おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

セガサターンの開発機と開発環境にまつわるエピソードはやはり熱かった 当時を知る元セガのテクニカルサポート担当・大岡良樹氏インタビュー

 1994年に発売された家庭用ゲームハード「セガサターン」。つい先日、その開発機を入手したというユーザーの記事を掲載しましたが、その流れで当時開発環境に関わっていた大岡良樹さんと話す機会に恵まれました。

  •  開発機についての誤った情報(初代開発機と紹介していたものが実は三号機だった)を指摘いただくという形での出会いでしたが、これはある意味思いも寄らぬ事態。

     せっかくなので、開発機の詳細な説明や、当時の開発環境等について聞いてみたいと思い、インタビューを申し込んだところ、快く承諾いただいたので、色々質問してみることにしました。

     その前に、大岡さんとやりとりをするきっかけとなった「開発機」について簡単に説明しておきますと、前回記事で紹介したものは本体に「PROGRAMMING BOX」と書かれた、開発機として三代目にあたる機器でした。

    写真提供:Ms factoryさん

    セガサターン開発機資料

     前二代は貸し出しで管理されていたことに対し、三代目は売り切りでリリースされていました。そのため、時折ネットオークションやフリマサイトに、珍しい品物として出回ることがあります。

     事前に見せていただいた当時の開発資料は紛れもない本物。一体どんな話が聞けるのでしょうか。

    - - - 

    --まずは大岡さん自身の経歴についてお聞かせください。

     1985年にセガ・エンタープライゼス(現、株式会社セガ)に入社。プログラマーとしてさまざまなタイトルの開発に携わりました。1990年開発の「RIBBIT!」が最後の制作タイトルで、その後はアメリカで「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」の開発にも携わりました。

     その後、1992年頃に日本に戻ってからは、セガの家庭用ゲーム機のディレクションを担当し、94年頃、セガサターン開発に際して、サードパーティの開発現場のテクニカルサポートの仕事が始まりました。

     社内開発部署のサポートだけでなく、外部の製作会社さんがうまく立ち上がり、予定している納期に間に合うようなクオリティで作れているかどうかの確認なども並行してありまして、サターンの時は「自社で作ったハードウェアやソフトウェアがこういう内容なので、参入してください」というような仕事を主導してやっていました。

    --まさに技術的なところと、営業の両方をこなしていたのですね。サターンの後はどのような役割を?

     サターンが一通り終わって、ドリームキャストが始まる時には、社内の方は賄えるようになったので、今度は営業部門に移って、開発会社を回って進捗管理を行う仕事に就きました。なかなかタイトルが出せない中で、エミュレータを作って過去のゲームの配信のサービスなども行っていました。

     ゲーム開発のプロジェクトをプロデュースしたり、タイトルのライセンス交渉など、ある程度やってみたものの、会社として「やっぱりドリームキャストやめるわ~」となりまして。

     そうなった時に今度は任天堂さんやソニーさんに行って、社内向けに機材だとか、ライセンスの申し込み方とか窓口になって、分社化した人達のサポートをやって、立ち上げが終わったところでリストラ対象となり、2003年にセガを退職した、という形です。

    --家庭用ゲーム機ハード事業から撤退して間もない頃、というわけですね。以降はどのようなお仕事をされているのですか?

     ゲーム業界で探していたんですが、タイトルを作るっていうよりはゲームマシンの世界観を作るような仕事をしていたので、燃え尽きちゃったんですね。

     やりがいのある仕事を探したんですけどなかなかなくて。ゲーム関係は諦めて、それ以降はエンジニアの仕事として、自動車部品の設計開発をやってます。

    --また思い切った方向転換ですね!驚きました。それでは次に、今回の開発機について、詳細をうかがえますか?

