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建物から噴き上がる煙?ジェットエンジン試運転で使われる「サイレンサー」とは

 沖縄県にある航空自衛隊那覇基地で、2020年2月4日「建物から煙が吹き出している」と消防に通報があり、火災ではないかと騒ぎになりました。那覇基地の公式Twitterが、「サイレンサー」から出た水蒸気だと説明しましたが、どういったものなのでしょうか。

  •  航空自衛隊那覇基地の敷地内にある建物から、白い煙のようなものが勢いよく吹き出すのを目撃した人が、火災ではないかと消防に通報したという今回の騒動。原因はF-15のエンジン整備で試運転した際に冷却・消音用に使用される水が水蒸気になったものでした。

     那覇基地の公式Twitterアカウントでは、今回の件について「一部報道であった「那覇基地内の煙」は『サイレンサー』からのものです。これはF15戦闘機のエンジン整備で試運転をする際に、冷却として使われる水が水蒸気になったもの。かなりの量の水蒸気なので、初めて見た方はビックリされるかもしれませんね…ご心配をおかけした皆さん、申し訳ありません」と事情を説明しています。

     自衛隊をはじめ、ジェット機を運用しているところでは、エンジンを分解整備した際に試運転を行います。車の場合でもそうですが、整備したエンジンが規定通りの出力を発揮できるか、チェックが必要。飛行機は車と違い、エンジンが止まると墜落してしまうので、飛ばす前に地上の設備で試運転するわけです。

     試運転では、アフターバーナーを使用した最大出力までチェックするのですが、この際にエンジンノズルからは非常に高温の炎と、それに伴う大きな騒音が発生します。これをやわらげる装置が「サイレンサー」なのです。

     ジェットエンジンの試運転を行う施設は防音が施されているのですが、ジェット排気を外に排出しなければいけないので、そこから大きな音が漏れてしまいます。これを防ぐため、水を使用するのです。

     なぜ水で消音できるのか?という仕組みを説明する前に、ジェットエンジンの騒音が発生する原理を説明しましょう。ジェットエンジンは、燃料の燃焼によって大きく膨張した空気を後方に吹き出すことで推進力を得ます。

     この際、エンジンノズルから排出された高温・高速の排気ガスは、周囲の空気を押しのけ、振動させます。これがジェットエンジンの騒音となるのです。風船を割った時に聞こえる「パン!」という音も、風船内部の空気が勢いよく外に出ることで周囲の空気を振動させた結果なので、原理は同じといえるでしょう。

     ジェットエンジンの騒音が発生する原理が分かると、騒音を減らす原理も分かりやすくなります。高温・高速の排気ガスを冷却し、勢いを減らしてやればいいわけです。この設備が、サイレンサーなのです。

     サイレンサーはジェットエンジンからの排気を通す穴に、水を噴射するノズル(スプリンクラー)がたくさん付けられています。ここから大量の水を噴射し、水の壁を作ることで排気ガスの温度を下げ、また勢いを減らすのです。水が使われるのは、コスト面でそれが一番だから、というのが要因。

     結果として、冷却・消音に使われた水は水蒸気になり、湯気となって外に排出されるので「白い煙のようなもの」が勢いよく吹き出しているように見えるのです。知らない人が見たら、確かに火災と勘違いするかもしれませんね。近くにいると、ジェットエンジンの「ゴー」という音ともに湯気が吹き出される様子も確認できます。

     これと同じ原理は、ロケットの打ち上げでも使われています。ロケット打ち上げ時の轟音を減らすのと、高温の排気から打ち上げ施設を保護するため、やはり大量の水が使われているのです。

     ロケットの打ち上げシーンを見ていると、大量の白い煙のようなものが盛り上がり、その中からロケットが上昇していきます。地上付近ではあれだけ派手に煙のようなものが見えたのに、上昇中は少なくなっているのを疑問に思ったことはありませんか?

     あれも打ち上げ施設から放出された水が、ロケットの排気ガスで水蒸気となり、湯気となったものなのです。液体水素を燃料(推進剤)としているロケットの場合は、排気ガスも水蒸気なのですが、打ち上げの瞬間に発生する白い煙のようなものは、大部分が打ち上げ施設からの水です。

     水が騒音防止に役立つというのは、ちょっと面白い話かもしれません。建物火災と勘違いしないようにしたいものですね。

    <画像>
    USAF/NASA
    ※見出しのツイート画像は航空自衛隊那覇基地公式Twitterからのスクリーンショットです。

    (咲村珠樹)

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