おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

「タガが外れる」とこうなる 太鼓職人の投稿に関心集まる

 現在、日常生活で木桶を使うことはあまりありませんが、それでも桶に由来する言葉はいまだ現役。その中でも「タガが緩む」や「タガが外れる」という言葉は聞く機会も多いのでは? しかし実際にタガが外れるとどうなるのでしょう。ある太鼓職人が実演した動画が、Twitterでイメージと違って意外だと反響を呼んでいます。

  •  この動画をツイッターに投稿したのは、愛知県岡崎市にある「三浦太鼓店」の六代目彌市さん。三浦太鼓店は、幕末の1865年に創業したという老舗です。

     桶の外側からギュッと締め付けているタガを少しづつずらし、上から抜き取ります。すると、胴を構成していた板は、中心に向かってバタバタと倒れ込んでいきます。

     この動画には「言葉的には、外へ向かって拡散爆発するかのごとく派手なイメージだった」と、予想と違う板の動きに驚くリプライなどが寄せられています。確かに「タガが外れる」という言葉には、押さえつけられていたものから解放され、自由に振る舞うという意味があるだけに、気持ちの上では外に解放されるイメージですものね。

     しかし実際は……というと、桶はタガをはめる関係で胴は垂直にはならず、一方の口がわずかに小さくなっているもの。タガを外す時は、その小さくなっている方へずらして抜くことになります。

     自然と胴の板は上の方が内側に傾いた状態になり、タガが抜けた部分から内側に倒れ、そこから連鎖してバタバタと倒れていくわけです。もし平均して同時にタガを抜くことができれば、板は互いに支え合って倒れないのですが、実際はタガを抜く際の衝撃でバランスが崩れ、傾いている内側に倒れてしまうのですね。

     さて、タガが外れるとこうなる、という原理は分かったものの、なぜ太鼓職人が桶を作っているのでしょう。実はこの桶、太鼓の胴部分。動画は木桶と同じ構造の胴を持つ、桶太鼓と呼ばれる太鼓づくりの作業風景だったのです。

     底のない桶と同じ構造の胴を持つ桶太鼓は、丸太をくり抜いて胴を作る太鼓に比べて軽量で、大きなサイズも容易に作ることができます。青森県弘前市のねぷたまつりなどでは、大人の身長ほどもある大きな太鼓が出てきますが、それはこの桶太鼓と呼ばれるもの。

     実はこの桶太鼓、近年の和太鼓楽団で広く使われるようになり、大人気なんだそうです。軽量で持ち運びも楽な上、大きく外見のデザインも自由度が高いため、ステージ映えするのが人気の要因なんだとか。

     通常の場合、桶太鼓の胴部分は専門の桶職人に作ってもらうものだそうです。しかし、このところ木桶の需要はなくなり、職人も高齢化と後継者難で減る一方。いくら桶太鼓が人気でも、肝心の胴部分を作る人がいなくなってしまえば作ることができません。

     そこで三浦太鼓店の六代目彌市さんは、桶胴作りを自分たちでマスターし、伝統を繋ごうと一念発起。2016年から桶職人に弟子入りし、桶づくりを学んで桶太鼓の完全自家生産を始めたといいます。

     丸太をくり抜いて胴にする太鼓づくりで、木工についてのノウハウはあったものの、桶づくりは全然違うものだったと六代目彌市さん。木の削り方ももちろんですが、タガに使う竹の加工は特に難しく「竹を切っていい時期とだめな時期があるんです。竹が水分をあまり含んでいない時期に切らないと、竹に含まれた栄養が虫食いを呼んで、タガがすぐボロボロになってしまうんです」と、桶づくりを手掛けるようになって初めて知った桶職人の技と知恵に敬服したと語ってくれました。

     2018年からは、今は亡き桶職人の地元である秋田県へ出向き、秋田杉の原木から買い付けることをスタート。通常2〜3年の乾燥期間を必要とするので、最初に買い付けた原木を使っての桶太鼓づくりがいよいよ始まります。「多分、これからも先人の知恵と技術のすごさを実感すると思います」と六代目彌市さん。

     現在は太鼓用の桶づくりを手掛けている三浦太鼓店の六代目彌市さんですが、将来的にはもっと大きなサイズ、地元岡崎市特産の八丁味噌を仕込む桶も手掛けられるようになれれば、地元の伝統産業にも役立てるかもしれない、とのこと。「今回の動画をきっかけに伝統技能に興味を持ち、それが途絶えそうになっていることを知ってもらえたら」と話していました。

    <記事化協力>
    三浦太鼓店の六代目彌市さん(@rokudaimeyaichi)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • 西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデザイン
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデ…

  • 「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言
    インターネット, 社会・物議

    「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言

  • スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催
    イベント・キャンペーン, ゲーム

    スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催

  • 「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミナルに開設 オープニングセレモニーにハローキティも登場
    イベント・キャンペーン, 経済

