おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】224回 林檎ものがたり/田渕由美子

林檎ものがたり 「うちの本棚」、田渕由美子の『林檎ものがたり』を今回は取り上げます。

 林檎をモチーフとした3つのエピソードからなる『林檎ものがたり』は『フランス窓便り』と並ぶ田渕の代表作のひとつ。読み始めたら止まらない田渕ワールドが展開されています。

  • 【関連:223回 フランス窓便り/田渕由美子】

    林檎ものがたり

     本書には『フランス窓便り』と同じく3話から成るオムニバス形式の『林檎ものがたり』と短編2作が収録されている。
    『林檎ものがたり』のエピソード1は、珍しく男性が主人公のストーリー。好きになった女性に彼氏がいて、それが実は兄弟だったとか、やはり夫婦だったとか勘違いやすれ違いの展開はいつもの通り。エピソード2は『フランス窓便り』のパート2に似た印象を受ける。これまで脇役で何度か登場してきた「まゆこ」が主役のエピソードでもある。エピソード3も林檎を印象的に使ってはいるのだけれど、ちょっと強引な気がしなくもなかったり…。雪だるまの目に林檎を使うというのはいいと思いますけども。
    『ブルー・グリーン・メロディ』はアメリカを舞台にした作品で『ポーリー・ポエットそばかすななつ』に設定が似ている。リメイクということではないが、同じアイデアの別作品といったところか。

     実は最後に収録された『菜の花キャベツがささやいて』がもっとも注目に値する作品と言っていいだろう。というのもお互い大学生で新婚という主人公カップルが登場するのだが、これまで描かれてきたカップルたちのその後を描いたような作品になっているからだ。ハッピーエンドのあとでもあの主人公たちはその後どうなったのだろうと、ふと気になったりすると思うが、本作を読むとなるほどこんな風になっているのね、と納得しちゃうと思う。それがどの作品のその後かどうかではなく、田渕作品全体のその後として受け取れるところがまたすごいと思ってしまうのですが…。

     この頃の田渕由美子は「りぼん」の看板作家になっていて、本書収録作品では『林檎ものがたり』のエピソード3以外は扉と冒頭数ページはカラー原稿となっている。

     70年代末、「りぼん」の愛読者に東大男子がいるということが話題になったりもしたのだが、本書に収録された作品の登場人物たちはみな大学生。本来小学女子向けを対象にしていた雑誌であったはずなので、相当に掲載作品も実際の読者年齢も引きあがっていたことになる。小学生の頃から読んでいた読者がそのまま成長していったこともあるだろうが、なにより作家側も高校生くらいでデビューして大学生や社会人になり、自分と同年代の主人公を描いていたということが大きかったような気がする。

    初出:林檎ものがたり/集英社「りぼん」昭和52年10月号~12月号、ブルー・グリーン・メロディ/集英社「りぼん」昭和54年1月号、菜の花キャベツがささやいて/集英社「りぼん」昭和54年4月号

    書 名/林檎ものがたり
    著者名/田渕由美子
    出版元/集英社
    判 型/新書判
    定 価/340円
    シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
    初版発行日/1979年7月19日
    収録作品/林檎ものがたり、ブルー・グリーン・メロディ、菜の花キャベツがささやいて

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】226回 あのころの風景/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】225回 夏からの手紙/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】223回 フランス窓便り/田渕由美子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】221回 雪やこんこん/田渕由美子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備

      ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備

      ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(東証プライム:3765)は8月14日、同社の元幹部…
    2. 湖池屋「ストロング 爽快本わさび」実食 刺激と旨みの絶妙ハーモニー

      湖池屋「ストロング 爽快本わさび」実食 刺激と旨みの絶妙ハーモニー

      湖池屋のポテトチップス「湖池屋ストロング」ブランドより、「ストロング 爽快本わさび」が、8月4日に全…
    3. カプセルトイ「ミニチュアリングライト」レビュー 小物撮影のお供を試してみた

      カプセルトイ「ミニチュアリングライト」レビュー 小物撮影のお供を試してみた

      8月初旬より全国のカプセルトイ売場に登場している「ミニチュアリングライト」。その名の通り、手のひらサ…

    編集部おすすめ

    1. マクドナルドのポケカ騒動 期間中の店舗を訪れた記者が感じた“異様な雰囲気”

      マクドナルドのポケカ騒動 期間中の店舗で感じた“異様な雰囲気”

      マクドナルドは8月11日、ハッピーセット「ポケモン」のポケモンカードキャンペーンを巡る混乱について公式サイトで謝罪しました。期間限定カードを…
    2. 「珍しい苗字」より盛り上がる? 地域特有の苗字をまとめた地図が話題

      「珍しい苗字」より盛り上がる? 地域特有の苗字をまとめた地図が話題

      大学進学や就職で交友関係が広がると、今までの人生で見たことがない苗字を持つ人と知り合いになることがよくあります。見慣れない苗字に遭遇したとき…
    3. 「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……

      「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……

      累計販売90万本を超える人気作「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』~おわらない七日間の旅~」が、初めてスマートフォンで遊べるようになり…
    4. ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入

      ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入

      ソフトバンクは、2025年8月16日と17日に東京ビッグサイトで開催される「コミックマーケット106」で、来場者が快適に通信サービスを利用で…
    5. 誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      育児用品メーカーのピジョン株式会社は8月6日、同社が2023年6月より販売している管理医療機器「電動鼻吸い器 SHUPOT(シュポット)」に…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト