皆様、長らくお待たせいたしました。ただいまより、大衆演劇 劇団颯の颯まさき座長による特別舞踊ショー1幕を開演いたします。
演目は、作詞・作曲 黒うさP、歌・小林幸子による『千本桜』。
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突然の始まりとなってしまいましたが、みなさん、大衆演劇という演劇文化をご存じでしょうか?
冒頭で紹介した動画は、その世界のごくわずか。本文に入る前に、大衆演劇の魅力を少しでも感じ取っていただきたいと思い、今回記事に全面協力いただいた、劇団颯の颯まさき座長に、即興で『千本桜』を舞っていただきました。
「即興で踊りの振り付けから衣装の用意までできるの?」なんて声が聞こえてきそうですね。では次から大衆演劇の魅力、広く知られざる独特の世界についてご紹介していきたいと思います。
■芝居のレパートリーは100超!!!
大衆演劇の舞台は、第1部『芝居』、第2部『舞踊ショー』で構成される場合が多く、上演時間は大体3時間。
一か所の公演場所で各月1日から30日まで、つまりまるまる一か月間公演します(うち休演日は0~4日)。1日1~2回公演されるわけですが、実はほぼ毎日・毎回異なる演目を上演しているのです。
そのため、1劇団につき『芝居』のレパートリー100以上(多いところで200と言われています)、『舞踊』のレパートリーも100以上あるといわれており、まさに「舞台におけるプロフェッショナル集団」なのです。
■芝居の台詞は先輩を観て覚える
大衆演劇には『台本を使った稽古』というものは殆どなく、台詞は全て先輩が演じるのを観て覚えるという、昔ながらの手法で引き継がれています。そのため、大衆演劇の役者達は、一般に比べ恐ろしいほど記憶力が発達しているのです。
まさき座長の話によると、ある劇団の座長の場合は舞台稽古1回こっきりで全員の台詞を丸暗記してしまうのだそう。ちなみに今回舞っていただいた『千本桜』も、まさき座長は1回聴いただけで殆どの歌詞を暗記してしまいました。本当に凄い!
ただ最初から記憶力が発達していたわけではなく、まさき座長の場合には、高校を卒業し会社員時代を経て20歳でこの世界に飛び込んだそうですが、最初はやはりそこまで早く覚えることはできなかったそうです。日々の鍛錬から、記憶力が磨かれていったそうですよ。
■衣装は全て自前!
今回の無茶ぶりにもかかわらず、すぐにご用意いただいた豪華衣装。(今回は幕もご用意いただきました。)
なぜこんな急な事にも対応できたかというと、舞台で使用する衣装の殆どが皆さん個人で用意する自前衣装だからなのです。
すごく嫌らしい話になりますが、まさき座長に「大体何着ぐらいお持ちなのですか?」と聞いてみたところ、「数えた事はないけれど百は軽く超える」との話。
衣装は先輩達からゆずりうけたり、自分で貯めたお金で少しずつ用意するそうです。まさしく、人生全てを舞台に捧げる。そんな姿が見えてきました。
そうした状況が基本にあるため、今回のような無茶なお願いにも、比較的柔軟に対応いただけたのです。でもこういう事は普段からできることではなく、今回は記事のために特別に叶えていただいたこと。
その点、どうぞ読者の皆様にはご理解いただきたいと思います。
さてさて、次からは大衆演劇の観劇について、大衆演劇ファンの方にもご協力いただきご紹介したいと思います。
■コストパフォーマンスとファンサービスが異常にいい!
大衆演劇は基本、大衆演劇の専用劇場または健康センターなどで公演されます。
入場料は健康センターの場合、健康センターの入場料のみで観劇できるか、場所によっては別途500円から1000円程度の追加料金で観劇できるそうです。専用劇場の場合には、大体1000円から2000円の間ぐらいがチケット料金。健康センターにしても専用劇場にしても、映画館で映画を観るのとほぼ同じ金額で生の舞台が3時間も観られるということ!
大衆演劇のファンの方によると、「一般の舞台よりも格安なので何度も足を運べる」「観たいときにいつでも観られる」「気持ちが落ち込んで今観たいという時に行ける」など気軽さが特に喜ばれているようです。
また舞台が終わると役者さんによる『お見送り』(『送り出し』とも言う)というものがあり、その時にあくまでもおまけのサービスとして、話せたり記念撮影に応じて貰えたり出来る場合があり、一般の舞台ではなかなか味わえない役者さんとの触れあいも楽しめます。
その他、まさき座長によると「前の方に座っているお客さんは芝居のアドリブで弄(いじ)られるケースがあります。特に楽しみたいという人は前に座るのがお勧め♪」との話も。
記者は取材を通して何度か舞台を拝見しましたが、確かに舞台前あたりに座っているお客さんは芝居中、役者さんが話しかけてきたり、またまた役者さんが小物を落としてしまった場合には、お客さんがスッと拾って差し出しフォローするなど、なんだか「ゆる~い」けど心地良い場面を見かけることがありました。
「役者と客が一体の舞台」それも大衆演劇の魅力の一つだと思います。
■大衆演劇の華といえば『お花』!
テレビの大衆演劇特集で見かけたことのある人が多いのではないでしょうか?
舞踊ショーの最中、お客さんが役者に付けてあげるお金の事です。
テレビなどの報道では、その場面だけが切り取られるため「お金そのまま出すなんて下品」なーんて印象をお持ちの人も多いはず。
実は記者も観る前はその一人でした。でも実際観ての感想は『花=役者の華』なんだなと。
花を付けられるという事は、その役者に人気があるという証。知らない人にとっては「あの役者さん人気があるのね」と知るきっかけにもなり、他のお客さんが役者に花を付ける瞬間というのは、それ自体がショーの一部にも感じられました。
お花が差し出されれば差し出されるほど、役者は綺麗に光り輝いていく。実際、そうして出されたお花は、役者さんの着物に替わって一層彼らを美しく彩る『華』となるのです。
ちなみに『お花』は付けられる人だけが付ければいいという『粋』な応援方法。無理に付ける必要はありませんし、付けないからといって引け目を感じる必要は全くありません。役者さん達はそんな事ではファンを一切差別しません。
できる人だけがすればいい。そういう楽しみ方なのです。
■大衆演劇ファンに聞いた「お花のつけかた」
観る前はどこか嫌らしいものに感じていた『お花』。でも実際観ての感想は「なんだかカッコイイ!」というものでした。というわけで、実際のファンの方に『お花』の気になるアレコレを聞いてみました。
まず金額についてですが、特に大きな決まりはなく。本当に客の「気持ち」でいいのだとか。千円という人もいれば、数万円つけるという人もいて金額はつける人次第。
そして最近ではお花をつけるときに、客側がヘアピンを用意してそれで着物に留めてあげるということが主流になっているようです。
ヘアピンは劇場で売られていることもあるそうですが、プロのお客さんになると、役者さんの着物の色やセンスにその場であわせられるよう、数種類の封筒やヘアピンをあらかじめ用意してその場で包んで付けるんだとか。お花を付ける客にとっても、それ自体がエンターテインメントの一つとなっているようです。
なお付けるタイミングについてですが、まさき座長の話によると、ショーのタイミングで気に入った役者が花道に出てきた時に、すすっと前に出てもらえると、役者さんからリードしてくれるそうですよ。
■大衆演劇のこれから
大衆演劇は業界全体で100を超える劇団が存在しているそうですが、廃業したり活動を休止する劇団が少しずつ増えてきているそうです。
理由は大衆演劇から客が遠のいてるということではなく、「人材不足」が大きな原因だそう。大衆演劇の場合には、芝居だけでも最低5人程度の役者が登場します。多いものでは10人になることも。
そのためある程度の人数が必要となってきますが、最近では大衆演劇を知らない若者が増え、入団希望者が減ってきているんだとか。
ちなみに、劇団颯の場合だと入団希望者については、常に門戸を開いているそうです。年齢については、未成年でも可能ですが、その場合は保護者の同意が必要。ただし入団相談はいつでも応じてくれるそうです。なお、応募についてはその時に劇団が公演中の健康センターなどのフロントに「この劇団に入団したい!」と相談すると、座長に話しが通る仕組みになっているそうですよ。
他にもネット応募も受け付けているそうですが、「できれば一度その劇団を観てから応募して欲しい」とのことでした。
そして肝心な大衆演劇俳優の素質については「団体生活ができること」と、まさき座長は強く仰っていました。公演中は一日中他の団員が側にいて、若手時代の寮生活では相部屋という環境。
ただ慣れると、座長=親、団員=子供的な空気感になってくるそうで、居心地が良すぎる場合も……。でもミッチリ芸事は仕込まれるそうなので、もし入団希望をされる方はその点お覚悟を。
■大衆演劇を観に行こう!全国約100カ所で絶讃公演中!!
大衆演劇が観られる劇場は、全国に約100カ所存在しています。そして100を超える劇団が、日々どこかで大衆演劇の舞台を上演しつづけているのです。
「健康センターのついでに」「時間が空いたから」そんなちょっとした時間があれば是非一度、大衆演劇の世界に足を踏み入れてみて下さい。生の舞台というものは、何だか不思議なエネルギーを感じることができますよ。
そして最後になりますが、一応大事なことなので書いておきます。
今回、記事に全面協力いただいた、劇団颯の颯まさき座長は「男性です」。たまに勘違いしてプロポーズする殿方がいるとのことで、普段の舞台では踊りの後に一声男声で挨拶してから去るようにしているそうです。今回の動画ではそれがないので、一応注意書きしておきました。
協力:
大衆演劇 劇団颯 颯まさき座長
大衆演劇ファン(匿名希望のため個々の名前は伏せています)
撮影協力:
大衆演劇 劇団颯 颯元気、颯紫龍、颯翔
撮影場所:
みのりの湯 柏健康センター
※1年中様々な大衆演劇の劇団が公演しています。
技術アドバイス:
ニコニコオーケストラ主宰 KohMei
参考:
わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記(木丸みさき著/メディアファクトリー)
(取材:宮崎美和子/伊藤真広)