世代は変われど男として生まれてきた人ならば、誰しも一度は悩み、対応に苦慮するといわれるのが「エロと家族(主に母)」という永遠のテーマ。
エロ本が主流だった時代には、母が部屋を掃除する際に発見され、大目玉をくらった経験のある人は数知れず。他にも小言を書いたメッセージがエロ本に添えられていた、勝手に捨てられたという体験談も枚挙にいとまが無い。
しかし時は流れ現代は「デジタルデータ」が主流の時代。エロ画像、エロゲー、エロ動画と全てはパソコンなどに納めることができるため、家族の目に晒されるリスクは昔よりも減少。性春を謳歌しやすくなっている。
ただしそんな時代だからこそ生まれた問題もある。それは、「鑑賞中の不意打ち入室問題」だ。桃色世界に没入しているタイミングでの家族による部屋への侵入。特にこの問題がより深刻なのは、エロゲーと呼ばれる存在。没入しすぎるが故に、事前の気配を察しにくく突入されると同時に何らかの対応を迫られる瞬間があるという。さらにエロゲーの世界はジャンルが幅広く、「家族にだけは知られたくない」「誰にも知られたくない!」という種類も存在する。そんなプレイヤー達の悩みをくみ取った「ママきたモード」なるものがこのところネット上を賑わせていた。
■「ママきたモード」誕生秘話
ネットには「すばらしい」「これを考えた人は神か」と賞賛の声が相次ぎ、中には涙顔の絵文字でその感動を示す人までも存在している。そんな多くの人から注目される「ママきたモード」搭載を決めた張本人であり、ゲームブランドIrisの代表でもある「ふくみみ」氏から大まじめに開発秘話を聞いてきた。
そもそも「ママきたモード」とはゲーム中、家族(主に母)が突然部屋へ来た時に対応するため考案された危機回避機能。そのためネーミングも襲撃例で最も多い「母親=ママ」を意識し「ママきたモード」としている。この機能は、あらかじめ設定しておくと、ボタン一発でゲーム画面を隠すことができる。
ふくみみ氏によると、「ママきたモード」の搭載は、例にもれず自身の苦い経験が後押ししているという。「実家住まいの頃に母に突入されたことがありまして……」ふくみみ氏は、在りし日の思い出を遠くを見つめつつそうぽつりぽつりと語ってくれた。その後何が起きたかまでは聞き出すことはできなかったが、ただ一言語ってくれたのが「いたたまれなかった」ということ。
そんな思いから生まれたのが「ママきたモード」。Irisにとって2作目となる2012年11月30日発売のゲームタイトルで実装開始した。以来リリースする、Iris全ての作品にこの機能を搭載している。
仕様は自身の体験を参考に「母の突然の襲来でも瞬時に対応できる」「ゲームデータに影響を与えない」よう工夫して作り上げた。ネーミングは即座に決まったそうだ。
設定は設定画面で「緊急回避」のチェックを入れ、ママが突然来てしまった時の対応の種類「偽装(ダミー画面表示)」か「強制終了」かを選ぶことができる。偽装画面は数パターンから選ぶことができ、強制終了でもオートセーブするよう工夫した。そして操作は誰かの気配を察したらBackSpace、Tab、数字(テンキーを除く)いずれかのキーを叩くだけで即実行。ターンと。これでゲーム画面を隠すことができる。
なお、この機能のそもそものアイデアは業界内で初というわけではない。しかしふくみみ氏は発案当初それを知らず、発案後に似たものがないか調べたところ先人達の足跡を目にすることができたという。「皆考えることは同じなんだと感じました」とその時の気持ちを述べている。
■届けられた感謝の声 「命を救われました!」
そうして2012年にデビューした「ママきたモード」。忘れた頃にネットで幾度となく騒がれるようになった。また続々とユーザー反応も寄せられるようになり、「ダミー画像があまりダミーになっていないのでは……」という意見、そして「命を救われました!」という感謝の言葉も勿論寄せられた。他にも「回避は出来たけどパッケージがバレて家族会議が開かれた」など、ユーザー自身のケアレスミスによる体験まで悲喜こもごもな声が届いたそうだ。
今では他社ブランドからも似たネーミングで似た機能が搭載されたのを稀に聞くという。これについてふくみみ氏は「そもそもが先人が遺したいにしえの救済機能ですが、ネタとしてでも今後浸透するといいですね」と笑いながら語っている。
普通は他社から似たようなものが出ると開発者としてはあまり面白い気分ではないことだろう。しかし、この件についてふくみみ氏は欲も何もなく、純粋に「一人でも多くのエロゲプレイヤーが救われること」。ただそれだけを願っているように見えた。
<取材協力>
Iris
(宮崎美和子)