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伝統の七宝焼をポップに!カワイイを極める異色の作家masiki(マシキ)さん

 金属の素地にガラス質の釉を施し、焼成する七宝焼。古墳からの出土品や正倉院宝物にもある、1000年以上もの歴史を有する装飾技法です。

 愛知県の伝統工芸品「尾張七宝」など、歴史と伝統のイメージが強い七宝焼ですが、同じ技法で新しい表現を試みる作家もいます。少女漫画雑誌の表紙などをモチーフに、ポップでカワイイ作品を生み出しているmasiki(マシキ)さんも、その1人。

  •  masikiさんが七宝焼に出会ったのは、大学3年生の時。「授業で初めて七宝焼という存在を知り、工芸なのに色いっぱい使えてたのしー!と思い、制作に取り入れ始めました」と、出会った時の衝撃を語ってくれました。

     手がける七宝焼作品は、ガーリーな小学生からローティーン向けファッションブランドの服などに多用されている、パステル調のポップな色合いが印象的。また、モチーフとなっているのは少女漫画雑誌の表紙をはじめ、ニチアサ系アニメやその関連商品を思わせるもの。

    ニチアサ系アニメのおもちゃをモチーフにした「きせかえりずむちゃん」(masikiさん提供)

     従来の七宝焼のイメージを覆すモチーフと色使いについて、masikiさんは「もともと大学の課題でも工芸技法でふざけた作品を作っていたのと、幼少期から漫画やお絵描きが好きだったので、有線七宝でも同じことができるのでは?と考えたのがきっかけです」と話します。

     いわば、自分の「好き」を七宝焼でも表現した結果が、これらのカワイイ作品へと繋がっていったようです。少女漫画雑誌の表紙をモチーフにした作品は、月刊誌「にゃお」の表紙という設定で作られています。

    「月刊にゃお9月号」(masikiさん提供)

     作品作りは、下絵となる見本をiPadで描くことから始まります。見本を見ながら描線となる細い銀の線を植えていき、作品が数点まとまった時点で電気炉のスイッチを入れ、銀線の焼き付けから施釉、研磨、仕上げ焼きを一気に進めていくんだとか。

     焼成に使われる電気炉は、数百度という焼成温度を実現するため大きな電力が必要。工程ごとにスイッチを入れていては、そのたびごとに炉内が冷えてしまい、再加熱で電力が余計にかかってしまうので、ある程度まとめて効率よく作業をしているのだそうです。

     絵柄や色使いに目を奪われがちですが、作品は雑誌の表紙やおもちゃのパッケージなど、文字の情報量も多いのが特徴。絵の描線とは別に、見出しから細かい文字のレタリングまで表現しているのは、七宝焼には珍しいことといえます。

     「現代っ子の目にスッと入っていくのに違和感のないモチーフやフォントを作りたい気持ちが強くて、文字の造形や作品の雰囲気作りは手を抜かないよう心がけています。それでも焼き上がった後に『作りが甘いなー』と思うことは山ほど出てきますが……」

     作品作りで心がけていることをうかがうと「平成レトロや、私が幼少期から大人になった今でもなんだかトキめくモチーフ、雰囲気は常に作品に出していきたいなと思っています」との言葉。ご自分の「好き」という気持ちをエネルギーに、作品を形にしていく様子が感じられます。

     たとえば、ニチアサ系アニメの放送画面左上に出てくるようなデジタル時計をモチーフにした「スーパーヒロインタイム」。今の16対9のアスペクト比ではなく、昔の4対3の比率にしているところも芸が細かいですが「これが銀線で文字を作り始めるきっかけとなりました」と語る、現在の作風を確立する上で記念碑的な作品でもあります。

    アニメの放送画面をモチーフにした「スーパーヒロインタイム」(masikiさん提供)

     また、その時代の「カワイイ」を凝縮したかのような「量産型ファッション」をモチーフとした「私が生まれてきた理由」は、あえてハート形うちわで顔を隠して匿名性の高い「量産型女子」性を出しつつも、カワイイを好きな気持ちがあふれ出ている作品。「現代的で流行的なモチーフは、これからもどんどん作品に閉じ込めていきたいと思っています」と語ってくれました。

    量産型ファッションをモチーフにした「私が生まれてきた理由」(masikiさん提供)

     古代の遺跡や墳墓から出土することがあるように、七宝焼はとても経年変化に強い工芸品。masikiさんはその特性を活用し「ある種の『浮世絵』をたくさん作って、100年後とか遠い未来の人に『なんコレ……』って思ってほしいです」とも話します。

    お菓子のおまけステッカーをモチーフにした「魔法戦士ぷりずむ」(masikiさん提供)

     これまでのイメージを覆す作品だけに、見た人からは「これ本当に七宝焼?」という驚きや、「昔やったことあるけどまたやってみたい」という反応をもらうことが多いといいます。

    「令和の時代に七宝焼を趣味として流行らすのが目標なので、ぜひ一度教室などで体験してみてほしいです」と、七宝焼の裾野拡大にも話が及びました。

     masikiさんのポップでカワイイ七宝焼作品は、TwitterやInstagram(masikiland)といったSNSで随時発表され、BASEで不定期に販売されるほか、展覧会でも見ることができます。2022年10月には、東京の2か所で個展とグループ展が予定されているとのこと。詳細はこれから発表されるそうなので、SNSでの発信をチェックしておく必要がありそうです。

    <記事化協力>
    masikiさん(@masikiland)

    (咲村珠樹)

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