再び現れたサービスA(M科技)の星野は、こちらからの質問に対し、ハッキリ回答するようになっていました。あまりにもしっかり回答してくれるので、思わず戸惑ったほど。
本稿は『「もふもふ動画」はただの無断転載アカウントではない?その正体に迫る<前編>』に続く後編。前編では謎だったことが、再び現れた星野の回答によって解き明かされる、怒濤の伏線回収篇となっています。
■ 再度現れたサービスA(M科技)の星野は口が軽かった
再び現れた星野がまず答えたのは、前回最後に送った「もふもふ動画」は、「サービスA(M科技)」の運営なのかという質問。これには「弊社運営ではない」と否定。
しかしそのまま真に受けるわけにはいきません。質問の仕方をかえて、「もふもふ動画」の運営者についてたずねると、「お客様の個人情報を保護するために教えられません」と関係をにおわす回答が。
そこでサービスAについての質問を挟んで会話をすすめると、セールストークのつもりなのか「もふもふ動画の運営さんと3年以上提携し続けていますよ。ご安心ください」と、提携状態であることを自ら言い出しました。それは逆に不安でしかないのですが……。
次に分かったのが、社名は「M科技」ではなく、「○○市W网絡科技有限公司(以下、W网絡科技)」だったこと。社名について質問したら、すんなり教えてくれました。しかも中国民間の企業情報サイト「企査査」のスクリーンショットつきで。
念のためにこちら側でも、企業情報サイト「国家企業信用信息公示」で検索してみるとヒット。ついでに、他の企業情報サイト「信用中国」(運営:中国国家発展改革委員会)と、星野が送ってきた「企査査」でも調べるとどちらも出てきました。
■ 似た名前の2つの会社
調べてみてまず分かったのが、住所が2つあること。星野が送ってきた「企査査」のスクリーンショットには2つめの住所が書かれていませんでしたが、「登記住所」と「連絡先住所」の2つあることが判明。両方とも同一市内の別の場所です。
そして興味深かったのが、登記上の住所は、M科技のホームページにあるものと“ほぼ”一致したこと。最後だけ少し違っていました。
ホームページに掲載されていた住所の最後は「~西側2階」。登記データ上の住所は最後「~東側2階」。建物名までは全く同じなので、登記エリアと作業エリアは違う、という差なのかもしれません。
とりあえず、最後の西か東かの違いだけで、その前までは登記上と完全一致することに驚いてしまいました。あれ本当の情報だったんだ。
他にも調べて分かったのが、どうやら「M科技」は旧名称。会社自体は2014年に設立され、2016年に「W网絡科技」へと名称変更したようです。
実は、伏せている「M科技」の「M」部分と、「W网絡科技」の「W」部分は中国語で同じ意味を持っています。よって、名称変更というより「表記を変えた」というほうが意味合いが近いかもしれません。
星野にも、ホームページに記載されている社名と実際の社名が違う点について聞いてみると、「(M科技は)略称です」と答えています。本人たちもその程度の認識なので、名称変更した後もサービスAの表向きの看板だけは「M科技」を使い続けていたことが考えられます。
加えて2019年には「似た名前」の別会社を設立していたことも分かりました。これも星野が教えてくれたわけではなく、「W网絡科技」の求人情報を見ていてたまたま気がつきました。
中国の会社には「社会信用コード」というものが割り振られています。何か公式なものに掲載されるときは、社名や創立年とセットで扱われることが大半。
よって求人サイトにも掲載されているのですが、「W网絡科技」の求人には「2014年設立・W网絡科技」の社会信用コードが掲載されているものの、創立年が2019年になっていました。本来であれば2014年のはず。
不審に思い調べると、「W网絡科技」に似た名前の「W科技」という会社があることが判明。
似た名前の「W科技」は、2019年設立。「2014年設立・W网絡科技」とは、社会信用コード、法定代理人(代表者)、登記住所が異なります。法定代理人には求人サイトに書かれていた「CEO」と同じ名前が記されていました。
