ロシア国防省は、太平洋艦隊の救難航洋曳船フォーティ・クリロフが、潜水ロボット「ヴィチャズD」の試験を終え2020年5月23日(モスクワ時間)、ウラジオストクに帰着したと発表しました。この試験でヴィチャズDは、初めてマリアナ海溝最深部への到達に成功しています。
ヴィチャズ(騎士)Dは、ロシアのルビーン海洋工学中央設計局が開発した無人の自立型潜水ロボット。深海作業のために設計されており、今回フォーティ・クリロフに搭載されて太平洋での実証実験に供されていました。
実証実験の航海は29日間に及びました。まず手始めに、日本海とフィリピン海で2400mと5200mの潜航試験を実施。潜水能力と、深海での動作状況が確認されました。
マリアナ海溝最深部、チャレンジャー海淵への潜航試験は5月8日。翌日の大祖国戦争(第二次世界大戦における独ソ戦)勝利75周年に合わせて実施されました。そしてモスクワ時間22時34分、ヴィチャズDは海底に到達。搭載された深度センサーの値は、1万28mを示したといいます。
これまでマリアナ海溝での無人潜水機による潜水記録は、日本のロボット深海探査機「かいこう」が1995年に記録した1万911m±3mですが、これは有線操縦によるもの。ロシア国防省によると、ヴィチャズDが記録した水深1万28mは、完全自律型潜水ロボットとしては世界初のものとしています。
ヴィチャズDは海底に3時間余りとどまり、その間に海底の地形調査(マッピング)や写真・動画の撮影をしたほか、大祖国戦争勝利75周年を記念したペナントを置いて浮上したといいます。
ウラジオストクに帰ってきたヴィチャズDとフォーティ・クリロフは、太平洋艦隊副司令官のイゴール・コロレフ少将らに出迎えられ、歓迎を受けました。フォーティ・クリロフの乗組員、そしてヴィチャズDの運用に携わった技術者に対し、コロレフ少将からヴィチャズDをあしらったデコレーションケーキがプレゼントされています。
コロレフ少将は、ヴィチャズDがこれからの深海探査において、海軍を含む様々な潜水機設計の有望な基礎になることへの期待も口にしています。極限の環境である深海探査において、無人の自立型ロボットが果たす役割は大きく、ロシアは今後も深海探査ロボットの研究開発を進めていくものと思われます。
<出典・引用>
ロシア国防省 ニュースリリース
Image:ロシア国防省
(咲村珠樹)