アレルギーと一括りに言っても、実に様々なアレルギーの元(アレルゲン)となるものがあります。まだまだマイナーなアレルギーから引き起こされる症状、そして食べ物と心臓病や納豆アナフィラキシーに関するややこしい関係が、ツイッターで注目されています。

チャプター1:アレルギーが多彩すぎて困る件

■ 一つのツイートに「そんなアレルギーがあるなんて」とびっくりし、無知から批判する人々

 歴史研究家で正しい史実を求めて日々研究し、文章を書いている大山格さんは、納豆アナフィラキシーの持ち主であり、納豆以外にも、20種類の花粉に対して陽性反応が出ているというアレルギーのオンパレード状態な方です。そして、心臓にも病気を抱えています。

 そんな大山さん、

「アナフィラキシーとやらで、わしは納豆がダメ。おまけに常時服用している薬も納豆が禁忌とされる。ゼッタイ喰えないんだが、世の中には『好き嫌いをなくしてやる』という要らざる世話を口実に、騙して喰わせようとする輩もいる。救急搬送されても『大げさだな』といって笑ってやがるんだよね」

「常時服用している薬による制限は、緑黄色野菜にも及ぶ。ステーキのつけ合わせについてくる小鉢のサラダくらいは大丈夫だが、グリーンサラダを一人前は食べられない。で、ひとつ覚えに『野菜を食べるべきだ』という輩が多いんだけど、わしはあくまで病院の栄養指導に従うので、御意見無用です」

 と、続けてツイート。

 ここで初めて、納豆でもアレルギーが出ることを知った人も少なくないかと思います。納豆アレルギーは、ここ最近になって発見されたアレルギー症状の一つ。大豆はアレルゲンとしてほとんど聞かないのに何故?と思う人も多いかもしれません(とはいえ、大豆もアレルゲンとなりうることがあります)。

 そして案の定、リプライにはアレルギーがもとで酷い目に遭った人が続出。今どきアレルギーについて無知なのは人を死に追いやる行為、という反応も多くみられました。確かに、アレルギー反応が強いと、気道内膜を含め全身が酷くむくんでしまうがために、呼吸が止まって死に至ることも。

■ 納豆アナフィラキシーだけじゃない、意外なところにもPGAが

 大山さんの場合は、先天性の納豆アレルギーのようですが、これは大豆が原因ではなく、発酵させたときに納豆菌が作り出すネバネバの中に、アレルゲンとなる物質があることが今までの研究の中で分かってきています。ポリガンマグルタミン酸(PGA)という物質が納豆のネバネバの正体であり、またアレルゲンでもあるのです。

 先天的にこの物質に対する過剰反応を起こしやすい体質の人は、確かにそんなに多くはないのですが、後天的に発症することは結構ある話。サーフィンや海でよく遊ぶ人がクラゲに刺されたときに、クラゲが作り出すPGAが感作することで、納豆のネバネバと同じPGAがアレルゲンとなりうる、という臨床結果も出ています(※1)。

 このPGAは水の分子を取り込み、保持する力が強いので、保湿剤としてスキンケア用品やヘアケア用品など、幅広く使われています。また、食品添加物として増粘・旨味調整・保存料としても、健康補助食品で成分の吸収率をよくするためにも使われています。加工食品や化粧品類の成分表示にPGAの表記があれば、納豆アレルギーの人は成分表示を見ることで回避しやすくなりますが、幅広く使われているので注意が必要と言われています(※2)。

 PGAによるアレルギー反応の多くはアナフィラキシー症状に繋がることが多く、後天的なアレルギー場合、食べてから数時間後に出る、遅発性アナフィラキシーとなって出る場合があります。クラゲの多い海に長期間いた人や、複数回クラゲに刺されたことがある人は特に注意が必要といえそうです。

■ クラゲや納豆だけではない、マイナーなアレルギー

 乳幼児期に発症し、世の母親たちが神経を使っている食物アレルギー。代表的なものとして、〈卵、乳製品、小麦、蕎麦、落花生、エビ、カニ〉が、特定原材料7品目としてあげられています。しかしそれ以外にも食物として摂取した際に出るアレルギーは多く、定原材料に準じる以下の20品目もアレルギーを起こしやすいものとしてあげられています。
〈あわび・いか・イクラ・オレンジ・キウイフルーツ・牛肉・クルミ・サケ・サバ・大豆・鶏肉・豚肉・まつたけ・桃・山芋・リンゴ・ゼラチン・バナナ・ごま・カシューナッツ〉

 しかし、これ以外にも実際にあった例として「メロンが好きなのに食べると口の中が痒くイガイガする」「マンゴー食べたら全身が痒くなってすごい蕁麻疹になった」といった例も。どちらも看護師である筆者が勤めていた病院の同僚看護師二人の体験。

 他にも、天然ゴムでかぶれる「ラテックスアレルギー」や、特定のアレルゲンを食べた後に運動をすると、アレルギーやアナフィラキシーを誘発する「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」もあり、一度確定診断が付くと、重度のアナフィラキシーショックを起こす前に速やかに症状を抑える「エピペン」というペン型の注射薬が処方されます。

チャプター2:心疾患も制限がつらいのよ

■ 大山さん、激動の1年だった心臓病

 大山さんは心筋梗塞による急性虚血性心不全により、55歳になる直前の1月に救急搬送されました。心臓に栄養を送るための血管(冠動脈)の狭窄やつまりの状態を検査する心臓カテーテルを行い、血液の通りを妨げられないように「ステント」という、細い部分を拡げるための網でできたパイプ状のものを血管内に留置しましたが、どうやら冠動脈のあちこちに動脈硬化による血流不足が起こっていた様子。

 結局この緊急処置のほか、ほぼ1年の間に、心臓カテーテル計4回(術前・術後検査を含む)、ステント留置を2回、3月には心臓バイパス手術、その後バイパス血管をバルーンで拡張。7月には植え込み型除細動器(ICD)植え込みなど、かなり大掛かりな心臓の処置を受けています。

 大山さんの心筋梗塞は動脈硬化が主な原因とみられますが、ICDを心臓内に入れるというのは、それだけ致死性不整脈が出る可能性が高いということ。冠動脈が詰まって血流が滞り、心臓の筋肉に栄養を送れなくなった部分がその機能を失い、健康な脈拍を打つことが難しくなってしまったのです。

 そこで、不整脈が起こりそうな心臓の電気信号をICDがキャッチ、正常な脈拍になるように自動的に正常の物と同じ電気信号をICDが送ることで、日常生活を送ることができています。

■ でもなぜ生野菜がダメなの?

 大山さんの場合、血液の流れをよくするための抗凝固剤(いわゆる血液サラサラの薬)や、血圧を平常値にする薬など、心臓の冠動脈がこれ以上悪くならないための薬を数種類内服する必要があります。しかし、納豆、生野菜や青汁、生のフルーツ類、緑黄色野菜にはビタミンKが多く含まれているので、食生活では注意が必要。健康な人の場合、血液サラサラの薬を飲む必要もないので特に問題はありませんが、こうした薬を飲んでいる人にとっては、ビタミンKは薬の働きを弱めてしまうのです。

 このため、心筋梗塞など血栓ができやすく、凝固した血液によって新たな血管のつまりが起こりやすい人に対して、血液サラサラの薬が処方された場合、必ず退院前や外来などで食事指導を受けることとなります。ビタミンKが薬の働きを弱め、血液が固まりやすくなってしまうと症状を悪化させ、死につながる恐れがあるので、非常に重要です。

 グレープフルーツと、ある薬を一緒にとってはいけない、という話を聞いたことがあるかもしれませんが、こちらは逆に薬の作用をムダに強くしてしまうというもの。高血圧の薬が代表例ですが、グレープフルーツや近縁種のかんきつ類の中には、薬の分解を邪魔する成分が含まれています。このため、薬が正しく分解されないで体内に溜まってしまい、血圧を下げる薬効が強く出た結果、めまいやふらつき、低血圧などといった症状が出てしまうのです。

結論:外野は余計なことをしない

 誰だって、自分が抱えている大病についてよく知りもしない人があーだこーだ言ってくるのは、嫌な気分しかないと思います。同じ病気を抱えるなど、よく知っている人同士であれば、お互いの治療の状況について情報交換をしたり、励まし合ったりできることでしょう。

 これはどの病気、どの障害にも当てはまります。よく知りもしない人が中途半端な知識で口をはさむのは、厳禁です。「ほんの冗談のつもり」という人がいますが、冗談のつもりでも言うべきことではないのです。長年看護師の仕事をしてきて、お見舞いに来る人にも大勢出会ってきました。そして、人の病気や命、その人の気持ちを軽視していると感じられるような人ほど、このセリフを言っているように見受けられました。

 アレルギーにしても、他の大病や障害にしても、その状況が本人たちにとっていかに大きな問題であるか、いつ自分が当事者になってもおかしくない話。一人ひとり状況は違っても、土足でひとの心の中を踏み荒らさないよう、慎みと大病を乗り越えた人に対する敬意を持って欲しいと、一看護師として強く願います。

<参考文献>
(※1)覚えておくべき遅発性の食物アレルギー – m3.com
(※2)「第65回日本皮膚科学会中部支部学術大会3 シンポジウム2-3湘南サーファーを悩ます納豆アレルギー」
クラゲ刺傷によって発症したと考えられた納豆アレルギーの1例
ペースメーカーと植え込み型除細動器 | 心臓 | 循環器病あれこれ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
他多数

<記事化協力>
大山 格さん(@itaru_ohyama)

(梓川みいな:正看護師)