「ガールズ&パンツァー」の水島努監督が手掛ける、女性だけの戦闘機隊が活躍するテレビアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」が話題ですが、2019年2月2日テネシー州メイナードビルで、アメリカ海軍史上初となる女性だけによる編隊フライオーバー(航過飛行)が実施されました。これは1月に亡くなった、アメリカ海軍初の女性パイロットを追悼する「ミッシング「ウーマン」・フォーメーション」のために特別編成されたものです。
今回、女性だけの編成で追悼飛行を行ったのは、2019年1月24日にがんのため亡くなった、アメリカ海軍の女性ジェット機パイロット1期生である、故ローズマリー・ブライアント・マリナー(旧姓:コナスター)退役大佐を追悼するためでした。ローズマリーさんは1974年に誕生した、アメリカ海軍初の女性パイロット6名のうちの1人です。アメリカ陸軍航空隊のパイロットだった父のキャリアを追うように、パイロットとなったローズマリーさんは、グラマンS-2トラッカー艦上対潜哨戒機を皮切りに、1975年にはダグラスA-4E/Lスカイホーク、1976年にはA-7EコルセアIIに乗り、実戦機に乗る初めての女性パイロットにもなりました。
1980年代に入ると、ローズマリーさんは練習空母レキシントン(第二次大戦のレイテ沖海戦に参戦した空母)に乗り組み、女性として初めて水上艦艇徽章を受けたほか、初の女性飛行隊長にもなっています。1991年からの湾岸戦争では、VAQ-34の飛行隊長として指揮をとり、自らもグラマンEA-6Bプラウラーに乗って出撃しました。1993年には女性パイロットとして初めて大佐に昇進しています。ローズマリーさんは1997年、24年にわたる海軍生活を終えました。まさにアメリカ海軍の女性パイロットの歴史を作った人物だったのです。
その海軍女性パイロットの大先輩にあたる、ローズマリーさんの追悼飛行に選抜されたのは、VFA-32「ファイティング・ソーズメン」の飛行隊長ステイシー・ウッテクト中佐、VFA-213「ブラックライオンズ」の副長レスリー・ミンツ中佐ほか9名のパイロット。使用する4機のF/A-18Fスーパーホーネットの整備も、全て女性が担当しました。
現在アメリカ海軍戦闘機兵器学校(トップガン)大西洋校に在籍するエミリー・リクシー大尉は「この名誉ある飛行に参加することになり、マリナー大佐をはじめ、多くの女性パイロットの先輩たちのおかげで今の私があるんだと再認識しました。皆さんがその道を作ってくれたから、こうやって女性だけによる追悼飛行ができるんだと思います」と、先輩女性パイロットたちに思いを馳せていました。
また、VFA-32のペイジ・ブロク少佐は「このような飛行に参加するというのは、いつだって特別なことです。マリナー大佐を私たちなりの特別な方法で送ることがてきて、私たちは幸運です」と追悼飛行に臨む気持ちを述べています。
2月2日がやってきました。飛行の指揮をとるウッテクト中佐らはブリーフィングを済ませ、今回特別に編成された女性整備員らと記念撮影。
ローズマリーさんの後輩となる女性パイロットたちを乗せた4機のF/A-18Fは、バージニア州のオセアナ海軍航空基地から、故ローズマリー・マリナーさんの葬儀が行われるテネシー州メイナードビルへ向けて離陸しました。
メイナードビルの教会では、故ローズマリー・マリナーさんの告別式が行われます。棺には星条旗がかけられ、海軍の儀仗隊も参列しました。
棺が埋葬される墓地に到着すると、儀仗隊による弔銃が故人に捧げられます。
そして晴れ渡った空に、4機のF/A-18Fが飛来しました。故人の魂を天に送る、パイロットたちによる追悼の行事「ミッシングマン・フォーメーション」。今回はアメリカ海軍史上初となる、女性だけの手によるミッシング「ウーマン」・フォーメーションとなりました。
4機の傘型(シェブロン)編隊から1機が編隊を離れ、空高く上昇していきます。この飛行機に故人の魂が乗り、天へと帰っていく様子を表し、海軍における女性パイロットのパイオニアを顕彰するフライトは終わりました。
Image:U.S.Navy
(咲村珠樹)