登記住所は求人サイトに書かれていた住所と同じ住所であり、「2014年設立・W网絡科技」の連絡先住所と同じでした。なお、2014年設立・2019年設立ともに会社状況は「生存(存続)」です。
つまり、求人上では「2014年設立・W网絡科技」の社会信用コードと社名を掲げつつ、設立年・社長名は「2019年設立・W科技」のものを使用。
どういう目的で似た社名の会社があるのか、企業情報を混在させているのかはわかりませんが、こうした運営実態もあり、日本から「M科技」「W网絡科技」について調べると、正しい情報にたどり着きづらくなっていたようです。
そして求人サイトを見ていてもう一つ驚いたのが、組織規模。「100~499名」になっていました。まとめサイトの数が尋常じゃないのはわかっていたので、ある程度の組織だとは予想していましたが、まさかここまでとは。会社規模としては中規模以上ではないでしょうか。
■ 人の入れ替わりが激しい?求人情報から見えてくる「W网絡科技」の姿
求人サイトでは、たびたび募集が行われており、企業としての運営実態は確実にあるようです。募集項目は、プログラマーはじめWEB運営に関わる業務から、広告宣伝人員、ウェブフロント担当、プロダクトマネージャー、外国語の編集・翻訳者(タイ語、日本語など)。
特に興味深かったのが次の求人です。
●新メディア運営編集者:
フェイスブックページの運営。主に記事編集。他のコンテンツを書き換えて盗作する(原文は「洗稿」)作業。
※新メディアとは=ソーシャルメディアアカウント、ウェブサイト、モバイルアプリなどの新メディアプラットフォーム。
※洗稿とは=資金洗浄(マネーロンダリング)になぞらえた言葉。「原稿洗浄(原稿ロンダリング)」の意。元の原稿を書き換え、出典を隠蔽し、著作権を回避するための手段とされる。いわゆる「盗作行為」。中国には「AI洗稿サイト」まで存在する。
●日本語編集者:
-小ゲーム向け心理テスト問題の編集、スケジュール設定、コンテンツ追加-Facebook日本語ページの運営、トラフィック誘導(原文は「導粉」)
-日本のページオーナーと連絡を取り、弊社プラットフォームとの提携や購入(買い取り)につなげる
※「導粉」とは=中国のSNSマーケティング用語。あるプラットフォームから別のプラットフォームにトラフィックを誘導することをさす。
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求人の中で「洗稿」という言葉をはっきりと使っていることに驚きました。これは他人の作品を改編して発表するという「盗作行為」の意味が含まれています。
そして日本語編集者の求人説明には心当たりしかありません。もふもふ動画が誘導していたまとめサイトの中に、怪しい「心理テスト」が埋め込まれていることがありました。どうやら閲覧数(PV)を伸ばすための試みらしく、どれも10問くらいの設定。これは情報提供に協力してくれたBさんも把握していました。
次に「フェイスブック日本語ページの運営とトラフィック誘導」。これは要するにSNSアカウントを運営し、自社のプラットフォームに誘導する仕事。フェイスブックに限らず、Xや他のSNSでも行っている可能性は十分あると思います。
最後の「日本のページオーナーと連絡を取り~提携」、の部分ですがこれも心当たりがあります。W网絡科技は過去に、X(当時はTwitter)上で手当たり次第に声をかけ、まとめサイトへのリンクを張ってくれる人を勧誘していた形跡があります。
リンクを張る仕事の作業内容は2つあり、バズツイートにリンクを張って宣伝する行為(これは星野とのやりとりの中でも同じ説明がありました)、インフルエンサーの場合には自分のアカウントにまとめサイトのURLをポストして紹介する、というものです。
やはり「W网絡科技」の求人内容を見る限り……無断転載専門のSNSアカウントを運営している条件は十分そろっているとしか言えず。しかも「買い取り」まで書いているわけですから。
余談ですが、「W网絡科技」の求人口コミは散々でした。「残業が多い」「プレッシャーきつい」「突然解雇がありえる会社」「行くな!」など、ややブラックな模様。
そして日本語に関する求人の給与は6000元~1万5000元(日本円で約12万~29万)でした。
■ M科技のホームページに書かれていた企業情報はほぼほぼ本当だった件
というわけで、M科技のホームページに書かれていた企業情報はほぼほぼ本当。運営方法が怪しい、連絡しても返事がない、実態がわかりづらい、というだけで、まさか実在する企業とは……。
ただし「W网絡科技/W科技」自体の会社ホームページは最後まで見つかりませんでした。中国語が話せる人にも調べて貰いましたが、見つけられたのは企業検索サイトにある登記情報と、求人サイトに載せられた求人情報のみ。
現在では、求人サイトの企業ページが公式ホームページの役割を果たしているといってもいいかもしれません。「100~499名」の規模の会社にホームページがない、というのもおかしな話ですが。
それにしても再び現れた星野はなぜこうも無警戒に事実を話してくれたのか?最初不思議でしかたありませんでしたが、会社情報、求人情報、口コミを見るに……意外と中では細かく情報交換できていないのかもしれません。入れ替わりも激しいようですし。
よって、仕事の問題点に気づきづらい環境、加えて求人に「洗稿」と堂々と書くレベルなので、中国社会では無断転載やパクリに対する罪の意識がよっぽど薄いのかも。人によっては全く無い可能性すらあります。
星野から受けた印象も、問題意識など一切ない(悪いことなどしていない)、という感じ。会社情報を正しく出していることもあり、意外と中の人たちは「まっとうなサービス」だと信じているのかもしれませんね。
ただこれ以上、星野と話をしても埒があかない&まだ会話の中でしつこく「貴方様の持っているアカウントを見せていただきますでしょうか」と聞いてくるので、こちらの正体を明かしてアカウントも教えてみました。
星野のLINEアカウントにたどり着いた経緯や、正式にインタビューを申し込みたいこと……。すると、今度は既読がついたままスルー。その後、10日以上たった現在まで一切の回答が得られていません。
■ 偶然?接触以降、もふもふ動画に変化
もふもふ動画の運営を探るために、周囲からアレコレ調べてやっとたどり着いた「W网絡科技(旧:M科技)」。LINEに出てきた星野は、W网絡科技がもふもふ動画の運営であることは否定していましたが、やはりここまで条件が整うと素直に信じることはできません。
それに星野が話した「もふもふ動画との提携」はどのレベルのものなのか?個人的には、完全に2人3脚の動きにしか見えず……。言質が取れなかった以上、あくまで想像でしかありませんが。
とはいえ、この取材中にもう一つ気になることがありました。星野と最後にやりとりした4月11日以降に、もふもふ動画の「メディア欄」から投稿が突然全て消えたこと。少なくとも12日まではあったことを確認していますが、土日はさんで開けた月曜日の4月15日には消えていました。
メディア欄とは、直接投稿した画像や動画がまとめられているページ。本来なら過去に投稿されたものがここにも出てくるはずなのですが、4月15日時点では全て消えていました。しかしながら、過去投稿は個別に調べると出てくるので、恐らくツールを使って一括削除したのではないかと。ツールを使うと、一覧からは消えるものの、投稿自体は残ることがあります。
その後しばらく経過しているため、現在ではいくつか投稿が確認できますが、投稿しては一覧削除を繰り返しているようです。直接送ったDMに反応したのか、それともどこから何か耳にしたのか?
弊社の動きに反応したのかは定かではありませんが、連絡しはじめてから、まとめサイトのリンクのポスト方法が変わった、メディア一覧から投稿が削除された、この2点は取材期間中に起きた変化として最後記しておきます。
※訂正:初出時、W网絡科技という同じ名前の会社が2つあると記していましたが、若干表記が異なりました。よって公開後に「似た名前」と変更。2019年設立会社の表記も「W科技」と変更しました。
(山口弘剛/宮崎美和子)