ファンタジー作品に登場する、さまざまな幻獣たち。現実世界の動物とは異なるその姿形、どんな風に暮らしているのか、私たちは想像をふくらませます。

 フワフワの毛並みが印象的な幻獣を立体化しているのは、造形作家のもるさん。イキイキとしたポージングは、それぞれの性格まで感じられるようです。

 もるさんが造形作品を手がけるようになったのは、3年ほど前のこと。イラストを描くときのモデルとなる人形を探していて、球体関節人形やアートドールなどの世界に出会ったのがきっかけだといいます。

 「見たことのないお人形に夢中になり、手に入れたくても一点ものや海外作家様のものなど入手が困難で。そこで、造形経験はゼロにもかかわらず自作することにしました」

 手探りの中、作り方をYouTube、ネット、図書館で造形の本を借りるなどして調べ、作り続けるうちに40体以上もの作品が誕生しました。

頭部は粘土で作られる(もるひめ屋さん提供)

 もるさんによると、これらの生き物たちが暮らしているのは、獣人やドラゴンが人間と同じように文明や言葉を持って生活している世界。人間とともに暮らす彼らは、愛玩動物というよりも人間と同等、もしくはそれ以上の地位にいるのだそう。人間は、これらの生き物や自然と共生している存在のようです。

 ボディの中にワイヤーやトイスケルトンが入っているため、作品はどれもポーズの変更が可能。頭は粘土で造形されています。体には歯車やビーズといったモチーフも見受けられますが、このあたりは見て楽しい「お人形らしさ」を感じさせて、リアルとファンタジーの絶妙なバランスを見ることができます。

 お気に入りをいくつか挙げてもらったところ、最初に挙げられたのは学究肌の「砂の国のドラゴン《研究者》」。イラストでも紹介してもらったのですが、メガネをかけ、助手とおぼしき人間の女の子や小さなドラゴン、そしてツルハシを身につけていることから、ひょっとしたら鉱物学者なのかもしれません。

砂の国のドラゴン《研究者》(もるひめ屋さん提供)

砂の国のドラゴン《研究者》(もるひめ屋さん提供)

 トランクを手に、いそいそと旅支度を整えているのは「長期休暇のドラゴン」。この作品はホビージャパンから刊行されている「幻獣の作り方」というムックに、作例として掲載されています。

長期休暇のドラゴン(もるひめ屋さん提供)

 新作として紹介してもらったのは、水かきが鮮やかな色のグラデーションになっている「沼地のドラゴン《調査員》」。

沼地のドラゴン《調査員》(もるひめ屋さん提供)

 頭にはバイザー状のマスクを身につけ、色々な資料が入った箱を背負っています。沼の底で採取できる不思議な石や花を調べているのだとか。

沼地のドラゴン《調査員》頭部アップ(もるひめ屋さん提供)

 獣人の方で挙げてもらったお気に入りは、もるさんが「よく撮影している」という2作品。「砂の国の義肢屋」は、オオカミのような顔をした獣人で、トランクには義肢の調整器具が入っており、細かいセッティング調整をしてくれそうな雰囲気です。

砂の国の義肢屋(もるひめ屋さん提供)

 また「森の入り口の花屋」さんは、植物の栽培や研究をしています。大きなハサミを手にしていて、バラの剪定をしようとしているのでしょうか。

森の入り口の花屋(もるひめ屋さん提供)

 もるさんの頭の中には幻獣たちが暮らす世界の地図があり、大まかな土地や、そこにどんな生き物が暮らしているかということも考えているのだそう。「ですので、これからも少しずつ仲間が増えていくと思います」と、今後の展開についても語ってくれました。

 もるさんの作品はネットだけでなく、展覧会でも見る機会があります。2022年9月15日〜18日には、東京・原宿のデザフェスギャラリーWEST-2-Aで開催される「終焉の夏に鳴く展」に参加するほか、秋頃に群馬県のギャラリーにも出展予定だとか。このほかにも展覧会へのお誘いがあれば、TwitterのDMまで一報くださいとのことです。

<記事化協力>
もるひめ屋さん(@moluxy)

(咲村珠樹)