「うちの本棚」、田渕由美子の『林檎ものがたり』を今回は取り上げます。
林檎をモチーフとした3つのエピソードからなる『林檎ものがたり』は『フランス窓便り』と並ぶ田渕の代表作のひとつ。読み始めたら止まらない田渕ワールドが展開されています。
本書には『フランス窓便り』と同じく3話から成るオムニバス形式の『林檎ものがたり』と短編2作が収録されている。
『林檎ものがたり』のエピソード1は、珍しく男性が主人公のストーリー。好きになった女性に彼氏がいて、それが実は兄弟だったとか、やはり夫婦だったとか勘違いやすれ違いの展開はいつもの通り。エピソード2は『フランス窓便り』のパート2に似た印象を受ける。これまで脇役で何度か登場してきた「まゆこ」が主役のエピソードでもある。エピソード3も林檎を印象的に使ってはいるのだけれど、ちょっと強引な気がしなくもなかったり…。雪だるまの目に林檎を使うというのはいいと思いますけども。
『ブルー・グリーン・メロディ』はアメリカを舞台にした作品で『ポーリー・ポエットそばかすななつ』に設定が似ている。リメイクということではないが、同じアイデアの別作品といったところか。
実は最後に収録された『菜の花キャベツがささやいて』がもっとも注目に値する作品と言っていいだろう。というのもお互い大学生で新婚という主人公カップルが登場するのだが、これまで描かれてきたカップルたちのその後を描いたような作品になっているからだ。ハッピーエンドのあとでもあの主人公たちはその後どうなったのだろうと、ふと気になったりすると思うが、本作を読むとなるほどこんな風になっているのね、と納得しちゃうと思う。それがどの作品のその後かどうかではなく、田渕作品全体のその後として受け取れるところがまたすごいと思ってしまうのですが…。
この頃の田渕由美子は「りぼん」の看板作家になっていて、本書収録作品では『林檎ものがたり』のエピソード3以外は扉と冒頭数ページはカラー原稿となっている。
70年代末、「りぼん」の愛読者に東大男子がいるということが話題になったりもしたのだが、本書に収録された作品の登場人物たちはみな大学生。本来小学女子向けを対象にしていた雑誌であったはずなので、相当に掲載作品も実際の読者年齢も引きあがっていたことになる。小学生の頃から読んでいた読者がそのまま成長していったこともあるだろうが、なにより作家側も高校生くらいでデビューして大学生や社会人になり、自分と同年代の主人公を描いていたということが大きかったような気がする。
初出:林檎ものがたり/集英社「りぼん」昭和52年10月号~12月号、ブルー・グリーン・メロディ/集英社「りぼん」昭和54年1月号、菜の花キャベツがささやいて/集英社「りぼん」昭和54年4月号
書 名/林檎ものがたり
著者名/田渕由美子
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/340円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1979年7月19日
収録作品/林檎ものがたり、ブルー・グリーン・メロディ、菜の花キャベツがささやいて
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)