世の中にはさまざまな「ボッタクリ」や「詐欺」がはびこっています。つど消費者庁や警察が動くのですが、また新たな手口で我々に忍び寄り、イタチごっこ状態です。

 特にネット上で行われる詐欺は、数も種類も多くてやっかい。筆者は新しい詐欺をみつけては突入し、「みなさまの代わりに詐欺られて記事にする仕事」をしておりますが、このところは繁忙期といっても過言ではありません。

 そんな中、先日新たな「バイト詐欺」に遭遇。筆者がもつ、「詐欺師にカモられる専用」のアカウントにスカウトがありました。果たしてこの詐欺に釣られると何が起きるのでしょうか。

■ バイト詐欺とは

 「バイト詐欺」とは、「儲かる」「収益化」「マネタイズ」などと、副業など仕事の話を持ちかけ、結果金を騙し取るという手口の詐欺です。特に「お金に困っている方」は格好の餌食となります。

 「バイト詐欺」の基本の流れは大まかに次の通り。なお、細かい設定(出てくる会社名や仕事内容)は全て異なります。

【ネットで行われる「バイト詐欺」の手口】

(1)SNSなどを通じて「高額報酬で簡単作業」をうたう「うまい話」のバイト募集が行われる。DMでスカウトが来るケースもあれば、X(旧:Twitter)などでは「高額バイト募集」としてポスト(投稿)されているケースもあります。

(2)バイトに応じると、LINEなどに誘導。LINEを通じて業務説明が行われます。作業内容は簡単な場合がほとんどです。

(3)いざ給料を貰おうとすると、「口座確認のため」など理由をつけて、「手続き費用」として金銭を要求されます。請求額は数百円から数万円とバラバラ。

(4)無事振り込みをすませ「高額なバイト代が貰える!」かと思いきや、入金後ぱったり連絡が取れなくなるケースや、さらに個人情報をもとめられて、その情報が別の詐欺に悪用されるケースもあります。

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 ということで、「バイト詐欺」の中でも、今回はどんなパターンなのか?接触を始めます。

■ はじまりはXのDMからのスカウト

 今回のはじまりは、突然見知らぬ相手から、XのDMを通じて連絡が来るというスカウトスタイルでした。

 「全力でうさんくさい」と感じ、「プロ詐欺ラレヤー」※の矜持として即座に反応。案の定、ヤバ目の案件でした。(※詐欺られることを生業にしている筆者についたあだ名。読者命名です)

 DMをくれたのは「いお○」(○は伏せ字)と名のる女性。そしてアイコンは、詐欺アカウント王道の「美女アイコン」です。

Xへ届いた「いお○」からのスカウトDM

 緊急で100人のアルバイトオンラインスタッフが必要だといい、「勤務時間は30分から1時間」で「毎日5000円から3万円」が稼げるといいます。そんなうまい話あるか!!

 ちなみにこの「いお○」。接触最初こそ、「いお○」となっていましたが、後に記事化の際に改めて確認すると、今度は「ya○○○」なる名前に変更されていました。アイコンも何かのシンボルマークのようなものへと変更。

「いお○」のXアカウントを後日確認すると「ya○○○」にかわっていた

 さて、この時点で100%詐欺だと分かっちゃいるけど、読者の代わりにその先を見てくるのが「プロ詐欺ラレヤー」のお仕事。「いお○」と名のるこの人物からのメッセージに「素直」にしたがい、記載されたLINEアカウントへと進んでいきます。

※今回は潜入用にあえて釣られています。遊び半分で釣られると、想定外の被害を招くので絶対に真似しないでください。

■ 「バイト詐欺」の内容

 指定のLINEにコンタクトをとり友達申請をすると、すぐに承認されました。しかし、今度の名前は「H田Y美」(HやYは編集部で置き換えました)。DMでスカウトしてきた「いお○」名義とは異なります。

