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チェコの次世代ジェット練習機L-39NGが初飛行

 世界中で運用されているチェコのベストセラージェット練習機、L-39の次世代版であるL-39NGが2018年12月22日(ヨーロッパ中央時間)、首都プラハ近郊のヴォドホディ飛行場で初飛行に成功しました。新しいエンジンと各種システムを搭載し、軍・民間問わずまた多くの顧客を獲得しそうです。

  •  チェコの航空機メーカー、アエロ・ヴォドホディが開発し、1968年に初飛行したL-39ジェット練習機は、チェコ空軍をはじめ、ソ連やワルシャワ条約機構に加盟する東側諸国の標準練習機として採用され、1991年の条約解消以降はそれ以外の国々にも広く販売・採用されました。機体価格が安いだけでなく、丈夫で信頼性の高い機体は維持コストも低く抑えられ、最終的に3000機近い生産量を記録しています。

     民間向けにも販売されており、お手軽でアクロバット飛行も可能なジェット機として、ブライトリング・ジェットチーム(フランス)をはじめとする15の民間ジェット機アクロバットチームがL-39を採用。また、一部の個人所有の機体はリノ・エアレースのジェット機部門にも参戦しています。現在の民間ユーザーは15か国にわたります。

     そんなベストセラー機、L-39の次世代版として開発されたのがL-39NG(New Generation)です。L-39の生産終了は1999年。最後に生産された機体でも20年近く経過し、世代交代の時期を迎えています。L-39の機体特性はそのままに、現代の新しい電子機器やコクピット計器を採用したバージョンとして企画されました。

     エンジンはより強力なアメリカのウィリアムズFJ44-4M(推力16.87kN/3790lbst)ターボファンエンジンを採用。より燃費が良く低騒音となりました。エンジンのデジタル制御を行うFADECは2系統を装備し、システムの冗長化を図っています。また電気式始動装置も備えており、設備の整わない飛行場でも自力でエンジン始動が可能となっています。

     コクピット内計器も2つ(最大3つ)の大型多機能ディスプレイ(MFD)を装備したグラスコクピットとなり、西側諸国で標準となっている戦術データリンクシステム「Link 16」にも対応しています。射出座席も最新のマーチンベーカーMk.16となり、いざという時の生存性も向上させました。また、現代の戦術機には必須ともいえる暗視ゴーグル(NVG)にも対応しています。

     2018年12月22日の初飛行に供されたのは、10月12日に完成したシリアルナンバー7001(機体番号0475)のL-39NG初号機。テストパイロットのデイビッド・ジャホダ氏とウラジミール・トヴァレク氏が乗り込み、午前10時38分(ヨーロッパ中央時間)にヴォドホディ飛行場を離陸しました。

     26分間の初飛行では、高度5000フィート(約1500m)まで上昇し、機体の様々な機能を確認。速度200ノット(約370km)まで加速したり、また30度・45度・60度のバンク角で旋回し、機体の安定性をテストしました。また、着陸速度まで減速した際の機体特性などもテストし、良好であることが確認されています。

     アエロ・ヴォドホディのジュゼッペ・ジオルドCEO(イタリアのフィンメカニカ出身で元アレニアCEO)は「この先行試作機による初飛行は大きなマイルストーンであり、我々のお客様に対する重要なメッセージとなります」と初飛行について語り、2020年第一四半期に最初の機体を顧客に引き渡すスケジュールが予定通りに進むことを強調しました。

     L-39NGはこれから型式証明取得のための試験飛行が始まりますが、既存のL-39からの改修(アップグレード)にも対応していることから、比較的スムーズに型式証明取得の手続きが進むものと考えられます。すでにセネガル空軍をはじめとして、ポルトガルとアメリカの民間航空会社、チェコ空軍の飛行訓練請負会社からも合計38機の確定発注を受けており、ブライトリング・ジェットチームも将来的に現行のL-39からL-39NGに機種変更する覚書をアエロ・ヴォドホディと交わしています。このプロジェクトはチェコ政府やチェコ輸出銀行などからの後押しも受けており、また軍民問わず多くの国で採用されることでしょう。

    Image:Aero Vodochody

    (咲村珠樹)

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