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産経の“5本盗用”が映す、記事制作の現場のいま

 産経新聞社は12月2日、同社が運営するインターネット媒体「emogram(エモグラム)」で、J-CASTニュースなど5媒体の記事を盗用していたことを明らかにし、謝罪しました。

 記事の盗用が公表される例自体は業界でも皆無ではないものの、同一担当者による5本同時の発覚は新聞社としても珍しく、今回のケースは異例といえます。一方で、表に出ないだけで同種の問題は業界のさまざまな場所で起きているのが実情です。

  • ■ 問題となった5本の記事

     今回の対象となったエモグラムは、2025年5月に開設されたばかりのトレンド情報メディアです。

     産経の説明によれば、問題の5記事は、まいどなニュース、読売新聞オンライン、J-CASTニュース、千葉日報オンライン、スポニチアネックスの記事を下敷きに、語尾を変える程度の加工をしたものだったといいます。引用の範囲を大きく逸脱した“コピー記事”であり、元記事の掲載媒体にも著作権侵害として説明と謝罪を行ったとしています。

     発覚の端緒はJ-CASTニュースの記事で、11月26日夜に外部からの指摘が寄せられたことで明るみに出ました。執筆したのはいずれも同じ派遣スタッフで、当初は1本の盗用が判明しましたが、残る4本についても本人から申告があったといいます。

     エモグラムでは記事をデスクがチェックしていましたが、10月下旬以降はデスク業務の一部を外部編集者に委ねていました。問題の記事もこの外部編集者が担当し、盗用に気づかないまま通してしまったとしています。社員が関与しない体制で記事が出稿されていた点について、産経側は「体制にも問題があった」と認めました。

    ■ 業界全体に広がる深刻なひずみ

     こうした事例は、実は産経だけで特別に起きているわけではありません。特に大手メディアほど、会社が把握しないまま他社の記事の著作権を侵害しているケースは、当人たちが気づいていないだけで、もはや珍しいものではありません。

     背景には、ここ数年業界全体で起きている大幅なPV減少や広告単価の下落があります。PVを維持するために記事本数を増やし、同時にコストを抑える必要から、執筆や編集の一部を低単価で外部に委託する流れが加速しました。その結果、一本一本の制作に十分な時間を割けない構造が定着し、著作権への理解が十分でない人がライティングや編集を担う場面も増え、さらに内容を丁寧に確認する体制そのものも弱体化しています。

     その中で、SNSで見かける“引用のようで引用でない使い方”が、無自覚のまま制作現場に持ち込まれ、企業として出すべき記事にも同じ感覚で他社原稿を扱ってしまう例が後を絶ちません。また、外部制作の現場では、現場指揮者が“コスパ”の名目で他社記事やコンテンツの改変を“暗に指示”するケースまであると聞きます。

    ■ 被害を受ける側の現実

     おたくま経済新聞でも、これまで複数の大手媒体から盗用被害を受けてきました。筆者も編集部の管理職として対応にあたってきましたが、まず返ってくるのは「記事を削除しました」という一報と形式的な謝罪だけで、公表に至った例は1件しかありません。表に出さないまま処理されることが多く、今回の産経のように迅速に事実を示したケースはむしろ異例に見えます。

     さらに驚かされるのは、外部委託記事の場合「開示請求があればライター情報を開示するので、そちらと直接やり取りしてほしい」と突き放される対応がしばしばあることです。本来なら掲載媒体の担当者が前面に立つべき場面で、責任から逃げるように一瞬だけ顔を出して消えたり、最初から出てこず対応を外部に丸投げすることすらあります。

     また、中でも最も衝撃的だったのは、「まとめサイトから引用しました」と悪びれもせずに告げられたケースでした。まとめサイトに掲載されている時点で無断転載の可能性が極めて高いことすら理解しておらず、その上でそれを“引用”の名を借りて堂々と使っていたという感覚の麻痺ぶりには、怒りよりも先に呆然としました。こうした無知と無責任が組み合わさると、ここまでひどい形で表に出るのかと暗澹たる気持ちにさせられます。

     結局のところ、対応に追われ疲弊するのはいつだって被害側であり、この理不尽な構図が何年も放置され続けています。その事実そのものが、業界に染みついた深い歪みを象徴していると痛感せざるを得ません。

     特に小規模メディアである弊媒体は、「声を上げないだろう」と軽く見られているのか、盗用被害に遭う事態がいまだに年2~3回のペースで起きています。しかも相手はすべて大手です。都度連絡し抗議を続けてきたものの、相手は先述の通りその場しのぎの謝罪を口にするだけで、改善策を提示するわけでもなく、責任の所在を曖昧にしたまま逃げ回り、担当者をたらい回しにしてきます。

     一方で現場では、自分たちの読者へ記事を届けるための貴重な時間が、他人の杜撰な行為の後始末によって容赦なく奪われていきます。そのたびに、なぜ加害側の怠慢のツケをこちらが払わされるのかという怒りとやるせなさだけが、否応なく積み重なっていくばかりです。

    ■ 業界が向き合うべき根本的な問題

     今回の産経の公表は、業界全体に積み上がってきた問題の一角を、否応なく可視化した出来事です。著作権リテラシーの不足も、外部委託構造のゆがみも、チェック機能の形骸化も、決して昨日今日の話ではありません。それでも大手を含め、多くの媒体が“不都合な現実”から目をそらし続けてきました。

     見て見ぬふりをしてきた構造の上に、今回のような事例は必然として起きます。だからこそ、本来なら業界全体がもっと早く向き合うべき課題だったはずです。今回のケースが、ようやくこの長い停滞に風穴を開けるきっかけにならなければ、同じことは何度でも繰り返されるだろう――そんな危機感を強く抱いています。

    <参考・引用>
    emogram「【お詫び】エモグラムでの記事盗用について」(12月2日)

    (宮崎美和子)

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    鹿児島県産。放送関連、印刷、ソフト開発会社を渡り歩きさまざまな職種を経験。ライターデビューもこの頃。その後ゲーム会社に転職しMD(主にサブライセンス管理)、マーケを経験。運営・システム関連では管理職も務める。2008年にWEBライターとして独立。得意分野はオカルト、ネットの話題、過去職の経験から著作権と雑多。趣味は読書。40才すぎてバレエを習い始めました。

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