おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

自殺の場面や事件現場を撮影してSNSに投稿する人たち

 SNSというツールが当たり前になり早10数年。利用の仕方は人それぞれで、ライフログ的に時々の出来事をつぶやく人から、自分の主義・主張を発信する人。さらには「注目されたい」と目立つことを目的に発信する人も存在し、中にはSNSを通じて有名になる人も今や珍しくありません。ただしそれらは、良い方面での目立ち方がほとんど。

 そうした利用以外で近頃問題視されている使われ方があります。それは、「人の生死に関わる」事件のその瞬間を撮影して投稿する行為。いずれもショッキングな内容ばかりで、物議をかもしています。

  • ■ 自殺の場面や事件現場を撮影してSNSに投稿する人たち

     ごく最近には、飛び降り自殺の様子をうつした動画が投稿され物議をかもしました。この時は多くの人が現場の状況についてつぶやきをのこしており、今にも飛び降りそうな女性に対し多くの人がスマホのカメラを向けていたことに疑問を投げかける声もありました。

     そうして撮影されたいくつかの動画や写真が、直後にSNS上へ投稿され拡散。さらには、運営者不明の「まとめサイト」と呼ばれるサイトも通じて、SNSの外までにもその映像が知られることとなったのです。

     他にも、女性が男性を刺した事件では、発生直後の写真が出回ったケースも。どういう経緯で撮影されたものかはわかりませんが、集合住宅のロビーと思われる場所で横たわる男性、その横には男性を刺したと思われる女性の姿が。そして画面には、駆けつけたばかりの警察官も写っていました。

     これら写真などがネットに投稿されるや、瞬く間に拡散され、さらに転載も重ねられて延々と拡散される現象が当たり前のように起きています。投稿についたコメントを見ると「怖い」といいつつも興味津々な意見や、もちろん投稿を批判する声に撮影者のモラルを疑う声。逆に「かたいことを言うなよ」といった意見も。

    ■ 海外では「暗殺」の一部始終がSNSに投稿されたケースも

     海外でも日本と同じようなケースがありますが、自分で起こした事件を生中継したケースも起きています。自分で発信するメディアを手にしたことで、ある種の「劇場型犯罪」を起こしやすくしている、という考察も見られます。

     また、ある国の反対勢力の重要人物が、白昼堂々と暗殺される様子を、その人物に同行していた人によってSNSに投稿される、という事件もありました。これは事件を予期していたわけではなく、単に街中を徒歩で移動している様子を並んで撮影していたところ、すれ違った人物から至近距離で銃撃され、結果的に死亡したものです。実行犯はその場で取り押さえられました。この場合は、その人物が「暗殺された」ことを世界に知らしめるために、信念をもって映像が投稿された、というケースでした。

     これは少し特殊なケースですが、SNSという“自分自身で世界中に発信できるメディア”を手にしたことで、場合によっては既存の報道メディアが報道しない(できない)事件などを直接世界中の人々に届けることも可能になったのです。

     もちろん、多くの場合は偶然遭遇した事件や事故の様子を「こんなことがあった」と身の回り(友達やフォロアーなど)に、世間話の延長で投稿されるもの。そしてそれは、時に全世界に波及する「衝撃映像」となって本人の思惑を超え、拡散していきます。その反響の大きさに耐えかねて、SNSのアカウントを閉鎖する人も少なくありません。

    ■ 声を大にして意見したくても意見しにくい状況

     SNSという文化は歴史が浅いこともあり、モラルの形成や共有が追いついていないのが現状です。人の生死に関わる事件現場でカメラを向け、さらにネットに投稿する人の多くは、恐らく深く考えずに興味だけで行動しているのではないでしょうか。しかし、その様子はまるで衝撃映像のスクープ合戦。

     一方でこれに疑問を持つ人も、先に紹介したとおり少なくありません。しかし、声を大にして意見したくても意見しにくい状況があるようです。例えば、つい先日、ある有名SNSユーザーが事件現場のショッキングな画像投稿に対して問題提起を行ったところ、問題提起といえども「ショッキングな動画や写真が出回っている」と書くことは「検索に拍車をかけるだけなのでふれない方がいい」という意見が複数寄せられたのを目にしました。さらに「事件、事故現場を撮影するのはメディアだってやってるじゃないか!」なんて意見も。