    東京ブランドのPR拠点「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミ…

  • 手描友禅染工房「池内友禅」が魅せる「引き染め」という新たな可能性。
    インターネット, びっくり・驚き

    手描友禅染工房「池内友禅」の「染め替え」に京きものの新たな可能性を見る

  • それはあなただけの「とっておき」。予約3年待ちかんざし作家・横田涼子。
    インターネット, サービス・テクノロジー

    予約3年待ちのかんざし作家・横田涼子が生み出す一粒の宝飾

  • 1500年超の伝統を守り続けるために。墨の伝道師・長野睦の挑戦。
    社会, 経済

    伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦

  • 表現者として解釈を追求。陶芸家・岡村悠紀が「かに座の蟹」で新境地開拓。
    インターネット, びっくり・驚き

    自在置物の陶芸家・岡村悠紀が「かに座の蟹」で新境地 表現したい題材への一歩

  • 私は小物を作り続けたい。「手描き友禅染」の新たな可能性を探る友禅師・水野可菜。
    商品・物販, 経済

    友禅染に新たな切り口を 「手描き友禅」の可能性を広める友禅師・水野可菜

  • 「バズ」だけが全てじゃない。南部鉄器職人が語る「原点の大切さ」。
    インターネット, 社会・物議

    バズだけが全てではない 南部鉄器職人が語る「一過性の見極め」の大切さ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備
    ゲーム, ニュース・話題

    ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備

  • 「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……
    ゲーム, ニュース・話題

    「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……

  • ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入
    企業・サービス, 経済

    ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入

  • 一平ちゃん、“大人な味”の焼きそば発売 30周年第2弾は“スパイス30種”入り
    商品・物販, 経済

    一平ちゃん、“大人な味”の焼きそば発売 30周年第2弾は“スパイス30種”入り

  • KDDI調査 登山者9割がスマホ必須と回答も、3割は圏外リスクに無自覚
    企業・サービス, 経済

    KDDI調査 ゆる登山者9割がスマホ必須と回答も、3割は圏外リスクに無自覚

  • じゃじゃ丸たちが帰ってきた!「にこにこ・ぷん NEO」で令和に復活
    TV・ドラマ, エンタメ

    じゃじゃ丸たちが帰ってきた!「にこにこ・ぷん NEO」で令和に復活

  • トピックス

    1. ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備

      ガンホー、元幹部の不正行為を公表 被害約3億4600万円、刑事告訴準備

      ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(東証プライム:3765)は8月14日、同社の元幹部…
    2. 湖池屋「ストロング 爽快本わさび」実食 刺激と旨みの絶妙ハーモニー

      湖池屋「ストロング 爽快本わさび」実食 刺激と旨みの絶妙ハーモニー

      湖池屋のポテトチップス「湖池屋ストロング」ブランドより、「ストロング 爽快本わさび」が、8月4日に全…
    3. カプセルトイ「ミニチュアリングライト」レビュー 小物撮影のお供を試してみた

      カプセルトイ「ミニチュアリングライト」レビュー 小物撮影のお供を試してみた

      8月初旬より全国のカプセルトイ売場に登場している「ミニチュアリングライト」。その名の通り、手のひらサ…

    編集部おすすめ

    1. マクドナルドのポケカ騒動 期間中の店舗を訪れた記者が感じた“異様な雰囲気”

      マクドナルドのポケカ騒動 期間中の店舗で感じた“異様な雰囲気”

      マクドナルドは8月11日、ハッピーセット「ポケモン」のポケモンカードキャンペーンを巡る混乱について公式サイトで謝罪しました。期間限定カードを…
    2. 「珍しい苗字」より盛り上がる? 地域特有の苗字をまとめた地図が話題

      「珍しい苗字」より盛り上がる? 地域特有の苗字をまとめた地図が話題

      大学進学や就職で交友関係が広がると、今までの人生で見たことがない苗字を持つ人と知り合いになることがよくあります。見慣れない苗字に遭遇したとき…
    3. 「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……

      「オラと博士の夏休み」初のスマホ版がでたゾ!でも日本は対象外……

      累計販売90万本を超える人気作「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』~おわらない七日間の旅~」が、初めてスマートフォンで遊べるようになり…
    4. ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入

      ソフトバンク、コミケ106で電波対策強化 Starlink衛星Wi-Fiも投入

      ソフトバンクは、2025年8月16日と17日に東京ビッグサイトで開催される「コミックマーケット106」で、来場者が快適に通信サービスを利用で…
    5. 誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      誤使用で窒息やケガのおそれ ピジョン、「電動鼻吸い器SHUPOT」改良部品を無償配布

      育児用品メーカーのピジョン株式会社は8月6日、同社が2023年6月より販売している管理医療機器「電動鼻吸い器 SHUPOT(シュポット)」に…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト