2月11日に亡くなった漫画家の谷口ジローさん。『遙かな町へ』『犬を飼う』などの名作から『孤独のグルメ』の作画担当としても知られています。

【関連:孤独のグルメにヒントを得た『マニ車付き納豆かきまぜ棒』】

 1971年のデビューから多くの作品を発表していますが、世間に印象深いのはやはり久住昌之さんとタッグを組んだ『孤独のグルメ』。94年から扶桑社「月刊PANJA」で連載されました。しかし当時はヒットしたとは言い難く、2000年に発売された文庫版で徐々に火がつきご存知のブームが到来しました。2012年には松重豊さん主演で深夜ドラマ化され、2015年には2巻が発売され今もなお何かと話題になる作品です。

 『孤独のグルメ』は個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎が仕事の合間に立ち寄った店での食事を、淡々と独特なモノローグで語っていく物語。実在する大衆食堂などが舞台になっているため放映後にロケ地を訪れるファンも少なくありません。さらに五郎さんの表現により食に対する新しい発見をしたというファンも。五郎さんの独白は人気に火をつけた要因の一つで、例えば、焼肉屋で汗をかきながら「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」と肉を焼くシーンはその表現のインパクトで一躍有名となりました。その他にも豊かな表現が多彩で、ファンはニンマリとさせられました。

 多くの名作を手掛けた谷口さんですが、中でも筆者がオススメしたいのは川上弘美さん原作の『センセイの鞄』(双葉社)です。
37歳の主人公・大町ツキコが行きつけの大衆居酒屋で高校時代の“センセイ”と再会し、そこから飲み友達として緩やかな交流を始めるという物語です。川上作品のしっとりとした物語に谷口さんの飄々とした表情のキャラクターがそれ以上ないくらいに適合しており、風景やお酒の美味しそうな様子が丁寧に描かれています。

 SNSが交流手段として大きな割合を占めるようになったこの時代、人との付き合い方は軽くさらりとすることが美徳であるかのようにされていると感じます。しかし、その対極にあるような、あえてそうしすぎるほど考え込む谷口さんの心理描写に触れ、今一度人間は「考えれば考えるほどおもしろい」生き物であることを思い出してみるのもいいかもしれませんね。

<参考>
『孤独のグルメ』原作・久住昌之、作画・谷口ジロー 扶桑社文庫
『センセイの鞄』全2巻 原作・川上弘美、作画・谷口ジロー 双葉社

(貴崎ダリア)