最近、さまざまなXアカウントのリプライ欄に現れる定型文があります。文面を抜き出して検索をかけると、同じ文章が出るわ出るわ。明らかな詐欺アカウントです。

 そんな詐欺垢の1つが、編集部公式Xのリプライ欄にも現れました。ネット詐欺の実態に日夜切り込む我々へ、正面から挑みかかってくるその蛮勇!敬意を表し、潜入してあげました。

■ 「この出会いに感謝しています」さまざまなX投稿のリプライ欄に現れる怪しい詐欺垢

数日前、◯◯さんが話していたブロガー

@〜〜〜

しばらく観察してみると、なかなかいいセンスの方で、的中することも多く

試しに同じ株を買って、242万円稼ぎました。

この出会い感謝しています

 こんな定型文を、Xのリプライ欄で見かけたことはありませんか?

 「〇〇さん」の部分に著名人の名前を使い、いかにも信頼の置ける相手ですよという体で、謎のXアカウントを紹介してくるリプライです。

 肩書きを「ブロガー」と言っておきながら、飛び先がブログも何も持っていないただのXアカウント、といういきなりの矛盾からして怪しさ満点。

リプライ欄によく湧いている投稿

 さらに「しばらく観察してみると」以下の文章をそのままXの検索にかけてみると、「◯◯さん」の部分を変えただけの、ほとんど同じ文章が無数に出てきます。

 ということで、その「おすすめのブロガー」とやらに突撃してきました。

 まず始めにリプライを送ってきたアカウントを覗いてみますが、こちらは特に外部への動線を作っていない様子。フォロワーの多寡を問わず、ありとあらゆるアカウントに、「おすすめのブロガー」を紹介するリプライを送るだけのようです。このアカウントを間に挟むことで、本体のBANリスクを下げようとしている、ということでしょうか。

 今度は実際に「おすすめのブロガー」として紹介されていたアカウントに飛んでみます。

「おすすめのブロガー」

 プロフィール欄によると「元某上場企業専属日経アナリスト」の方だそう。ふーん。「株市場の裏側で培った一般人には知られていない秘密の手法や金融界の隠された情報と経験を駆使し、数々の成功と失敗を乗り越えてきました」とのこと。へー。

 非常に読みにくく、日本語的にも「ん?」と違和感が残るプロフィール欄です。

 ちょうどトップのツイートにLINEアカウントのURLが貼り付けてあったので、友だちに追加してコンタクトを取ってみることにしました。

LINEアカウントへの動線が

■ 専門用語の羅列&長すぎる説明文……投資知識皆無の筆者はただただ気圧されるばかり

 早速「Xからご登録の方でしょうか?」とメッセージが飛んできました。「プライベートエクイティの協力プロジェクト」を提案してくれるそうです。

向こうから連絡が来る

 投資知識のない筆者には「プライベートエクイティ」が何かまったく分からず、とりあえず質問してみました。

 すると返ってきたのは専門用語をふんだんに使った長文のメッセージ。「プライベートエクイティとは何か」という質問の答えなのかどうかもわかりません。

専門用語ばっかりの説明

 とりあえず「取引を手伝うと儲けることができるらしい」ということは、なんとなく理解しました。ただあまりに専門用語が多すぎるので「もっと噛み砕いて説明してください」とお願いしてみます。

噛み砕いて説明して欲しいと頼むも、無視

 が、特にそのお願いに対する返答はなし。初心者の心境など知ったこっちゃないとばかりに「自由に取引可能な株式口座を持っていますか?」という新しい質問が飛んできます。

口座の有無を確認してくる

 仕方がないのでそのまま話を続行。「口座を開設することをお勧めします」と言われたので、「わかりました」とだけ伝えます。

こちらからの関係ない質問は尽く無視

 ついでに「なんで私みたいな見ず知らずの人間に儲けさせてくれるんですか?」と聞いてみますが、もちろん無視。

 そのうえでさらに、専門用語だらけの長文LINEが飛んできます。投資初心者の筆者はもうここで完全に理解を諦め、「口座開設したらまずなにをすればいいですか?」と質問。

 するとこれには「株式取引の権限を取得して最初の取引を行い、私たちの取引プロセスに慣れてみてください」という答えが返ってきます。理解を放棄しているので、流します。

 そしてやりとりをするなかでふと、詐欺垢が自らについて「私たち」「私たちのグループ」と表現していることが気になりました。どうやら個人ではないようです。

口座を解説してからの動きを教えてくれる

 「私たちのグループとは何ですか?会社ですか?」と聞いてみると、返ってきた答えは「私たちはバンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社です」

 架空の会社かと思いつつも調べてみると、なんとアメリカに本社を置く世界最大級の資産運用会社バンガード・グループの日本法人だということがわかりました。

 が、バンガード・インベストメンツ・ジャパンは2020年にすでに日本での営業を終了しているもよう。実質、架空の会社です。

 そのことをたずねてみると、日本撤退を認めつつ「現在日本市場の事業を再編成しています。私たちはプライベートエクイティプロジェクトチームに所属しており、先駆者として活動していますので、現時点ではネット上には公開していません」と返ってきました。