     ちなみにメディアの場合は、基本的に社名や執筆者など責任所在が明記されています。そして大規模なテロや事故現場など、あまりにもショッキングな場面は画像の掲載を自粛することがほとんどです。これは海外メディアでも同様で、WEBの場合はあらかじめ注意書きをして、それに同意した人のみが修正済み(死体などが写っている部分をぼかした)画像を閲覧することが可能になっていたりと、ショッキングな画像については“起こった事実をありのまま知らせる”という報道の使命との間で、慎重な検討が行われ掲載可否が判断されています。

     SNSは自由な表現の場とされていますが、人の生死に関わる事件現場で興味本位でカメラを向け、それをSNSに投稿して共有する行為……これは本当に正しい「自由な表現」のありかたなのでしょうか。本来、自由には責任がともないます。しかし、この手の投稿をする人はただ情報を流すだけで、責任を持とうという人はいませんし、何か「信念」があって行っているというわけでもありません。あるのはただ好奇心を満たす「刺激」だけ。

     黙って見過ごすのも、事態をより拡散させない一つの手かもしれません。しかし、誰かが声をあげ、問題を指摘していかなければ、そう遠くない未来にこれが「当たり前」のこととして浸透してしまう日がくる。そんな気がしてなりません。

    (宮崎美和子)

    あわせて読みたい関連記事
  • チョコレートプラネットが炎上発言を謝罪 2人揃って頭を丸める
    エンタメ, 芸能人

    チョコレートプラネットが炎上発言を謝罪 2人揃って頭を丸める

  • 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった
    インターネット, おもしろ

    邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くな…

  • お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんの公式X
    インターネット, 社会・物議

    アインシュタイン稲田の“潔白”が証明された日 暴露文化とSNS拡散が残したもの

  • 前澤友作さん、新SNS立ち上げへ 偽広告問題に危機感
    インターネット, 社会・物議

    前澤友作さん、新SNS立ち上げへ 偽広告問題に危機感

  • 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…
    アニメ/マンガ, 声優

    朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

  • 「mixi2」PCブラウザ版が提供開始 一部機能に限定も利便性向上
    インターネット, サービス・テクノロジー

    「mixi2」PCブラウザ版が提供開始 一部機能に限定も利便性向上

  • SNS拡散のカギは「誰がシェアしたか」 朝日新聞社など共同研究(画像:PhotoACより)
    社会, 経済

    SNS拡散のカギは「誰がシェアしたか」 朝日新聞社など共同研究

  • 「Xブロックチェック」に要注意 トレンド入りした危険なサービスとは?
    インターネット, 社会・物議

    「Xブロックチェック」に要注意 トレンド入りした危険なサービスとは?

  • 「○○アンバサダーに投票して」DMに要注意 SNS乗っ取りの手口に警戒を
    インターネット, 社会・物議

    「○○アンバサダーに投票して」DMに要注意 SNS乗っ取りの手口に警戒を

  • Blueskyが新たな認証制度を導入 青いチェックマークで信頼性を可視化
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Blueskyが新たな認証制度を導入 青いチェックマークで信頼性を可視化

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • 特別災害対策本部車(国土交通省)
    社会, 経済

    消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025…

  • ウィキペディアのページビュー
    インターネット, サービス・テクノロジー

    AI時代でウィキペディア苦境 人間の閲覧数8%減、財団が警鐘

  • ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロティカ解禁」方針
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロテ…

  • トピックス

    1. ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      10月31日から11月2日までの3日間、池袋・サンシャインシティにて「ガシャポンに超夢中展2025」…
    2. 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      徐々に寒さが増し、そろそろ温かい飲み物が恋しくなってくる季節。近ごろSNS上で、「ホットコーヒー缶に…
    3. イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      SNS「X(旧Twitter)」のオーナーであるイーロン・マスク氏が、日本時間10月27日深夜、自身…

    編集部おすすめ

    1. 集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社は10月31日、生成AIを利用した権利侵害への対応について声明を発表しました。今秋、OpenAI社の生成AIサービス「Sora2」が公…
    2. 菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      10月14日、国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントが、同社代表取締役・末延秋恵さんのなりすましアカウントが出現…
    3. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    4. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    5. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト