おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

ギョギョ!生きている時そのままの姿を再現する魚類剥製師「小川貴光」の世界

 生物の生きている時の姿を再現する剥製の中でも、美術剥製は生命の躍動を感じさせるポージングが持ち味。「オガワアートコレクション」代表の小川貴光さんは、魚類専門の剥製師。その作品作りについてうかがいました。

  •  長野県松本市にある「オガワアートコレクション」で、剥製作りをしている小川さん。剥製屋さんから資料提供を受けて剥製作りの基礎を学び、その後は独学で腕を磨き、独立して27年になるといいます。

    アメマスの剥製(小川貴光さん提供)

     独立当初は釣り人の記念魚(大物や珍しい釣果)を剥製にすることが多かったそうですが、現在は水族館や博物館から依頼されての希少魚、特殊魚の剥製が主になっているとか。それと並行して、劣化した剥製の修復作業も手掛けているそうです。

     毛皮のある動物と違い、魚類は皮が薄いことが多く、ウロコも脱落しやすいため、独特の技術が必要。まずは対象となる魚を型取りし、剥製にした際の芯を作ります。

    石膏型からウレタンの芯を抜く(小川貴光さん提供)

     型取りした魚は慎重に骨や肉を除去し、皮だけにします。芯材を包むように皮を被せたら、ヒレを広げて固定。その後自然乾燥するのですが、個体の大きさや気象条件によって期間は異なり、1か月~1年かかるのだそう。

    魚を皮だけにする(小川貴光さん提供)

    芯に被せて乾燥(小川貴光さん提供)

     魚は乾燥の過程でどうしても色が抜けてしまいます。このため、生きている姿の色合いに着色する作業が必要。絵画的なセンスも要求されるのですね。

     最後に表面を保護するウレタンクリア塗装をして完成。これで、いつまでも生きている時の姿をとどめることができます。

     小川さんはこれまでに2500を超える魚類剥製を作ってきました。なかでも、珍しい深海魚として時折話題となるリュウグウノツカイは10本も作っており、作品は全国の博物館や水族館で見ることができます。

    リュウグウノツカイの剥製(小川貴光さん提供)

     これまでに苦労した剥製についてうかがうと「デリケートな魚はたくさん種類があります」とのこと。皮が薄いだけでなく、ウロコが脱落しやすい魚、脂の強い魚などさまざまなんだとか。

     特に苦労するのが脂だそうで、皮を有機溶剤に漬け込んで脱脂作業をするのですが、それでも乾燥中ににじみ出てきてしまうことがあるといいます。「博物館や水族館のレアな魚種は、なにかと苦労します」とも語ってくれました。

     とはいえ、希少な魚を剥製にするということは、剥製師としてやりがいのある仕事でもあるのだそう。心がワクワクし、腕がなると語ってくれる言葉には、一流の矜持のようなものを感じました。

    深海ザメ「ギンザメ」の剥製(小川貴光さん提供)

     小川さんは自作の剥製を多数使った展示イベント「魚魚展(ぎょぎょてん)」も開催しています。さながら水のない水族館ともいえるイベントで、すぐ泳いで行ってしまう水族館と違い、魚の細部まで観察できる、剥製ならではの特徴が好評とのこと。

    「魚魚展」の様子(小川貴光さん提供)

     作品を見て、自分でも剥製を作ってみたいと思われる方もいるかもしれません。小川さんは、職業としてとりくむことは別として、趣味でやってみることはおすすめだと語っています。

     「形が悪かろうが、脂が出ようが、色が塗れなくても楽しむ事できると思います。専門職人の皆さんも、最初は基本を習いましたが、昨今ではネットで探せば作り方はたくさん出てきますね、そこから独学です。たくさん数をこなして、自分のオリジナルを作り上げていきます」

     数多くの魚を剥製にしてきた小川さんですが、今後も希少魚をメインに深海魚やサメといった、誰も作ったことのない魚を手がけていきたいとのこと。「シーラカンスとか作ってみたいですね!」という夢もうかがいました。

     小川さんの魚類剥製は、見たことのない魚の生活ぶりを想像する、良いきっかけになるかも。これまでの作品はTwitterのほか、公式サイトやInstagram(ogawa_takamitsu)で公開されています。

    <記事化協力>
    小川貴光さん(@gyosaisensei)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ
    グルメ, 食レポ

    丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

  • 口の中からコンニチワ!ノドグロに隠れていた謎の生き物に15万いいね
    インターネット, おもしろ

    ノドグロの口を開けたら…中から“謎の白い生物”がひょっこり

  • マンボウの姿造り
    インターネット, びっくり・驚き

    マンボウを1匹丸ごと姿造りに!レア食材の探求者は、何から何まで規格外だった

  • 画像提供:「はし佐商店」公式Xアカウント(@hashisashoten)
    インターネット, おもしろ

    まるで槍!約5kgの特大ヤガラに魚屋さんもビックリ

  • 画像提供:工作人カイセイ|アルミ缶の人さん(@yamarinPD)
    インターネット, びっくり・驚き

    鯛を食べていたら不思議な物体を発見!骨が「タイ」変なことに

  • ぴったりくっついて眠る仲良し鯉さん 平和なひとときに癒やされる……
    インターネット, びっくり・驚き

    ぴったりくっついて眠る仲良し鯉さん 平和なひとときに癒やされる……

  • 画像提供:YOUさん(@km_you)
    インターネット, おもしろ

    羽化直後のアブラゼミが神秘的 美しい姿に思わずうっとり

  • 画像提供:株式会社いわさき公式X(@IWASAKI_SAMPLE)
    インターネット, おもしろ

    食品サンプルの域を超えた「鮎の食品サンプル」 職人歴40年による感動の一作

  • 画像提供:谷口俊介さん(@urchin_lab)
    インターネット, おもしろ

    金平糖みたいな「ちっこいウニ」が話題 指先サイズだけど姿はしっかりウニ

  • 時期外れの暖かさの影響は蝶の生態にも影響 越冬せずサナギからまさかの羽化
    インターネット, びっくり・驚き

    【訂正】キアゲハのサナギが越冬せずにまさかの羽化

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • TikTok収益トラブルはシステム不具合 公式が謝罪と対応方針を示す
    インターネット, サービス・テクノロジー

    TikTok収益トラブルはシステム不具合 公式が謝罪と対応方針を示す

  • Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

  • ミライ人間洗濯機
    企業・サービス, 経済

    ミナミのホテルで「人間洗濯機」稼働開始 大阪・関西万博で注目の装置

  • ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念
    社会, 経済

    ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

  • KADOKAWAの「PressWalker」、2026年2月25日でサービス終了を発表 開始から約4年で幕
    企業・サービス, 経済

    KADOKAWAの「PressWalker」、2026年2月25日でサービス終了…

  • YouTube Premiumアドオン、日本を含む5か国で新たに提供へ Google Oneとセットで割安に
    インターネット, サービス・テクノロジー

    YouTube Premiumアドオン、日本を含む5か国で新たに提供へ Goog…

  • トピックス

    1. ミライ人間洗濯機

      ミナミのホテルで「人間洗濯機」稼働開始 大阪・関西万博で注目の装置

      大阪・関西万博で注目を集めた「人間洗濯機」が、ついに大阪・ミナミのホテルで稼働を始めました。導入した…
    2. ティーバッグ使用時の悩みを解決「二番煎じ待機スタンド」 デザインを学ぶ大学院生が製作

      ティーバッグ使用時の悩みを解決「二番煎じ待機スタンド」 デザインを学ぶ大学院生が製作

      ティーバッグ、一度だけ使って捨てるのはもったいなくて、何度も繰り返し使ってしまいますよね。でも、浸し…
    3. 運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      1995年から続く老舗CGI配布サイト「CGI RESCUE」が2026年3月末での終了を発表しまし…

    編集部おすすめ

    1. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    2. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    3. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    4. 「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊

      「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊

      「刑務所メシ」「くさい食べ物」「辺境メシ」「イスラム圏の飲酒」「殺し屋のダイナー」など、日常を外れた“食べ物”をテーマにした5冊を紹介します…
    5. 快活フロンティアの発表

      快活CLUB不正アクセスと“天才ハッカー美談”の危うさ──真面目な技術者を傷つける誤った称賛

      快活CLUB公式アプリへの不正アクセスで会員情報700万件超が漏えいした事件で、高校2年の男子生徒が逮捕された。ネットでは「将来有望なホワイ…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト