海上自衛隊の多用途支援艦えんしゅう(AMS-4305)が2019年7月2日、定期整備のためアメリカ海軍横須賀海軍施設のドライドックに入りました。海上自衛隊の艦艇がアメリカ海軍のドックを利用するのは珍しいことではなく、友好関係に基づいて1970年代から続けられているものです。

 えんしゅうは横須賀地方隊の横須賀警備隊に所属する、ひうち型多用途支援艦の5番艦。艦名は静岡県の遠州灘に由来します。

 多用途支援艦とは、海上自衛隊が保有する艦艇のうち、補助艦艇に分類される艦。護衛艦が実施する各種射撃訓練の支援のほか、自力航行できなくなった艦艇や標的艦の曳航、艦船火災における消火・救難、物資輸送や災害派遣と、文字通り「多用途」な任務に使われる艦艇で、海上自衛隊における縁の下の力持ちという存在です。

 えんしゅうも2008年2月の就役から10年余りが経過し、定期整備とともに各種装備のアップデートを実施する時期となりました。そこで今回のドック入りとなったのですが、入ったのは目と鼻の先にあるアメリカ海軍横須賀海軍施設のドック。JR横須賀駅から京浜急行汐入駅前にかけての海辺に広がる、ヴェルニー公園(旧海軍逸見波止場)からもよく見える場所です。

 ご存知の通り、アメリカ海軍横須賀海軍施設は旧日本海軍の横須賀海軍工廠があった場所であり、海上自衛隊横須賀基地も含め、一帯は旧海軍横須賀鎮守府でした。このうち1号ドックは、幕末に建造が始まったという日本最古の石造ドライドックです。

 そんな横須賀海軍施設のドックですが、このうち1号(1871年完成)・2号(1884年完成)・3号(1874年完成)の3つは、1970年代半ばから、海上自衛隊の利用がほぼ自由にできるようになっています。このため、えんしゅうはドック入りしたというわけです。

 タグボートにより、ゆっくりとドックに入るえんしゅう。艦上の構造物には、すでに工事用の足場が組まれています。


 ドックの奥まで入ると繋留作業。ドライドックには水を抜いた後、船体を支える台が中心線上に配置されているので、その場所に収まるよう左右の繋留索のバランスを取って位置決めを行います。

 そしてドックのゲート部分である扉船(とせん)を曳航し、ドックの入り口(渠口)に設置します。扉船はドックの水を抜いた後、外からの水圧に耐えられるような構造になっており、ドックへ水を入れる注水バルブも取り付けられています。

 アメリカ海軍の施設ではあるものの、横須賀海軍施設には多くの日本人造船・補修技術者が働いています。アメリカ軍と自衛隊の協力関係と同様、この施設内でも日米双方の技術者が協力して、えんしゅうの整備・補修工事は行われます。

<出典・引用>
アメリカ海軍 プレスリリース
Image:海上自衛隊/U.S.Navy

(咲村珠樹)