ユニクロの「ヒートテック」シリーズに続いて各メーカーから発売されている、吸湿発熱素材を使った衣類(吸湿発熱ウェア)。確かに使うと温かく感じ、冬場の冷える時にはありがたいものですが、実は肌の乾燥につながりやすいのを皆さんご存じですか?この素材を使った肌着類についての注意喚起のツイートが話題になりました。

 「老人介護施設勤務ですが、高齢の方にヒートテック下着類の着用は避けた方が良いです。ただでさえ乾燥気味の老人の肌から水分が奪われ、あっという間に超乾燥肌になります。ミイラ肌です。背中や腰回りを掻き壊し、一晩で血だらけになる方も。ヒートテックを着るなら、綿の下着を1枚着た上に着てね!」と、実務経験から注意喚起のツイートを投稿したTKさん。

 続くツイートで「入居者の下着は、なるべく綿かウールでとお願いしてますが、中には上から下までヒートテック衣類の入居者も。暖かくて良かれと思ってのことだろうけど、ホントやめてぇー」「ヒートテックが流行り始めた頃は、まさか下着が乾燥の原因になろうとは思わず。特定の入居者に起こる超乾燥肌の原因が分からなかったんですよね」と、乾燥肌の原因について特定するまでに至った経緯をツイートしています。

 このツイートには、現役の介護職員からも「すごく目から鱗な情報ですぐにでも現場実践してみたい」という感想が聞かれ、多くの人はヒートテックと類似商品による肌の乾燥について、知識がなかった様子。

■ 高齢になるほど乾燥肌が起きやすくなるのはなぜか

 人間の皮膚は、絶えず人体の皮膚から自然に蒸散される水分(不感蒸泄)により水分が少しずつ全身から放出されていますが、健康な皮膚の場合、蒸泄量を適度に抑えるため、皮脂によって皮膚が乾燥することから守られています。

 皮脂量のピークは20~30代と言われています。しかし、皮脂量が少ないとその分不感蒸泄は多くなり、さらに皮膚の乾燥を促してしまいます。これが乾燥肌の原因。

 乾燥肌が進むと、皮膚の表面が乾いてうろこ状っぽくなり、それが剥がれ落ちてフケみたいな状態(乾皮症)になってしまいます。また、乾燥により肌の感覚が過敏になるため、チクチク感やかゆみを感じる人も多く、乾燥肌で皮膚をかきむしってしまう人も。皮膚のかき壊しは健康な皮膚を作り直す大敵となります。

 皮膚の乾燥は高齢化するほど増えていきますが、これは皮膚の老化とともに皮脂量と皮膚の水分保持量が減り、さらに成人期よりも10%ほど体内の水分量が減っているために起こりやすくなります。成人期の体内水分量の平均は60%と言われていますが、老年期になると約50%となってしまうのです。そのため、皮膚の水分保持能力も低下し、乾燥しやすくなるのです。

■ 吸湿発熱素材と乾燥の因果関係

 ヒートテックなどに使われている「吸湿発熱素材」は、天然の繊維とは違い、不感蒸泄を熱に変換する化学繊維でできています。物質が水分を吸着した時に熱を発するという特性(吸着熱)を持つ化学繊維によって出来上がっている吸湿発熱素材は、軽く体を動かした後などに特に温かさを感じることが多いと思いますが、体を動かした分、軽く汗をかいただけ吸湿し、発熱することから温かさを強く感じることとなるのです。

 皮膚の水分保持量と皮脂量が正常範囲以上あれば、直接肌に吸湿発熱素材の肌着を着ても特に皮膚に何らかの症状が起きる事は少ないのですが、乾燥肌の人は、直接肌に触れてしまうとさらに皮膚の水分が奪われてしまい、皮脂量も少ないために乾皮症となってしまう場合が多くなります。

 アトピー性皮膚炎の場合も、同様に乾燥により炎症が悪化するため、アトピーがある人も吸湿発熱素材を直接肌に密着させるのはやめておく方が無難です。

■ 乾燥肌にいちばん優しいのは、綿100%

 自然素材である綿は、吸湿に優れていますが乾きにくく、汗をかいたときには汗によるべたつきなどの不快感もあります。夏場の良く汗をかく時期であれば、化学繊維の乾きやすくひんやりとした感覚が得られる肌着類も選択肢となるかと思いますが、冬場は空気自体が乾燥し、不感蒸泄も皮脂量が少ないほど増えます。

 綿は不感蒸泄分の水分をそのままある程度保持し、乾燥を促す特性もないので、乾燥肌にとっていちばん優しい素材と言えます。このため、ツイートしたTKさんも、「ヒートテックの下に綿素材の肌着を」と注意喚起を促しているのです。綿素材を1枚挟むだけで、直接肌の水分を奪われなくなるので、乾燥肌対策として有効となるわけです。

 これはアトピー肌も同様。化学繊維自体、肌にとって適度な湿度の保持ができないので、綿素材が一番適しています。

■ 肌着選びと一緒に、しっかりと保湿を

 バリバリとかきむしってしまう程のかゆみを伴う乾皮症には、皮膚科で出される外用薬が効果的。しかし、症状が酷ければ酷いほど、皮膚が正常な機能を取り戻すまでに時間がかかります。その間、やはりかゆみが続くようであれば皮膚科に相談し、かゆみを止める内服薬も検討してもらうと良いでしょう。

 肌がちょっと粉を吹くかな、程度であれば、市販のワセリンや、ヘパリン類似物質が含まれている医薬品のクリーム類を、ドラッグストアなどで購入できますので、そちらもおススメ。美肌目的での処方が問題となった「ヒルドイド」も、ヘパリン類似物質が含まれています。ヘパリン類似物質には、吸湿して角層に水分を付与する作用があり、持続的な保湿効果があります。クリームやローションには油分も含まれているので、保湿も同時にできます。極度の乾皮症には、ヘパリン類似物質ローションなどを塗布後にワセリンをさらに上から塗布し、ワセリンの油分で完全に覆ってしまう方法も取られます。

 これから乾燥が気になってくる季節。肌着選びも保湿にも気を配り、快適な生活を送れるよう心掛けたいですね。

<参考>
高齢者関連施設における皮膚疾患実態調査結果(PDF)
ヒルドイドサイト 保湿剤とは / 医療関係者向け情報|マルホ株式会社
発熱(吸湿・遠赤外線放射)|日本化学繊維協会(化繊協会)

<記事化協力>
TKさん(@TKhakoniwa)

(梓川みいな/正看護師)