おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

レアな工事車両も登場!東武野田線複線化線路切り替え工事密着レポ

update:

 東武野田線(東武アーバンパークライン)の柏~船橋が複線化され、2020年3月のダイヤ改正で全線で急行列車の運転が始まります。それに先立ち、高柳~六実での複線化に伴う線路切り替え工事が2019年12月15日未明に行われました。その模様をお届けします。

  •  大宮~柏~船橋を結ぶ東武野田線は、複線区間と行き違いが必要な単線区間が混在し、輸送面でのボトルネックとなっています。そこで列車本数の増加を図れるよう、複線化工事を進めてきました。

     柏~船橋の区間における複線化工事は、1964年の塚田~新船橋から始まりました。複線用の用地所得などを徐々に進め、最後に残った単線区間が高柳(柏市)~六実(松戸市)。柏~船橋における複線化工事の総仕上げとなる線路切り替え工事が、12月15日未明に行われました。

     工事の取材に先立ち、東武鉄道改良工事部の矢野哲郎部長から、工事の概略が説明されました。高柳駅と六実駅で、これまで単線の線路に接続していた駅からの線路を、新設した上下2本の線路につなぎ換えるという流れですが、取材する区間では途中に踏切があり、新たに上下線が通過する複線の踏切に変えるという形になります。

     しかも工事に許された時間は、最終列車が通過した午前0時50分から、始発列車が通過する午前4時58分まで。しかも点検用の試運転列車を運行しないといけないので、午前4時30分ごろまでには作業を終了しなければなりません。わずか3時間半ほどしかないのです。

     高柳駅は、柏~船橋の区間が北総鉄道(現在の北総鉄道とは無関係)として開業した1923(大正12)年から存在する歴史ある駅。そこから数分ほど歩いた場所が工事現場となります。照明に照らされた現場では、すでに作業が始まっていました。

     この日の工事では、高柳~六実の区間で線路を移設する軌道関係の作業員が400~450名ほど、架線の切り替えを行う電気関係の作業員が100名ほど集まって作業を行います。工事の間は踏切が通れなくなるので、交通誘導にあたる警備員も11名参加していました。

     時間が限られている上、周辺は住宅地となっているので、大きな重機は入ることができず、作業は人海戦術。事前にシミュレーションした手順通り、作業員の皆さんはそれぞれの持ち場で手際よく作業を進めます。あっという間に踏み切り部分の路面が撤去されました。

     同時に、これまでの線路を撤去し、移動させる準備も進みます。レールを枕木に固定しているボルトとバネ金具が手際よく外され、道床のバラスト(砕石)部分が撤去されました。

     上下それぞれの線路につなぐため、既存のレールを切断します。ガスを使った切断バーナーや、ディスク式のカッターを使い、火花を散らしながら作業が進められます。


     レールから枕木が取り外されるのは、撤去する部分だけ。残りの部分は枕木をつけたまま、つなぎ換える場所まで人力で少しずつ移動させます。作業員の皆さんが声を合わせ、一緒のタイミングでテコの原理を使って動かします。一見原始的ですが、細かく微調整ができるのは、人力ならではのメリット。


     移設した線路を締結し、単線から複線にします。今回の工事では時間が限られているため、ロングレール化の溶接は行わず、昔ながらのボルト留めとなりました。後日改めてロングレール化されるとのことです。

     単線だった線路が複線に変わると、今度は道床のバラスト(砕石)を線路の下に入れていきます。砕石を入れると、すぐにタイタンパと呼ばれる保線器具で突き固め、道床を安定させます。

     重いバラストを運ぶのに活躍したのが、線路上を走行できる軌陸車ならぬ、軌陸バックホー。軌陸車とは違い、線路上を走る時はクローラ(キャタピラ)が動きません。普通の鉄道車両のように、フランジ車輪のみで走行していました。


     道床づくりと並行して、架線の方も切り替えが行われます。作業員は梯子で架線の位置まで上り、使わなくなった架線からトロリ線を保持するハンガイヤーと呼ばれる部品を撤去し、トロリ線を外します。使い込まれた単線のトロリ線は、銅の色も鮮やかな複線の線路上にあるトロリ線に役目を譲るのです。


     道床へバラスト(砕石)が運び込まれ、タイタンパで突き固められると、レールの高さが規定通りになっているかの確認が行われます。前後の高さ変化だけでなく、左右のレールの高さも水準器で測定され、揃っているのを確認。取材した場所では水平にするだけだったのですが、六実駅付近の工事現場では線路がカーブしており、遠心力を考慮してやや内側に傾ける形で線路が設置されるので、その角度(カント角)の調整に神経を使ったようです。


     線路が設置されると、今度は列車が通過した時にちゃんと踏切が作動するか、軌道回路と呼ばれる電気的な信号を伝達する仕組みがテストされます。踏切や信号を制御する機械のケースを開け、列車が通過した時と同じように左右のレールを短絡して、踏切警報機や、信号機が作動するかを確認。




