日々巧妙化するネット詐欺の手口。これまでおたくま経済新聞でもさまざまな事例を調査・紹介してきましたが、先日編集部のXアカウントに新たな調査依頼が寄せられました。
なんでも、「アルバイト募集を謳うアカウントにフォローされるので、調べてみてほしい」とのこと。いやいや、そんな簡単に言われましても……なんてことはなく、早速調べてみました。
調査を行うのは「山本」を名乗るアカウント。プロフィール欄によると、アルバイト募集を行っており、日給5千円から5万円、在宅勤務で給与日払い、勤務時間に制限はないという。提案だけ見れば、間違いなく好待遇です。
アイコンやヘッダーにはオフィスで働く様子の写真が用いられており、いかにも本物っぽい雰囲気はありますが、フォロワー数はたったの1。もしも本物であれば、もう少しフォローがついても良い気がしますが……この時点で既にアヤしい。
とはいえもちろん本物である可能性も捨てきれないので、アルバイトの内容を確認していきましょう。問い合わせはLINEから行えるようです。
プロフィール欄のリンクをタップすると、LINEおよびLINEWORKSへの案内が表示されますが、担当者の名前は「山本」ではなく「佐藤」。早速相手が変わりました。
気を取り直して、潜入調査用のLINEアカウントでコンタクトを取ってみます。簡単な挨拶をすると、早速仕事内容の説明がなされます。なんでも「AppTweak」という国際的なマーケティング会社に、「佐藤」たちは雇われたとのこと。
■ 「AppTweak」公式から注意喚起が出ている
ここで佐藤が名のった、「AppTweak(アップトウィーク)」は実在している海外の企業およびサービス名。サービス自体は「アプリストア特化型のマーケティングツール」として提供されており、日本にも2021年に上陸しています。
そのXアカウントを見てみると、「詐欺師がAppTweakになりすまし、金銭と引き換えにアプリのテスターやレビュー担当者としてのサービスを個人に依頼していることを当社は認識しています。当社は警察に報告し、この問題の解決に向けて取り組んでいます」(Google翻訳より引用)と、1月29日付の投稿でしっかり釘が刺されていました。
どうやら1月ころには同じ手口の詐欺がすでに出回っていたようですね。とはいえ、どんな手口か知るために引き続き偽AppTweakの佐藤につきあってみます。
■ アプリ商家?40の助力?説明が分からない
仕事は「アプリ商家がプログラムのダウンロードデータやレビューのデータを最適化するのを支援すること」で、「プラットフォーム上で40の助力を増やすだけで、各データについて、その価値の1.2%を受け取ることが出来る」そう。なるほど、全くわからん。
要約すると、Web上で40個のタスクを2セット、連続で5日間取り組めば10万円、14日間なら30万円、30日間なら60万円支払われるとのこと。作業時間は毎日30分から60分ほどでよいということ以外、わからないことだらけではありますが、筆者は習うより慣れろ派なので、早速取り組んでみることにします。
作業はAppTweak(佐藤たち偽のAppTweak)が提供するプラットフォーム上で行うそう。ちなみにこのプラットフォームも、もちろん偽物です。
とりあえず佐藤に案内されたリンクにアクセスしたところ、偽プラットフォームの登録にはどうやら電話番号の入力が必要であるようです。
当然本物の電話番号をやすやすと教えるわけにはいかないので、総務省のHP「電気通信番号制度」に基づき、絶対に使用されていない番号を確認して入力してみると……通りました。SMSを用いた二段階認証などを求められたらここで断念しようと思っていましたが、予想通りザルなシステムでした。
さて、プラットフォームの利用が可能になったので、早速作業開始。メイン画面の「スタート」を押し、表示されるアプリの「最適化提出」ボタンを押すだけでタスクがひとつ完了。報酬がもらえるという仕組みです。
読んでいる方もきっとわからないと思いますが、筆者自身もいったいこれは何の作業をさせられているのか全く分かっていません。ただ一つ言えるのは、作業はとても簡単。40個のタスクは5分程度で終わり、あっさり4862円の報酬を獲得しました。
これを佐藤に報告すると、「第二セットのタスクまで完了すると、残高を引き出すことが出来るようになる」とのこと。そういえば最初にそんなことを言っていたような。納得はしたので、第二セットに取り掛かろうとすると……ここでなんと驚くべき説明がなされます。
「正式なタスクのリセットには1万円の残高が必要です」
え?どういうこと?聞き直してみると、どうやら次のタスクに取り組むには、残高を1万円にする必要があるので、足りない分の5138円を入金しろ、ということであるもよう。提案の意味が全く理解できません。
「第二セット」のタスクを完了すれば、その分の報酬もあわせて引き出せるので、結果的にはプラスになる、ということですが、おそらくその金額を持ち逃げされるか、払った後に今度は引き出すにはもっと高額の資金が必要になる、などといって次々と金銭を支払わせる魂胆でしょう。
そう、これは「タスク詐欺」と呼ばれる手口です。
ここで手を引いても良かったのですが、入金を行うふりをしてもう少し調査を続行することに。支払いの意思があることを佐藤に伝えると、別アカウントとなる「カスタマーサポート」を案内されました。
早速問い合わせようと、カスタマーサポートのアカウントを見ると……表示名が「AppTwealサービス」と、kをlにしてしまうという凡ミスを犯しています。もしも正式なサービスであれば、こうしたミスは絶対にあり得ません。
入金の意思があることを伝えると、携帯電話番号が伏せ字で記載された、明らかに個人のものと思われるPayPayのQRコードが載った画像が送られてきました。いち企業への支払いが、こんな手法でできると思っているのでしょうか……。
最後に、「佐藤」「AppTwealサービス」の双方に、「詐欺ではないか?」「AppTweakの名を騙っていないか?」たずねると、既読が付いたものの、以降返信はありませんでした。なお、当初調査を開始した「山本」のアカウントも、記事執筆時点で既に凍結済みとなっていました。
■ 実は2023年にも全く同じ手口に潜入済み
なんだか釈然としない終わり方ですが、これは100%詐欺だと断言できます。なぜなら、過去に別の記者が全く同じ手口に潜入しているからです。しかもその際、1円を騙し取られています。1円とはいえお金はお金、立派な被害です。
実はこの手口、今回は企業名が「AppTweak」となっていましたが、以前は同じく実在企業の「AppLovin」を名のっていました。(参考:2023年11月22日公開記事「バイト詐欺に応募するとどうなる?釣られてみた結果」)
相手との当時のLINEのやりとりを今回と見比べると、送られてきた説明文がほぼ同じ。資料もフォーマットはほぼ同じでロゴだけが差し替えられていることがわかります。プラットフォームについても同様で、ロゴが変わっただけでした。
詐欺の潜入記事を書くときはいつも注意喚起していることですが、そもそもそんなにうまい話がSNS上に転がっているものではありません。近年では闇バイトによる国際的な犯罪も活性化しています。この手の話はまず疑いの目をもち、安易に誘いに乗らないようにしましょう。
⚠ Warning!
We are aware that scammers have been impersonating AppTweak and reaching out to private individuals asking for their services as app testers or reviewers in exchange for money. We have filed a police report and are working towards the resolution of this issue.
— AppTweak (@AppTweak) January 29, 2025
<参考・引用>
総務省HP「電気通信番号制度」
AppTweak公式Xアカウント(@AppTweak)
(山口弘剛)