2019年3月25日(アメリカ東部時間)、アメリカミサイル防衛局(MDA)は、初めて弾道ミサイルに対し「ミッドコース」と呼ばれる大気圏外において、複数のミサイルによる同時迎撃の試験を行い、撃破に成功したと発表しました。大量の弾道ミサイルによる「飽和攻撃」や「撃ちもらし」に対処できる可能性を初めて示したことになります。
アメリカミサイル防衛局のもと、アメリカ空軍の第30、第50、第360宇宙航空団が3月25日に行った「第11次地上発射ミッドコース防衛システム試験(FTG-11)」。ノースロップ・グラマン製の模擬弾道ミサイル標的が、南太平洋マーシャル諸島のクェゼリン環礁にあるロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場から打ち上げられました。
模擬ミサイル標的の打ち上げを受けて、アメリカ本土のカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地からは、ボーイング製の迎撃ミサイルが2発発射されました。地上発射型迎撃ミサイル(GBI)は便宜上、1発目をリード(先発)、2発目をトレイル(続発)と名付けられ、わずかな時間差をつけて模擬ミサイル弾頭へと飛翔します。
弾道ミサイルの速度が最も落ちる軌道の頂点付近(ミッドコース)は、大気圏外ということもあり、弾道ミサイル防衛で最も適した迎撃場所とされます。そのミッドコースに入った模擬ミサイル標的に対し、まず「先発」の迎撃ミサイルが着弾。模擬ミサイルを破壊しました。
続けて「続発」の迎撃ミサイルが、破壊された模擬ミサイル標的の破片に着弾。さらなる破壊に成功しました。
この試験の目的は、複数の弾道ミサイルが同時に発射された場合や、迎撃ミサイルが着弾したものの破壊が不十分で弾頭が残ってしまう「撃ちもらし」に対し、宇宙空間を飛行する他の人工衛星などと目標を区別し、適切なコースに迎撃ミサイルを誘導できるか、というもの。破壊された弾道ミサイルの破片が飛び散り、レーダーを妨害する金属片「チャフ」が散布されたのと似た環境でも、破壊すべき目標を識別できるかというのは、弾道ミサイル防衛にとって大きな課題でした。今回の試験成功は、地上や監視衛星からの情報、そして発射された迎撃ミサイルが取得した情報を相互にリンクさせる「C2BMC(Command, Control, Battle Management and Communication)」の機能が適切に機能した結果といえます。
今回の試験の成功を受けて、アメリカミサイル防衛局のサミュエル・A・グリーブス空軍中将は「システムは設計したとおり、完璧に動いてくれました。今回の迎撃試験の成功は、複数の弾道ミサイルに対して、迎撃ミサイルを斉射しても目標への誘導が有効に機能するということを証明してくれました。地上発射型の弾道ミサイル防衛システムは、母国の弾道ミサイル防衛の要であり、実際の脅威に対しても対処することが可能であることを今回の試験で証明してくれたといえるでしょう」とコメントしています。
陸上発射型の弾道ミサイル防衛システム(これは日本が導入を決めた「イージス・アショア」とは別のシステムです)は、偵察衛星を含めた宇宙規模のシステム。弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付加されたイージス・システム導入艦の機動性と、補給が容易な陸上発射型システムは、車の両輪として、互いをサポートしあうものといえるでしょう。
Image:U.S. Missile Defense Agency
(咲村珠樹)