バンガード・インベストメンツ・ジャパンは2020年にすでに日本での営業を終了

 秘密裏の活動らしいです。そんなわけあるか、と思いつつ、投資知識で詐欺垢を詰めることができない筆者は、この明らかな嘘情報を中心に攻めていくことを決めました。

 「日本法人復活についてネットで言いふらすかもしれないですけど大丈夫ですか?」と聞いてみると、詐欺垢はいたって冷静。「そのような行動はおすすめしません」と淡々と返されました。

嘘情報を突いていく

 立て続けに、「情報を売り捌く可能性もあるのに、どうして有益な情報を教えることができるんですか?」「御社のセキュリティ意識やリスク管理が非常に気になります」と質問すると……「慎重になるのは当然です」「おそらく私たちの取引モデルを完全にはご理解いただいていないのかもしれません」と言いくるめにかかってくる始末。

不安をぶつけてみるが……

 「取引モデルを理解してないから不安になるのだ」なんて言われたら、自分に落ち度があるように思ってしまいます。

 そしてまた間髪入れずに詐欺垢の方から、長々と説明し直してくれます。もちろん初心者向けに噛み砕くなどという配慮はなく、専門用語だらけの説明です。

再びの長文説明

 少ない知識と頭脳を駆使して読み解いてみると、どうやら自分がやることは、詐欺垢が提示してくる価格に従って委託注文を出すだけ。委託注文というのは詐欺垢の代わりに、売買をすることを指すようです。

 そして委託注文を出したあとは、そのスクリーンショットを送信すればOK。投入資金の3%が報酬として支払われるとのこと。注文は実際には成立せず、口座も自分の管理下にあるので、リスクもないそう。

 投資の知識が皆無な筆者は、この自分なりの理解をしたあと「うーん、怪しいところはない、よなあ?」と思ってしまいました。

 明らかな詐欺垢なのに、自分の知識がなさすぎるせいで、どこが詐欺なのか違法なのかが分からない……。そんなもどかしさで心が折れそうになったとき、ふとひらめきました。

 AIに聞いちゃおう。

■ 反撃開始!詐欺垢の小難しい説明をAIに流し込むと「この内容には法的リスクがあります」

 ChatGPTにアクセスし、詐欺垢から送られてきた説明をそのままコピーして、「投資取引に関する文章について、矛盾点や事実誤認等があれば指摘してください」とお願いしてみました。

ChatGPTに質問

 すると数秒足らずで「この文章には、投資取引に関する重大な問題点や法的・倫理的リスクが含まれています」と返ってきました。

 ChatGPTによると「実際に成立しない注文を出すこと」「スクリーンショットを送ること」「口座が自分の管理下にあるから安心」といった点にリスクがあるとのことです。

 「実際に成立しない注文を出すこと」については「実際の売買の意志がないのに注文を出すことは「見せ玉(フェイクオーダー)」と呼ばれ、禁止行為とされています」

 「スクリーンショットを送ること」については「取引履歴のスクリーンショットは、不正利用される可能性があるため、決して第三者に提供すべきではありません」

 「口座が自分の管理下にあるから安心」については「相手が不正行為を働く目的である場合、関与しただけで法的責任を問われる可能性があります。たとえ資金の移動がなくても、違法行為への加担とみなされる可能性があります」

 詐欺垢よりもよっぽどわかりやすいロジックと言葉選びで、投資知識のない筆者でも問題点がよくわかります。念の為「見せ玉(フェイクオーダー)」という言葉が、ChatGPTの造語でないか確認してみましたが、実際にある言葉のよう。ひとまずは詐欺垢より、ChatGPTを信じることにします。

 ChatGPTが出力した内容を、ほぼそのまま詐欺垢に送りつけてみると、返答が止まりました。よし、やったか……?

ChatGPTの答えを送りつける

 かと思いきや、翌朝に返事がありました。あまり動じていない文面で「これは関連する法律に違反するものではありません」と言ってきました。こういう反論は想定内なのかもしれません。

 ChatGPTという味方をつけた筆者も負けじと「なぜ法律に違反しないのですか?」と切りかかっていきます。

翌朝に来た返答はいたって冷静

 詐欺垢からの返答は「委託注文は通常の市場行為に過ぎません」「もしこれが違法だとするなら、私たちは市場で生き残ることができませんし、とうの昔に市場から淘汰されていたはずです」といったもの。

 淡々と言われるとなんかそれっぽく思えて、負けそうになります……が、ゆけ!ChatGPT!

 詐欺垢のメッセージを再びそのままChatGPTに流し込んでみると、すぐにアウトな部分を指摘してくれました。

ChatGPTに再び聞く

 「委託注文は通常の市場行為に過ぎません」というのは事実のようですが、取引を約定(成立)させない前提で行うのは禁止されているとのこと。これは最初の質問時にも指摘されていたことです。

 また「もしこれが違法だとするなら〜市場から淘汰されていたはずです」という説明については「生き残っていることは合法性の証明にはならない。なぜなら違法行為がすぐに発覚するとは限らないから」と教えてくれました。確かに。投資知識以前に、論理の問題でした。

もう一度ChatGPTの答えを送りつける

 ChatGPTの出力結果をそのまま返すと、また詐欺垢の返答は鈍くなり、次に返信があったのは約1時間後。

 しかしここから先は「合法です」「合法と言い切れないですよね?」の水掛け論が続いていくだけでした。

 詐欺垢はどこまでも「委託注文は違法ではない」というスタンスを崩しません。違法じゃないけど、違法になるケースもあって、そちらさんは後者をやろうとしているでしょうが。

 埒が明かなくなったので思い切って「いや、違法でしょ。というかこれぶっちゃけ投資詐欺ですよね」と送ってみたところ、既読はついたものの、完全に返信が途絶えました。こいつからはお金を巻き上げられない、と判断されたようです。

これ以降の返答はなし

 投資系の詐欺では、専門知識で相手の思考を圧迫し、判断を鈍らせるというのが常套手段の様子。今回もまさしくその手法で、実際に筆者も途中で「どこが間違っているのかわからない……やり方さえ間違えなければ合法?」と思ってしまうことがありました。

 そんな中で役に立ったのがChatGPT、というよりAIです。決してAIが完全に正しいとは思っているわけではありませんし、今回のAIの指摘の中には筆者が気づけていない誤りがあったかもしれません。

 とはいえAIを間に挟んだことによって、詐欺垢の説明に含まれている明らかな矛盾・間違いに気づけたことは事実です。

 もしも詐欺やマルチ商法といった「一見問題がないように見える」説明を受けることがあった際には、AIに聞いてみるのも1つの手かもしれません。検索エンジンを使うよりも、実際のケースに即した答えが得られる可能性が高いです。

 ただ、あくまでAIは罠にハマりかけたときの脱出手段です。AIの実力を試してみたいからとわざわざ罠にかかりに行くことは、非常に危険なのでおやめください。

■ おまけ

 今回の潜入では、最初から質問攻めにして相手との対話を試みましたが、別ルートからの潜入では「いわれるがままホイホイついていく」パターンをためしています。

 結果分かったのが、数年前から存在する「投資詐欺」の手口と全く同じであることでした。

 以前は、実在の著名人になりすました偽アカウントや広告を通じて誘導していました。しかし、当の著名人たちが注意を呼びかけ始めたため、この方法が使いにくくなったのでしょう。現在では、架空の「投資アドバイザー」などを作り出し、新たな誘導手法へと移行しているようです。

 手口の流れは次のようになっています。まず、架空の投資家のLINEへ誘導され、そこでアシスタントだというアカウントのフォローと、数十人規模のLINE投資グループに参加するよう指示されます。

アシスタントをフォローするように言われる

 その後、アシスタントから小まめに連絡があり、「分からないことがあれば何でも聞いてほしい」といった声かけやフォローが行われます。

アシスタントからの連絡

 投資グループ内では、「投資アドバイザー」(多くの場合「先生」と呼ばれている)が推奨銘柄や投資に関する助言を投稿し、他のメンバー(恐らくサクラ)が積極的にコメントを残して活発な雰囲気を演出。参加者の信頼を巧みに獲得していきます。

グループLINE

 最終的に、こうしたやりとりを通じて「信じやすい人(騙されやすい人)」を選別し、LINEでの個別のやりとりや偽の投資サイトを利用して資金を巻き上げるのです。

 ネット詐欺の入り口は「雑に作られ」「広く設定」されていますが、詐欺師たちは「最初から詐欺と見抜ける人」を相手にはしていません。彼らの目的は、雑な勧誘手法でも「信じてしまう人」を探し出すことにあります。

 編集部には被害者からの相談が頻繁に寄せられますが、多くの方に共通しているのは、「もしかしたら騙されているかもしれない」という疑念を抱えつつも、まだ完全には相手を疑いきれずに連絡をしてくる点です。つまり、わずかでも信じた状態のまま連絡してきます。

 なお、過去にあった相談の中で被害額が最も高額だったのは約1200万円。被害者は、相手の指示に従って投資を続け、手持ちの資金が尽きると銀行からの借り入れを促され、さらには消費者金融からの借り入れまでさせられたそうです。このケースではすでに警察へ被害届が提出され、捜査が進められています。

※編集部では本来、詐欺相談は受け付けていません。被害に関する相談は、警察の相談窓口「#9110」に行ってください。

(ヨシクラミク/宮崎美和子)