     先にお話しした通り、この開発機は三代目にあたるのですが、セガサターンが発売の年にあまり売ることが出来なかった要因の一つである、メインのSH2マイコンが量産できなかったんですね。そのため開発機材も遅れてしまったという経緯があります。

     93年9月の資料では、プログラミングボックスは二代目の、縦長の機材が書かれていて、これが最終形態になるつもりで進めていましたが、正式な量産チップが出来なくて。パフォーマンスの劣るチップしか載せられなかったので、三代目と差し替える形になりました。

     今と比べてPC能力がゲームハードよりかなり劣っていた頃の話です。そういうPCしかなかったゆえに、こうした機器を使わないと商品通りの挙動だったり、画像の状態だったりが再現できなかったんですね。それをカバーするためにこういう開発機材、最終量産チップと同等の性能を持った開発機材を用意して、開発会社に提供するというのが、当時のコンソールビジネスの立ち上げの第一歩でした。

    --当時の次世代機とはいえソフトの開発環境は決して恵まれてはいなかったのですね。ちなみに、この三代目の開発機はどのくらいの期間使われていたのでしょうか?

     大体94年の秋口くらいから出始めて、1年以内には国内の開発ラインに行き渡り、サターンタイトルが終わるまでお使いいただいていました。

    セガサターン開発機の資料

    --ということは、こちらが最終の開発機になるのでしょうか?

     これ以降も開発機はあります。海外ではこうした重っ苦しい開発機はいらない、ということがあって、市販ゲーム機のカートリッジスロットにI/Fボードを挿して、これとPCに接続するという開発機器が出てきます。「Psy-Q」と呼ばれる、本体のインターフェースを解析したものを、開発キットにしたものです。国内では「DEV-SATURN」というセガ純正の開発ツールがリリースされました。

    写真提供:Ms factoryさん

    --開発機にもさまざまな変遷があったのですね。あらためて当時の開発環境を振り返ってみて、特に思い出に残っているのはどのようなことですか?

     そうですね……。機材が1年に3回も更新されていくような開発環境だったので、どうしても新しいものがいろんな開発ライン間で取り合いになるんですね。

     こちらとしては最初に登録していただいていたセールスタイトルだったり、魅力的なタイトルを優位付けたいんですけど、コネを使って「うちにも回して欲しい」という声もあって。悪者にしかならない仕事でしたね(笑)。

    --それは確かに難しい立場ですね。実際にどこに機材を渡す、といった判断は大岡さんがされていたのでしょうか?

     決して私一人ではなく、開発部門・営業部門からなる立ち上げチームでどれを優先するか決めて、実際の開発状況はどうなのか等を加味して、お渡ししていた流れです。

    --開発状況はソフトの売れ行きを左右しますから、非常に慎重な判断が必要そうです。

     「早く渡してくれよ」って言われるんですけど、こちらとしては段階を踏んでそれなりにちゃんと動いているところにしか出せませんという方針でしたから、そこら辺のミスは怖かったというのはありますね。決して余裕のある仕事ではなかったです。

     セガサターンの時は、ゲーム業界への参入を希望していたマイクロソフトが協力してくれましたが、その時のWindowsCEは使い勝手がこなれなくて。ゲームにもマルチメディア化が求められる時代で、何が正解なのか模索しながら進むような感じでしたね。

     開発環境は今から考えれば「効率が低い」の一言なんですけども、それでも初めてのことばかりだったので、ちょっとしたことでもものすごく驚いて、「どうなるんだろう?」とワクワクできた時代でしたよ。

    --セガサターンは、個人的にも大変お世話になったハードです。インタビューに対してはもちろんですが、いちユーザーとしても改めてお礼を言わせてください。大岡さん、ありがとうございました。

    - - - 

     当時のゲームの開発現場は、今回紹介したように大型の開発機が必要になるなど、現在とは比較にならないほど不自由が多く、文字通り「正解がない」状態。逆にそうした環境だからこそ、未知なる未来に向けて楽しんで仕事に打ち込んでいた……。そんなプラットフォーム提供者としての、情熱や気概のようなものを、インタビューを通して感じ取れました。

     また、ゲーム史に刻まれた「次世代ハード戦争」と呼ばれた時代の一端を垣間見られたことも個人的に大きな収穫でした。セガサターンは結果的に負けてしまった立場ではありますが、強烈な個性を持つハードやソフトは、後のゲームにも大きな影響を与えました。その燦燦たる輝きの背景は、大岡さんのような熱い想いを持った仕事人が多く支えていたから、に他ならないのです。

    <記事化協力>
    大岡良樹(ookay)さん(@ookayoshiki

    <開発機写真提供>
    Ms factoryさん(@Msfactory23

    (山口弘剛)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「記録消去者即抹殺」25年前のメモリーカードに貼られた警告ラベルが不穏すぎる
    ゲーム, ニュース・話題

    「記録消去者即抹殺」25年前のメモリーカードに貼られた警告ラベルが不穏すぎる

  • 「龍が如く」キャラと結婚式!?さらには葬儀まで……20周年記念「冠婚葬祭展」が東京・大阪で開催へ
    ゲーム, ニュース・話題

    「龍が如く」キャラと結婚式!?さらには葬儀まで……20周年記念「冠婚葬祭展」が東…

  • 35年の時を経て蘇る!唯一の公式ゲーム「シティーハンター」が現行機に移植決定
    ゲーム, ニュース・話題

    35年の時を経て蘇る!唯一の公式ゲーム「シティーハンター」が現行機に移植決定

  • 早すぎた名機「バーチャルボーイ」が令和にまさかの復活 Nintendo Switchでプレイ可能に
    ゲーム, ニュース・話題

    早すぎた名機「バーチャルボーイ」が令和にまさかの復活 Nintendo Swit…

  • テレビ神奈川の新番組「第三学区」が想像以上にエモかった 加藤茶さんが自身登場のゲームに挑戦
    ゲーム, ニュース・話題

    テレビ神奈川の新番組「第三学区」が想像以上にエモかった 加藤茶さんが自身登場のゲ…

  • 加藤茶、伝説の“カトケンゲーム”に挑戦 新番組「第三学区」放送開始
    エンタメ, 芸能人

    加藤茶、伝説の“カトケンゲーム”に挑戦 新番組「第三学区」放送開始

  • 初代ゲームボーイがレゴで復活 421ピースの精巧モデル、10月1日発売へ
    商品・物販, 経済

    初代ゲームボーイがレゴで復活 421ピースの精巧モデル、10月1日発売へ

  • 「じゃじゃ丸くん」「シティコネクション」「フォーメーションZ」……ジャレコの名作MSXタイトルがSwitchで復活
    ゲーム, ニュース・話題

    「じゃじゃ丸くん」「シティコネクション」「フォーメーションZ」……ジャレコの名作…

  • 40代の携帯ゲーム機
    ゲーム, ニュース・話題

    スーファミ、CDプレイヤー、PHS……「40代の通ってきたデバイス」に共感

  • National Videogame Museumが投稿した「Earthquake」のグラフィック
    ゲーム, ニュース・話題

    「Earthquake」の名が記されたフロッピーに残された謎 未発表Atariゲ…

  • 山口 弘剛‌Writer

    記事一覧

    鹿児島出身・鹿児島在住。私生活では妻と共に2人の子どもを子育てしながら、地元のサッカークラブを熱烈応援中。仕事は元アパレル店長、元ゲームショップ店長を経験。現在はライター、イラストレーターとして活動。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 家が散らかっても、家具が壊れても愛おしい 「猫と暮らすということ」に共感の声
    インターネット, 感動・ほのぼの

    家が散らかっても、家具が壊れても愛おしい 「猫と暮らすということ」に共感の声

  • 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催
    イベント・キャンペーン, 経済

    職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

  • 待望の新作エピソードも 「あたしンちNEXT」、YouTubeで11月20日より配信決定
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    待望の新作エピソードも 「あたしンちNEXT」、YouTubeで11月20日より…

  • カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声
    ゲーム, ニュース・話題

    カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配…

  • Xで「ブロック確認サイト」装うフィッシング投稿拡散 Twilog公式が注意喚起
    インターネット, 社会・物議

    Xで「ブロック確認サイト」装うフィッシング投稿拡散 Twilog公式が注意喚起

  • 「ちいかわ」たちがリップのフタにちょこん キタンクラブの新作カプセルトイ「リップキャップマスコット」登場
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    「ちいかわ」たちがリップのフタにちょこん キタンクラブの新作カプセルトイ「リップ…

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    2. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    3. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    4. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    5. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト