コロッカス咲いたら 「うちの本棚」、田渕由美子の2冊単行本『クロッカス咲いたら』をご紹介します。

 収録作品中『やさしいかおりのする秋に』は個人的にも好きなのですが、田渕由美子の作品集を編む機会があれば必ず収録したい作品のひとつです。

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コロッカス咲いたら

 本書は田渕由美子の2冊目の単行本になる。『10年めの夏』『HAPPY BOXをあけたのは?』の2作は70年代前半の初期作品で、絵柄もまだ固まっていない印象だ。

 田渕の作品のなにを最初に読んだのかはっきり覚えていないのだけれど、この『クロッカス咲いたら』がそうだったのではないかと思う。かなり久しぶりに読んでみたが、収録された作品はどれも王道という印象のもの。また日本国内を舞台にした作品の多い田渕には珍しく、外国を舞台にしたものが2編(『HAPPY BOXをあけたのは?』『ポーリー・ポエットそばかすななつ』)含まれている。

 正直なところ表題作である『クロッカス咲いたら』はすぐに落ちも展開も読めてしまうところがあって、収録作品の中では一番印象が薄かったりする。まあ、憧れの男性に付き合っている彼女がいるらしいという勘違いやその彼女が実は…というのも王道であって、だからこそ「やっぱり」というところなのではあるけれども。
『HAPPY BOXをあけたのは?』はどこか竹宮恵子の作品のような匂いを感じる一編。絵柄的にはだいぶ固まってきている印象ではあるが、構成面ではまだもたついているような感じで惜しい。

 『ポーリー・ポエットそばかすななつ』は映画『ローマの休日』に影響されたかのような作品なのだが、主人公ファーンの、ポーリーに対する印象の変わっていく辺りは田渕らしさが出ているだろう。もっともこの作品が収録作品中で一番最新のものだということを考えれば、なるほどというところではある。

 個人的に好きなのは『やさしいかおりのする秋に』だ。
童話作家が登場する作品だが、そういえばこの頃の少女漫画には童話作家がよく出ていたような気がする。また個人的にも立原えりかの作品を読んだのも同じ時期で、童話というジャンルが流行っていたような気がしないでもない(立原えりかの作品は童話だけど少女漫画チックな世界観でしたよねえ)。

 手元にあるのは1977年12月10日発行の第4版。この年は田渕さんもそうとう印税収入があったのだろうと思います。

初出:クロッカス咲いたら/集英社「りぼん」昭和51年3月号、10年めの夏/集英社「りぼん」昭和46年夏休み増刊号、やさしいかおりのする秋に/集英社「りぼん」昭和51年11月号、HAPPY BOXをあけたのは?/集英社「りぼん」昭和48年10月増刊号、ポーリー・ポエットそばかすななつ/集英社「りぼん」昭和52年1月号

書 名/クロッカス咲いたら
著者名/田渕由美子
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/340円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1977年7月10日
収録作品/クロッカス咲いたら、10年めの夏、やさしいかおりのする秋に、HAPPY BOXをあけたのは?、ポーリー・ポエットそばかすななつ

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/