NASAとノースロップ・グラマンは2020年2月25日(現地時間)、新型宇宙船オリオンの脱出装置に使われる姿勢制御ロケットの地上試験を行い、無事に成功したと発表しました。試験の成功は2度目で、有人飛行試験「アルテミスII」に向けて重要な一歩です。
有人宇宙船の打ち上げ後、上昇中にロケットの異常が発生した場合、宇宙船をロケットから切り離して安全に帰還させる装置を打ち上げ中止システム(Launch Abort System=LAS)といいます。ロケットが正常な飛行を続けられなくなった場合、いち早く宇宙船をロケットの爆発に巻き込まれない距離まで引き離すため、確実な動作が求められるもの。
LASの方式には、大きく分けて2つのパターンがあります。1つは宇宙船に取り付けられたロケットモーターで、宇宙船を押し上げるように切り離すもの。これは国際宇宙ステーションへ往復する民間宇宙船計画「コマーシャル・プログラム」で使用される、スペースXのクルードラゴンと、ボーイングのCST-100スターライナーで採用されています。
もう1つは、ロケットの先端に脱出用ロケットを取り付け、宇宙船を上に引き抜くように脱出させるもの。こちらはロシアのソユーズや、アメリカのマーキュリー、ジェミニ、アポロの各宇宙船で採用されてきた方式で、オリオンでも採用されています。
宇宙船を引き抜く方式のLASには、全部で3種類のロケットモーターが使われます。宇宙船をロケットから切り離すアボートモーター、パラシュートが展開できる高度へまっすぐ飛ばすための姿勢制御モーター、そしてLASを宇宙船から切り離す分離モーター。今回テストされたのは、ロケットから切り離し後、パラシュートが使用できる高度へ誘導するための姿勢制御用ロケットモーターです。
姿勢制御モーターは、装置の先端部に装備された固体燃料ロケット。8方向に向けて取り付けられており、同時に噴射することでバランスよく、まっすぐな進路を維持する仕組みです。
すでに試験は春秋を想定した気温と夏の2回行われ、それぞれ成功していますが、打ち上げは暖かい季節だけとは限りません。そのため今回は3回目の最終試験として、冬の低温環境下で正常に作動するかをテストすることになりました。
試験が行われたのは、メリーランド州エルクトンにあるノースロップ・グラマンの試験施設。エンジン点火から30秒間、固体燃料ロケットは正常に燃焼し、規定の推力をクリアしていることが確認されました。
ノースロップ・グラマンのミサイル(ロケット)部門を統括するパット・ノーラン副社長は「今回の試験は、有人飛行であるアルテミスIIに向けて重要なステップでした。無事成功し、打ち上げ中の宇宙飛行士を私たちの技術が安全に保護することができると証明してくれました」と語っています。
LASの試験は最終段階を迎えており、残るは宇宙船をロケットから切り離すアボートモーターの最終3回目の試験を残すのみ。いよいよオリオン有人飛行ミッション「アルテミスII」への準備が整ってきました。
<出典・引用>
ノースロップ・グラマン ニュースリリース
NASA ニュースリリース
Image:Northrop Grumman/NASA
(咲村珠樹)