのころの風景」だったのかもしれないなあ、なんて思ってしまうのですが…あなたはどうでしょう?

  • 【関連:225回 夏からの手紙/田渕由美子】

    あのころの風景

     「りぼんマスコットコミックス」の田渕由美子傑作集は『雪やこんこん』以来年一冊ペースで刊行されていた(ちなみに2冊目の『クロッカス咲いたら』から『夏からの手紙』までは7月(実質6月)の刊行だった)が、本書『あのころの風景』は前巻『夏からの手紙』から2年ぶりの刊行となった。また前巻まで表示されていた「田渕由美子傑作集」が本書にはない。

     収録作品も表題作『あのころの風景』が昭和56年作品であることをのぞくと『聖★グリーンサラダ』『マルメロ・ジャムをひとすくい』が昭和50年作品と、古い作品を収録している。
    『あのころの風景』はそれまでの田渕作品同様の展開ではあるが、ラストにいたってリアルな雰囲気を持ち込んできている。たいていはそういうものだし、漫画のような結末を経験することの方が少ないだろうが、田渕作品でそれを見るのは意外が気もした。
    『聖夜・粉雪ふりしきる』は田渕らしい作品といえばそうなのだが、昭和54年の作品ということを考えるとそれまでの作品の焼き直しのようにも思えてしまう。
    『聖★グリーンサラダ』は亡くなった姉の夫と同居する主人公という設定の作品で、いま読むといろいろとギリギリな印象を受けてしまったりもするのですが…。
    『マルメロ・ジャムをひとすくい』は海外が舞台の作品で、絵柄的には初期作品にも感じられる。

     田渕由美子はいまでも好きな作家のひとりには違いないのだけれど、結果として本書『あのころの風景』を最後に新作を読まなくなってしまった。
     ときどき、ふと読み返してみようかと思うことがあるのだが、もう長い間単行本を手に取っては見るものの、実際に読み返すことが出来ないことが何度もあった。読者としてのこちらの感性が変化してしていたこともあるのだろうが、70年代後半当時の世界観が、ちょっと胸が痛くなるような感覚で、読むのをためらってしまうようなところがあったように思う。今回「りぼんマスコットコミックス」を6冊読み返したのも、実際20数年ぶりではないかと思う。懐かしい友達に会って思い出話をしたような、そんな気分だった。

    初出:あのころの風景/集英社「りぼん」昭和56年2月号別冊ふろく、聖夜・粉雪ふりしきる/集英社「りぼん」昭和54年12月号、聖★グリーンサラダ/集英社「りぼん」昭和50年12月号、マルメロ・ジャムをひとすくい/集英社「りぼん」昭和50年3月号

    書 名/あのころの風景
    著者名/田渕由美子
    出版元/集英社
    判 型/新書判
    定 価/360円
    シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
    初版発行日/1982年4月20日
    収録作品/あのころの風景、聖夜・粉雪ふりしきる、聖★グリーンサラダ、マルメロ・ジャムをひとすくい

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】225回 夏からの手紙/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】224回 林檎ものがたり/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】223回 フランス窓便り/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】221回 雪やこんこん/田渕由美子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    2. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    3. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    4. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    5. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト