キャラクターグッズの企画・製作などを手がける株式会社ブロッコリーが、同社のTwitterを通じて二次創作のガイドラインを改めて紹介し、二次創作で認められる使用の仕方について喚起している。

<ブロッコリーCD(@BROCCOLI_CD)より>
・当社コンテンツに関連した二次創作物に関しましては、非営利目的かつ私的な配布に限り認めております。
・直接的にコンテンツの素材(イラスト、動画、音声、楽曲等)を引用、あるいはスキャン・トレース等を行い使用する事を禁止とさせていただきます。

【関連:ニトロプラス『二次創作ガイドライン』で“同人誌等”の扱いを緩和】

■趣味で行える二次創作範囲を誤ってしまう人々

 今回ブロッコリーが何故突然、こうした案内を行ったのは定かではないが、コミックマーケット直後という事を考えると、このところ発生している「趣味(同人)で行える二次創作の範囲」を超えてしまった商品・販売方法が影響しているものと思われる。

 ブロッコリーでは以前より、特にインターネットを通じて同社コンテンツの二次創作物を販売する者に対しては、直接警告を発するなど厳格な対応を取っていた。中でも音楽コンテンツに関してはCD音源を無断で配布したりダウンロードさせる行為は違法であるとして、悪質な場合には刑事告訴も検討すると宣言している。 一方で二次創作についてはかねてから深い理解を示しており、コミックマーケットへの企業出展は過去何度も行っていることをはじめ、二次創作のガイドラインはいち早く公開するなど、趣味(同人)の二次創作活動については「基本は応援する」スタイルの企業。

 筆者は以前つとめていた会社で、ブロッコリー同様コンテンツの著作権管理や企画を行っていた経験がある。 そうした目線からみると同社のガイドラインには、「趣味の二次創作」と著作権者が判断する基準がしっかりもりこまれつつ、非営利ファンサイトに対しては公式サイトの素材を使って良いとファン活動を応援する内容も含まれている。

 要約すると次の通り。

【二次創作について】

・「非営利目的かつ私的な配布に限り」二次創作可能
・公式素材の使用禁止(引用、スキャン、トレースも不可)
・「グッズ、フィギュア、コスプレ等」のインターネットでの販売禁止
・作品やキャラクターイメージを損なう内容は禁止

【ファンサイトへの画像使用許可】

・「非営利目的かつ私的領域」であれば公式サイト上の素材をファンサイトで使用することは可能。ただし著作権表記及び再利用を禁止する内容を明記すること。
・画像の過度なリサイズ、加工は禁止。
・公序良俗に反するサイト、作品イメージを損なうページでの使用は禁止。

ブロッコリー公式サイトより

■趣味の二次創作に許される範囲

▼著作権法上の解釈

 著作権管理の仕事を行っていた時代に、よくこんな問い合わせがあった。「(○○を使った)趣味の二次創作活動を行いたいのですがいいですか?」。そうなると答えは「NO」もしくは「正規の許諾申請を行ってください」となる。 恐らく今でもそういう会社は多いのではないだろうか。

 趣味で行う二次創作は今では「無許可」が当たり前のようになっているが、本来は趣味でも商業でも著作権者に許可を得て製作することが必要。これは電話で済む話ではない。 そのため、ブロッコリー、そしてニトロプラスのように「趣味の二次創作活動であれば無許可でも可」と活動自体認める発言をしている企業の方が少ないはず。

 著作権法上には、「二次創作」という言葉がないので、類似を探すと恐らく「二次的著作物」になると思われる。 二次的著作物つくるためには、原著作権者(一次著作権者)から許諾を得て、契約内容によっては商品監修、取り決められた利用料を支払いなどをクリアし製造・販売されるべきもの。もちろん正しく許可申請をしても、生産物の内容が不適切とみなされれば断ることもある。ちなみに著作権法上で原著作者は二次的著作物に対し二次著作権者と同等の権利を持つと定められ、二次著作者は原著作権者に無断で第三者に対し更なる再利用を許可できないことになっている。

 つまり二次創作物は、有償無償どちらの方法であっても無断である以上は作っても、配っても違法ということになる。

▼でも何故今は無断で作られた二次創作物が販売されているのだろう?

 一言で言うと「黙認」。見て見ぬふりをしてくれているだけで決して認めてはいない。

 見て見ぬふりをする理屈としては「正規品に影響を及ぼすほど大量に売られているわけではないから」「販売範囲が制限されているから」「ファン同士の交流につながるから」などがある。これらを理由に「趣味の範囲(ということにしておこう)」という解釈で、各企業が波風立てないようにしてくれているだけだ。

 ただし会社によっては、いきなり波風を起こすところもある。
有名な話だと「黄色いネズミ同人誌事件」(1999年)。某人気作品をテーマにした同人漫画を製作・販売した人物が、著作権法違反(複製権の侵害)容疑で逮捕された出来事。この時はいきなり刑事告訴されている。

■黙認される「趣味の二次創作の範囲」のライン

 先にも触れたように、無許可で作られる二次創作物は基本「違法」となる可能性が高い。しかし現状は黙認するところがほとんど。
でもその中には、超えてはならない一線があり、このブロッコリーのガイドラインではしっかり紹介されている。

▼「非営利目的かつ私的な配布に限り」二次創作可能

 趣味の二次創作が黙認される第1の理由は「非営利目的」。利益を得ない趣味であれば配布可能ということ。
ブロッコリーがこれをどこまで厳密にするかは分からないが、同人誌即売会に行けば金銭をもって売買されているため、それを「営利行為」と判断することもできる。でも実際は黙認しているところが多く、「販売数量が少ないため利益は出せないだろう」と解釈している部分。 製造原価+その他かかった経費でトントンになる金額で売買されるのが理想だ。 

 そのため大量生産で、利益を得ていると思われる二次創作物については、後で問題となることがある。
 有名な事例が「青い猫最終話同人誌問題」(2005年)。この時は絵柄および書籍の装丁が原作に酷似していたことが理由の第1にあるが、発行数が1万3000部と大量であることも問題視された。後から作者は著作権管理会社に謝罪し、売り上げの一部を支払ったと当時報道されている。

▼公式素材の使用禁止(引用、スキャン、トレースも不可)

 いわゆる「公式絵」をそのまま使用するなということ。公式絵を使った作品は「趣味の二次創作物」ではなく、模倣品・海賊版という扱いになる。新たに創作したものでも、似た絵柄、同じ構成のものは「トレース」とみなされる。
 逆に、同じ構図のものであっても、原作とは明かに違った絵柄、小道具、衣装など工夫し別作品と分かるものであればパロディとして許容される場合はある。何事も程度次第。

 最近の趣味の二次創作物の中には原作一部分を無断でそのまま掲載したり、中には公式絵を用いたグッズの販売、公式グッズの類似品を販売しているところがある。類似品といっても、ちょっと変えたものもあり、著作権者からすれば恐らく迷惑この上ない事態になっていると思う。

 対象は公式絵、音源、映像、漫画の中身、会社や物によっては「フィギュアの写真」を公式絵と同等と判断するところもある。フィギュアには原型となったイラストやデザインが存在するからだ。

 フィギュアメーカーでは、この権利を認識しており、私的利用を超えた無許可での写真取り扱いは厳しい対応をしているところもある。 フィギュアの場合には公式写真集が出されることもあるため、直結して売り上げに影響しやすいからと思われる。しかし、ファン活動としての公開については、寛容な対応をとっているところもあるので、その点は各社の方針を各自で調べて欲しい。

 なお、公式素材といっても、次のような場合は自由に使用できる。例えば部屋の中や外で景色の中にキャラクター(テレビ画面、ポスター、フィギュア)が写り込んだ写真、販売を目的としない限られた範囲での私的利用(ただしデジタル複製は不可など細かい不可条件あり)、商品紹介、報道利用、教科書利用などがある。

▼「グッズ、フィギュア、コスプレ等」のインターネットでの販売禁止

 最近では、安価に大量生産を引き受ける製造業者が増え、グッズ類については少ない素材で、大量生産できるようになっている。同人誌は作るのでもかなり手間暇がかかるが、グッズ類についてはイラスト1枚あれば簡単にできてしまう世界。 そんな簡単に作れる状態で、インターネットを通じて販売させてしまえば、流通の幅が広がり明らかに「趣味の範囲」ではなくなるとして制限される部分だ。

 以前は同人グッズと公式グッズの棲み分けができていたが、インターネットの普及や、技術の向上、グッズ類の安価生産が大量登場・大量流通をあとおししてしまっている。
著作権者にしてみれば、特に似たりよったりになりがちなグッズ類があまりに出回るのは、迷惑この上ない事態。売り上げにも大きく影響するだろう。オリジナルあっての同人二次創作ということは決して忘れないで欲しい。

 なお、このガイドラインには記されていないが、筆者の経験上で各著作権者が最も嫌がるのは「同人二次創作物のダウンロード販売」。この場合、漫画、イラスト問わずとなる。 以前つとめていた会社に、同人誌のネット書店を開きたいので許可して欲しいという相談がもちこまれたことがある。当時所属していた会社はもちろん、どの会社も利用NGを出していた。 理由は、ダウンロードという原価をかけない方法で、インターネット上という広く見られる場で販売する行為は「趣味の二次創作」ではなく、もはや「商業」と判断したから。

 インターネットで許されるのは「同人誌」の販売程度じゃないだろうか。それでも専門店からか直接通販のみが望ましいと思われる。

▼作品やキャラクターイメージを損なう内容は禁止

 これは完全に権利者の判断によると思われるが、例えば幼児対象のアニメキャラクターで卑猥すぎる18禁作品を描けばそれは、表現の自由ではなく「著作権侵害」と見なされる場合があり、逆に男児向け漫画・アニメ作品を18禁内容を含むボーイズラブ作品にしても、何のおとがめもないことがある。 あまりに過激な内容で、その商品が広く流通さえしなければ、おそらくある程度は黙認して貰える部分。何事もほどほどが肝心ということです。
 
 現役同人作家とつい先日話していたところ、「同人の世界って細いロープ一本を皆で渡っている状態なのよね」とぽつりと語っていたのが印象深い。
今どうしてここまで同人誌即売会の規模が大きくなり、趣味の二次創作も広く行われているかといえば、先人達が少しずつそのロープの長さを問題を起こさず延長してくれたおかげにある。
ただ、足下の状況はといえば今も昔も細いロープ一本であることに変わりない。単に長さが長くなっただけ。沢山の人が乗れるロープだけれども、誰か一人が落ちてしまえば、皆もろとも落ちてしまう世界。 この文化が10年後、20年後も残っていけること、同人誌ファンの一人として切に願っています。

(文:宮崎美和子)