LINEでつながったのは「H田Y美」

 これも詐欺アカウントの流れではよくあるパターン。「SNSアカウントとLINEの名義が異なる」のは、ネットを通じて行われる詐欺の鉄板中の鉄板。

 教科書に絶対のることはない「傾向と対策」ですが、人生のテスト(実際に詐欺に遭遇したとき)には役立つはずなので、不審を見抜くポイントとして覚えておくといいでしょう。

 話を戻しますが、接触すぐにメッセージが届きました。

 どうやら、「オンライン上の専用ツール(H田曰く「仕事プラットフォーム」)」で指定の作業を行うことによって、最大60万円の報酬が得られるようです。本当ならばこれはすごい。

 そして以降、指定された「オンライン上の専用ツール」を使ってお仕事していくわけですが、この専用ツールのサイトを開こうとすると、セキュリティが立ち上がり「これはフィッシングサイトです」と警告。警告が立ち上がる時点でこのサイトは、詐欺師が用意した「偽サイト」の可能性がぐっと高まります。

セキュリティが立ち上がり「これはフィッシングサイトです」と警告

 では、次にセキュリティの向こう側をのぞいてみましょう。現れたのは世界で有名なアプリ広告プラットフォーム「AppLovin社」のロゴが入ったページ。有名アプリのアイコンもずらっと並んでいますが、どれも無断で使われているのでしょう。

バイト詐欺のお仕事画面

 念のためにAppLovin社の本物のドメインと比較しましたが、誘導された「オンライン上の専用ツール」のサイトのドメインとでは、似せてはいるものの別ものであることが分かります。

【本物と偽物】

▼AppLovin社の本物のドメイン
applovin.com

▼偽AppLovin社のドメイン(○は編集部で伏せました)
applovin-○○○.com

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 なお、本件に関して本家「AppLovin」社から、「偽ウェブサイト」「偽バイト」についての注意喚起が行われています。

 「無断で弊社名を騙った偽ウェブサイトが開設されていることが確認されました。偽ウェブサイトと弊社は一切関わりはございません」「オンラインでアルバイト募集を行うことはございません」とのこと。

AppLovin Japanの注意喚起

■ 指定された作業を行っていく

 公式からの注意喚起からも、今回の「AppLovin社」を名のる相手が偽者だということが分かりました。つまり指定された仕事は、偽AppLovin社のアルバイト。指定されたツールを用いて、各アプリへと何らかの支援を行わせるようです。

バイト詐欺例のアプリの様子

 そもそも「AppLovin社」は、世界でも有名なアプリ広告プラットフォーム。モバイルアプリにプラットフォームを提供し、広告出稿、広告マネタイズの支援をしている企業。そんなメジャーな企業の仕事を行えるなんて、本当ならば夢のようです。しかも難関の書類選考や面接もなく、採用!?そんなウマイ話があ・る・わ・け・ない!

 と、わかっちゃいるものの潜入を進めます。今回潜入した偽AppLovin社のアルバイトの、仕事内容の詳細は、「オンライン上の専用ツール」を用いて、次々と出てくる有名なアプリに対し、ひたすら「提出」という意味不明なボタンを押す作業。

 この「提出」が何の意味があるのかよくわからないのですが、広告のクリックなどが間接的に行われる?ということなのでしょうか。

 そうだとしたら、このツールはヤバいです。なぜならば、広告に対し直接ではなく、間接的にクリックを行い、不正に広告をクリックしていることになります。事実であれば大問題ですが、もちろんこれは詐欺サイト。

 ちなみにH田に「闇バイトですか?」とか「ダウンロードを不正に釣り上げるのか?」と質問してもトンチンカンな回答がかえってきました。そもそもH田の日本語が変。はじめは流ちょうかとおもいきや、言い切りが多くどこか機械的。何らかの言語を、翻訳ツールを使って日本語に訳している可能性が考えられます。

闇バイトか聞いてみた

■ 報酬を受け取ろうとしたら……

 一通り簡単な作業を行いました。この後気になるのが、報酬のうけとりかた。

 その質問をしたところ、「待ってました」と言わんばかりに、「H田」ではなく、別の「お金やり取り専用LINEID」を紹介され、そちらとやり取りを行う段取りとなっていました。

 で、もうひとつのLINEIDは、「AppLovinサービス」というドストレートなアカウント名。もちろんこれも本家とは関わりのない、詐欺師が用意した偽アカウントです。

出金は別のアカウントとやりとりする

 偽公式アカウントとコンタクトをとると、話した感じ、最初だけは「H田」より会話ができるようでした。しかし、報酬を受け取ろうとすると状況が変わり、以下のように返信が。

「正式なタスクのリセットには1,0000円の残高が必要です。正式なタスクのため、アプリケーションストアは本物の最適化データを受け取る必要があります。今、お客様サポートセンターに連絡して、6100円を入金するための入金口座番号を取得してください。
その後、第二のセットの作業割り当て40/40をリセットするために申請してください。カスタマーサービスに伝えてください:入金と第二セットの正式なタスクのリセットを希望します。今、お客様サポートセンターに連絡して、6100円を入金するための入金口座番号を取得してください」

 うーん……意味がわからないので、超訳すると、「口座を教えろ」「入金しろ」ということのようです。

 ちなみに、口座の連携はPayPayを使用。二次元バーコードが送られてきたのでそこに送るようです。

 そもそもなぜバイトをする側が、金を払わなきゃならんのだ?

出金までの流れ

 お金を払うように見せかけ、騙し取るつもりだな。「バイト詐欺」の基本をおさえた展開です。

 普通はここまでくれば「あ、詐欺だ」と気づき、踏みとどまるのかもしれません。しかし、ここで終わったら「普通」である。

 ご安心ください、私は「プロ詐欺ラレヤー」。このまま突き進んで、騙されます。

 ついでに要望では1万円だったところ、ちょっと桁数を落とし「1円」を振り込むというボケをかましてみました。

報酬をうけとるためにPayPayからの送金が必要

 その後、振り込んだら、その画面キャプチャをよこせというのですると……

 「これは1円です」

バイト詐欺例のPayPayへの出勤依頼があったので1円振り込む

 吹いた。

 1万円じゃなく、1円であるというボケに、ちゃんとリアクションをとった。

 なんとも間抜けなやり取りではありますが、結果、1円とはいえお金を取られるという「被害」にあったので、ここで終了します。

■ 他の機能もみてみる……

 さてこの「専用ツール」のサイトには他にも機能がありました。

 それは、自ら口座連携を行える機能です。たとえばPayPayなどは口座連携を行うことができます。試しに口座番号・パスワード等をいれてみると、正常に終了。

口座連携画面

 安心してください。入力したのは、もちろんデタラメの口座番号・パスワードです。

 つまりデタラメでも通ってしまうので、明らかにこれは不正に情報を抜き取るだけのフォームです。絶対に入れてはいけません。

 おそらく、PayPayで入金をした後、ここで口座を連携し、情報をさらに抜き取るといった魂胆だったに違いありません。

 ちなみに、クーリングオフならびに返金を要求したところ「休みます」と意味不明な返事とともに「また明日ね」「おやすみなさい」と、「公式らしからぬ」まるで彼女と話しているかのような設定で返事がかえってきました。

 このお方は、おそらく別件で「出会えない系詐欺」の勧誘も行っているんじゃないでしょうか。設定を混在していると思われる。

 そしてその後、無事連絡は途絶えました。

最後にお休みを言う、バイト詐欺

 結論として「楽して稼げるうまい話」はありませんでした。お金に困っているときにはこうした「うまい話」が気になるかもしれません。しかしながら、そうした状況だからこそ「つけ込む悪いやつがいる」というのは是非覚えておいてください。
 
(たまちゃん)