     また、踏切に設置されている保安装置が適切に作動するか、各部のセンサーごとに動作チェックも行います。安全を担保する一番大事な部分だけに、何度も念入りな確認が行われていました。

     踏み切り部分では、道路の舗装も行われます。この頃になると、作業に携わる人数もそれほど必要ではなくなり、同僚の作業を見守る作業員の方が多くなってきました。




     架線も線路も新しい複線のものに切り替わり、時刻は午前4時半。踏み切り部分の舗装も終わり、予定通りに作業が終了しました。高柳駅には、試運転列車となる60000系電車も到着。工事が終わった高柳~六実の区間を往復し、上下線の路盤や軌道回路が適切に作動するか、実際の電車を使った試験が行われます。

     まず、下り線の試験のため、六実駅まで電車が走行します。

     およそ10分後、六実駅に到着した試運転列車は、今度は上り線に転線し、高柳までの区間を走行。往復で正常に踏切が作動し、機能に問題がないことが確認されました。

     そして午前4時58分。高柳駅を発車した船橋行きの始発列車が、工事現場を通過します。ちらほらと車内に見えた乗客の中で、新しい複線の線路を走っていることに気づいた人はいるでしょうか。

     終電から始発までのわずかな時間に行われた、東武野田線高柳~六実の複線化線路切り替え工事。手際の良さと、それぞれの職務を的確にやってのける、プロの技を目の当たりにしました。

    取材協力:東武鉄道株式会社

    (取材・撮影:咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね
    インターネット, おもしろ

    「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね

  • コミケ会場に駅の窓口が転移!?鉄道サークルの“出札口”ブースが本格的
    インターネット, おもしろ

    コミケ会場に駅の窓口が転移!?鉄道サークルの“出札口”ブースが本格的

  • Yahoo!乗換案内「乗車位置」が全国拡大 乗換や降車がもっとラクに
    企業・サービス, 経済

    Yahoo!乗換案内「乗車位置」が全国拡大 乗換や降車がもっとラクに

  • 交通系ICカード沼にハマった男、7年かけて国内87種収集 「ほぼコンプしてた」
    インターネット, おもしろ

    交通系ICカード沼にハマった男、7年かけて国内87種収集 「ほぼコンプしてた」

  • 画像提供:がみぃ~さん(@JY09gami3)
    インターネット, おもしろ

    溜池山王駅の隠れた名物!電車部品を再利用したロマンあふれる自販機が話題

  • 観光誘客へ一手 銚子電鉄が「犬吠崖っぷちライン」に路線愛称変更
    企業・サービス, 経済

    観光誘客へ一手 銚子電鉄が「犬吠崖っぷちライン」に路線愛称変更

  • 井の頭線1000系(自動運転設備搭載車両)
    企業・サービス, 経済

    京王電鉄、井の頭線で自動運転の実証試験 3月中旬から

  • (c) 池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら制作委員会
    アニメ/マンガ, イベント・キャンペーン

    東武東上線と東武百貨店で「ベルサイユのばら」スタンプラリーを開催

  • 全68駅制覇の証!鋏痕だらけの「国電フリー乗車券」が物語る昭和56年のクリスマス
    インターネット, おもしろ

    全68駅制覇の証!鋏痕だらけの「国電フリー乗車券」が物語る昭和56年のクリスマス…

  • 冬の電車の“あの暖かさ”を自宅で再現!「まるで電車の座席ヒーター」が発売
    商品・物販, 経済

    冬の電車の“あの暖かさ”を自宅で再現!「まるで電車の座席ヒーター」が発売

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え
    エンタメ, 芸能人

    松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超…

  • 「金曜ロードショー」40周年
    エンタメ, 映画

    金曜ロードショー、40周年を記念した豪華2時間SP 国民が選ぶ名場面集

  • 新商品「クリスピーピザポテト チーズチーズチーズ」
    商品・物販, 経済

    ピザポテトが進化!チーズ2倍「クリスピーピザポテト」期間限定で発売

  • 魔改造カップヌードル
    商品・物販, 経済

    日清食品「魔改造カップヌードル」4品を新発売 定番フレーバーを背徳アレンジ

  • 企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開
    社会, 経済

    企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

  • 無料クーポンリレー
    イベント・キャンペーン, 経済

    ファミリーマート、ファミペイ新規登録者向け「無料クーポンリレー」開始へ

  • トピックス

    1. お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんの公式X

      アインシュタイン稲田の“潔白”が証明された日 暴露文化とSNS拡散が残したもの

      お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんのInstagramが不正にログインされ、卑猥なやり取り…
    2. 【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      ホラーイベント「笑える事故物件 笑えない事故物件」公式グッズの体験型キット「落とし物:黒い封筒」を体…
    3. 丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      焼き肉チェーンの牛角は9月4日より、サンマを丸ごと一尾のせた「牛角流秋刀魚ラーメン」を販売しています…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト