野生の生き物は、天敵(捕食者)から身を守るため、周囲に溶け込むような色合いや模様になっているもの。しかし時折、突然変異で変わった色合いの個体が生まれます。

 静岡県沼津の漁港で真っ白なナマコが発見された、と水族館の館長さんがTwitterで報告。種類は一体なんなのか、様々な意見が寄せられました。

 白いナマコの画像をTwitterに投稿したのは、静岡県駿東郡清水町にある「幼魚水族館」館長の鈴木香里武さん。幼魚水族館は2022年7月7日に開館した、成魚になる前の幼魚に特化した世界初の非常に珍しい水族館です。

 鈴木館長にうかがうと、この個体は沼津の漁港で漁師さんが海中にいるのを発見したものとのこと。珍しい白いナマコということで、近くにある幼魚水族館の運営会社(観賞魚の卸売業者)に連絡してくれたのだそうです。

 状態の方も良さそうなので、その日のうちに幼魚水族館に移送し、展示を始めたそうですが、鈴木館長はナマコの専門家ではないので、どの種類の色彩変異個体なのか分かりません。そこでTwitterを通じ、詳しい方からの情報を期待して画像を投稿したといいます。

 このツイートには様々な反応が寄せられました。中には全身に突起のある形態から「マナマコではないか」という意見もありましたが、種の同定についての結論は持ち越し、改めて専門家の判断を仰ぐことに。

 種への言及とは別に、皮をむいた「バナナに似ている」という反応も。バナナをモチーフにした有名なお菓子との共通点に言及するツイートも複数寄せられたため、鈴木館長はこの個体を種とは別に「ホワイトチョコバナナマコ」と命名しました。

館長お手製のネームプレート(鈴木香里武さん提供)

 体色が白くなる色彩変異個体で有名なのが、メラニンの生合成に関わる遺伝情報が欠損することによって発現するアルビノ(白化個体)で、数は多くないものの日本各地で見つかっています。しかし、この個体の場合、一部に体色の濃い部分があり、それがある種のチャームポイントにもなっているのが特徴。

展示初日の様子(鈴木香里武さん提供)

 水族館で展示が始まると、さっそく多くの方が見にきて人気者になっているという「ホワイトチョコバナナマコ」。展示初日は青いライトでしたが、現在は体色の白さが分かりやすいよう、白いライトのもと展示されています。

現在の展示風景(鈴木香里武さん提供)

 鈴木館長は元気な限り展示を続けたいとしつつ、今後について次のように語ってくれました。

 「写真だけでは正確な種類まで特定できないので、専門家にも見ていただいて、どの種類の色彩変異個体なのか、そして一部だけ焦げ茶色が残っている謎も解明したいと思っています。焦げ茶色の部分がどう変化していくのかも気になるところです」

 幼少時から漁港に通い、タモ網で海面にいる幼魚をすくってきたという鈴木館長は、これまでにも毎年のように世界初レベルの珍種に出会っているそう。幼魚水族館の開館前には「アカグツ」という深海魚(アンコウの仲間)の赤ちゃんをすくい、その衝撃的な可愛さは幼魚水族館のロゴマークのモチーフにもなっています。

アカグツの幼魚(鈴木香里武さん提供)

 幼魚水族館には、ほかにも体が小さく、体色も出ていないことが多い幼魚が数多く展示されています。成魚と違い、なかなか目にする機会のない幼魚ですが「小さな体に詰まった壮大な生き様、たくましい生き残り戦術、進化の神秘、そして可愛らしさをお伝えしたいと思っています」と鈴木館長は話してくれました。

 白い「ホワイトチョコバナナマコ」が展示されている幼魚水族館は、JR三島駅からバスまたはタクシーで約15分のところにあるショッピングモール「サントムーン柿田川」オアシスの3階にあります。詳しいアクセス情報、料金や開館時間などは、幼魚水族館公式ページで確認するようにしてください。

<記事化協力>
「幼魚水族館」館長・鈴木香里武さん(@KaribuSuzuki)

(咲村珠樹)