おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

読者を増やすためだと言えど…電子コミックの過激なバナー広告について議論

スマートフォンでインターネットを閲覧していると高確率で出現する電子コミックサイトのバナー広告。月額コースを購入するか1話もしくは1巻ずつ購入してコミックを読むことができるサービスです。

それぞれのサイトが頻繁にキャンペーンを行っているために、会員登録した場合は期間限定で対象のコミックが1巻ないし数巻まで無料で読めたりするというお得さから、会員登録する人が増えていますが、このところ作品の過激な場面を切り抜いたバナー広告についてネットで議論されています。

意見としては「過激な場面だけを切り抜いているので本来の作品ジャンルと違って伝わっている」という作品ファンからの指摘や、「見ると気が滅入る」といったもの。

  • 【関連:電子書籍に関する過去記事】

    ■人気作であり名作と評判の『透明のゆりかご』は……

    話題となっている電子コミックサイトですが、人気上位には一般の書店とは多少違ったライナップが並びます。

    電子コミック大手「めちゃコミック」の発表によると、同媒体で2016年度最も売れた作品は沖田☓華さんの『透明なゆりかご』になるそうです。10代で産婦人科医院の看護師見習いとなった筆者が綴るリアルなエッセイ漫画は、多くの人に産婦人科の実態を伝えました。 生命の誕生だけでなく、中絶や流産、望まない妊娠、それに至る厳しい現実など綺麗事を一切排除したエッセイは多くの年齢層に読まれ、読んで涙する人も多いほどに支持され続けています。

    透明のゆりかご 1巻表紙

    『透明なゆりかご』は講談社「Kiss PLUS」を経て「ハツキス」にて現在連載中。コミックスは4巻まで発売されています。元々連載作品として注目されていたものの、人気の爆発に一役買ったのは電子コミックのバナー広告だと言われています。

    人気作品とあって現在までに様々なバージョンのバナー広告が打たれ、見かけたことがあるという人も多はず。バナー広告によって注目度が上がり実際読む人が増えたとは言え、しかし良いことばかりではありません。

    ■作品本質を台無しにするようなページの切り取り方

    先は「めちゃコミック」のランキングの中から例示しましたが、同じく電子コミックサイト大手「ハンディコミック」で、2016年の年間総合ランキング1位のコミックは『善悪の屑』(著:渡邉ダイスケ)。こちらはバナー広告と作品の内容にほとんど相違がない稀有な例となっています。続編である『外道の歌』は現在でも多くのバナー広告で宣伝されており、売上は上々。

    善悪の屑 1巻表紙

    『善悪の屑』は復讐代行人である主人公が過去に傷を負った人々に依頼され、粛々と遂行していく様子が描かれた物語。ちょっと怖い作品ではありますが読者からは「胸スカ感がすごいマンガ」とも表現されています。バナー広告でもショッキングなシーンが切り取られ使用されることの多い作品ですが、作品の内容とほとんど相違がなく、バナー広告を見て期待し購入した読者も満足しているからこそ売れ続けているのではないでしょうか。このように作品の内容とバナー広告が合致している場合は問題ではないように感じます。

    しかし、作品の主旨とはかけ離れた広告が打たれてしまうことは問題です。物語の本筋や伝えたいことを無視し、広告を見た人が思わずクリックしてしまうようなショッキングなシーンのみを、あたかも物語の概要として伝えてしまうことは、一時的な売上や広告費収入を増やすだけで著作者には果たして正当な利益をもたらすのか疑問が残ります。こうした切り取り方については「そこ切り取る?」「もっと紹介するページあるでしょ」とネットでも読者から度々指摘の声が上げられています。

    また、この問題は後述する問題も引き起こす原因になると考えられます。先に挙げた『透明なゆりかご』でも、例えば義父に性的虐待されていた少女の妊娠と中絶エピソードの話に焦点が当てられ広告が打たれたことがありました。しかし、あくまで焦点は看護師見習いである主人公と少女の交流であるのに「性的虐待された少女」に興味を持たせるような広告の作り方には当時ネット上で賛否両論が集まりました。

    ■広告の「うざい」が作品への拒否反応に繋がってる

    バナー広告と作品内容との相違以外に、こんなケースもあります。

    ネガティブな場面やショッキングな場面が強烈に切り取られてあちこちのサイトで掲示されている場合、目にした人の中には「もううんざり」「この広告見ると気が滅入る」「胸くそ」「うざい」と感じる人が少なからずおり、それが広告主でないにも関わらず作品自体にその批判が向かうという事が起きています。

    当然ですが、バナー広告は著作者が製作しているものではありませんし、著作者がお願いして掲載してもらっているものでもありません。しかし、広告を見た人は、何度も表示されるショッキングな内容にうんざりしてしまい、作品自体に罪がないにも関わらず「○○うざい」と、広告の印象からその作品を読んでいないにもかかわらず否定的印象を持つ人もいるのです。
    「読んでみたらおもしろかった」というのは、作品を実際に購入し読むまではわからないこと。しかもそれに至るまでには、バナーを見たりクリックするのとは比にならない労力を要するのです。

    ■バナーで切り取られる「エロ」「グロ」「ショッキング」なシーンたち

    バナー広告は、それをクリックすることで広告を打ったサイトへの誘導を目的としています。いかに利用者の心を捉え好奇心をくすぐるかがポイントとなり、各業界の担当者が奮闘している様子が伺えます。

    しかしながら、1枚のバナーで人気作の魅力を伝えるのは至難の業。製作者やサイト側としてはどうしてもバナーをクリックしてもらいたい。そういう考えのもと、人気作の広告を打ち出しながらも、その作品の主に「エロ」「グロ」「ショッキング」なシーンを切り取って扇情的なコピーを添えているのでしょう。

    広告を見かけた人のほとんどは作品を読まず、露悪的につくられた広告だけが記憶に残ります。そして、本来ならば読者になるはずだった人も、そのバナー広告のせいで作品自体を拒否してしまう人もいます。ショッキングなものほど記憶に残りやすく、また話題に上るのは事実。

    あなたは、このバナー広告の問題をどう考えますか?

    (貴崎ダリア)

    あわせて読みたい関連記事
  • 休止から5か月、「マンガ図書館Z」ついに再開 クラウドファンディングで復活
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    休止から5か月、「マンガ図書館Z」ついに再開 クラウドファンディングで復活

  • 「マンガ図書館Z」のサイト再開予定日が4月25日に決定 支援額は900万円を突破
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「マンガ図書館Z」のサイト再開予定日が4月25日に決定 支援額は900万円を突破…

  • 電子書籍サービス「マンガ図書館Z」のクラウドファンディングが目標金額達成 4月のサイト再始動に向け前進
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    電子書籍サービス「マンガ図書館Z」のクラウドファンディングが目標金額達成 4月の…

  • 電子書籍サービス「マンガ図書館Z」がサイト停止へ 今後も再始動への道を模索
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    電子書籍サービス「マンガ図書館Z」がサイト停止へ 今後も再始動への道を模索

  • TVアニメ「俺だけレベルアップな件」第2期ティザーPVメインカット
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    TVアニメ「俺だけレベルアップな件」第2期ティザーPV公開

  • アイエエエエ!?漫画版「ニンジャスレイヤー」が全巻一冊33円セールを敢行
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    アイエエエエ!?漫画版「ニンジャスレイヤー」が全巻一冊33円セールを敢行

  • 「NHK WORLD」をかたる詐欺広告(編集部にて一部モザイク処理を施しています)
    インターネット, 社会・物議

    NHKの広告かな?いえ、これは偽なんです ネットに溢れる詐欺広告について

  • サポート詐欺をクリックすると・・・
    インターネット, 社会・物議

    大手サイトにも「サポート詐欺」に誘導する詐欺広告が出現 一言メッセージの意味深広…

  • Xでヤバ過ぎる詐欺広告を発見 広告として出てくる「なぜご飯を食べられないのですか?」は絶対踏むな
    インターネット, 社会・物議

    Xでヤバ過ぎる詐欺広告を発見 広告として出てくる「なぜご飯を食べられないのですか…

  • 画像提供:じゃぐ@食品研究さん(@food_juggle)
    インターネット, 社会・物議

    怪しい表現に騙されないで!食品科学の研究者が広告にツッコミ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 期間限定メニュー「厚切り豚角煮定食」
    インターネット

    ド迫力の塊肉!吉野家「厚切り豚角煮定食」が登場 ねぎラー油&からしで味変も

  • 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…
    アニメ/マンガ, 声優

    朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

  • モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現
    商品・物販, 経済

    モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現

  • 麻婆豆腐ごはん中辛
    商品・物販, 経済

    お湯を注いで5分、丸美屋の“即席麻婆ごはん” 開発2年半のこだわり詰めて発売

  • KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

  • 「YOASOBEER PROJECT」の新TV-CMおよびWEB-CM「UNDEAD」篇
    エンタメ, 音楽・映像

    YOASOBI×サントリー新CM公開 ダウ90000の蓮見・園田・上原がゲーム開…

  • トピックス

    1. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    2. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…
    3. ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      株式会社ポケモンは7月30日、スマートフォン向けポケモンカードゲームアプリ「Pokemon Trad…

    編集部おすすめ

    1. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    2. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    3. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    4. 子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子どもにとっては待ちに待った夏休み。しかし親にとっては……。我が子が夏休みに突入したある母の後ろ姿が、まるで“戦士”のようだとXで話題を集め…
    5. KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      株式会社KADOKAWAは7月23日、イラストレーター・がおう氏に関する一連の報道を受け、同氏が関与した複数の出版物について、紙書籍の回収・…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト