東京でも浅草界隈は、他の地区に比べても特に昭和の面影を残した街並みが色濃いところ。アーケード街のちょっと横の角を曲がると、時代が止まったままかのような光景に。ツイッターに、そのアーケード街から地下鉄銀座線に出るまでの光景を動画に収めた様子が投稿され、人々の耳目を集めています。

 「銀座線に行くつもりがまさかこんなカオスな空間に足を踏み入れることになるとは誰も思わないでしょ」と、その道中の様子をツイッターに投稿しているのは、街のいたる景色を活写している、東京夜中散歩さん。

 出発点は、東武浅草駅から馬道通りを渡った「新仲見世」商店街の入り口。そこから歩いてアーケード街へと入っていきます。そしてケバブ屋さんと眼鏡屋さんに挟まれた出入り口へ。その上には「地下鉄銀座線」と「浅草地下街」への入り口を指す矢印。奥には階段が続いています。

 人一人がやっとすれ違えそうなくらいの狭い通路と、若干天井の低い階段の道中には、お休みらしくシャッターの閉まった理容室。さらに進んでいくと、狭い通路の左手には営業しているお店。そこを通過すると、一気に開けた階段が目の前に。

 階段を下りて左を見ると、何となく閑散とした地下街の佇まい。天井はやはり低く感じられ、配管がむき出しのまま。そして若干心許ない明るさの蛍光灯。目的とする地下鉄銀座線の乗り場は左ではなく右方向なので、右へ進んでいきます。

 狭い通路から出てくると、ちょっと開けた地下街といった感覚になりますが、その雰囲気は何だか昭和30年代といった感じ。横のお店には赤提灯がぶら下がり、お店の外にイスとテーブルが出て仕事帰りに一杯、といった風情。

 時折シャッターの降りている個所もありますが、昔ながらな焼き鳥屋と肉料理の店、そして散髪屋、やはり店の外に出ているイスとテーブル……。ある世代以上ならこの光景に郷愁や様々な思い出を重ねそうです。

 さらに先を進んでいくと、上に「地下鉄銀座線」と大きく書かれた看板。そしてそこを通過すると……一気に現代に。現在の地下鉄の、広く開けたコンコースは白く、自動券売機も現在使われている新しめのタイプ。このギャップに、不意にタイムスリップから引き戻されたような錯覚にも陥りそうです。

 最後に後ろを振り返ると、間違いなくさっき通ってきた昭和な商店街はちゃんとあります。夢やタイムスリップなんかではなかったんだ……。

 この一連の動画が投稿されると、地元民からも驚きの声や、よく知っているといった声が様々寄せられています。この土地柄をよく知っている人からは、地下鉄に行くためのショートカットとして使っている、この地下街のこの店が美味しい、などいった反応も。一方、浅草から銀座線をあまり使わない人にとっては、意外なところに地下街があった、といった感想も。

 東京の地下鉄は、1927(昭和2)年12月30日に、東京地下鉄道株式会社によって浅草駅~上野駅間が開業したことからその歴史は始まっています。その後、1939(昭和14)年1月に現在の銀座線に当たる路線が全線開業しました。当初は浅草駅〜新橋駅は東京地下鉄道、渋谷駅〜新橋駅は東京高速鉄道と別会社の路線で乗り換えが必要でしたが、のちに相互乗り入れを開始。1941(昭和16)年には政府などが出資する帝都高速度交通営団が設立され、東京地下鉄道と東京高速鉄道は「営団地下鉄」として統合されます。

 戦後は1954(昭和29)年、東京高速鉄道がすでに建設していた赤坂見附の駅や、戦時中に営団が建設を進めていたトンネルなどを利用して、丸ノ内線が最初の路線として開業。昭和30年代は都営地下鉄1号線(現在の都営浅草線)も開業し、東京の地下鉄は一気に路線を伸ばしていきます。

 この地下鉄ブームと言っても良いくらいの高度経済成長期の勢いもあって、地下鉄をはじめとした駅への連絡などを目的として、地下に商店街が形成されるようになりました。この「浅草地下街」は、1955(昭和30)年の開業。銀座の三原橋跡に作られた地下街がなくなったため、鉄道会社が作ったものを除けば東京では現存最古の地下街だそうです。

 ちなみに、この地下街を別の方向に歩くと東武浅草駅の真ん前、吾妻橋のたもとにある交差点に、ひょっこりと出てきます。向かい側には地下鉄浅草駅の特徴的な赤い神社のような出入り口が。

 地下鉄銀座線の駅はリニューアルが進められて近代的な趣になりましたが、この浅草地下街は別の事業者の管轄であったため、現在はこのようなリニューアルした地下鉄の駅と、そこにつながる昔ながらの地下街のギャップが生じたということになりそうです。まさにタイムトンネルみたいですね。

 こういった昭和の面影を強く残している場所は、実はこの浅草地下街に限ったことではなく、全国の栄えている都市部と言えるところに、ひっそりと存在し続けています。とりわけそのギャップを強く感じられる場所は、やはり東京に多いと感じますが、もしかしたら皆さんの身の回りにも意外な昭和の面影が、残っているかもしれませんよ?

<記事化協力>
東京夜中散歩さん(@TokyoYonakaSnpo)

(梓川みいな)