少し前に、「井の頭公園に行ったらリスが人のポケットやカバンなどにクルミやドングリを入れてきた」とネット上で話題になりました。でもこれ、実はリスにとっても人間にとってもNGなんです。

 井の頭自然文化園の公式アカウントが人間に向けてツイートしたのは、次の内容。

「秋はニホンリスたちの貯食の季節です。クルミやその他の餌を土に埋めるだけでなく、小径に入られた皆様のポケットやカバンに隠しに来ます。もし入れられたのにお気づきでしたら、そっと地面に置いてお戻しください。また、園路にしゃがんでリスたちが乗ってくるのを待つのはお勧めできません」

 東京の郊外に近い、広く自然が残っているこの公園には、たくさんの人が散策に訪れます。リスたちも人間が歩いているのをよく見かけるせいか、逃げもせずに近づいてくることも。そしてこの時期は、リスの主食である木の実類を冬の食べ物用に保存しておこうと、程よい場所と判断してしまうとそこに木の実類を隠したがります。

 そんな様子は見ていて可愛いのですが、可愛いからと言ってリスたちを待ったり触ろうとするのはNG。あくまでもリスは自然の中で生きる野生の動物。少し怖い言い方をしますが「どのような病原菌をもっているか分からない」ということでもあるのです。

■ 動物由来感染症(ズーノーシス)とは

 動物由来の感染症が人間にも起こることがあります。多くはハエや蚊などを媒介とすることが多いのですが、直接的に媒介となる昆虫類を食べたり、そのフンから菌を拾っている場合が多くの野生動物に起こりえます。

 日本では「狂犬病」や、野良猫に引っかかれた時に起きる「猫ひっかき病」、北海道のキツネから媒介する「エキノコックス症」などがよく知られていますが、人体や家畜・ペットに致命的な病原菌やウイルス・寄生虫などは早めに対策をとったり、予防接種を受けておくことで人間への感染を防ぐことができます。

 しかし、自然の動物は、園内であっても把握しきれるものではなく、どの生き物がどんな微生物を持っているかは分からないのが現状です。

 イノシシから感染した家畜の豚が、豚コレラとなって大量に殺処分された話も記憶に新しいのですが、動物から動物に感染する病原菌、人から人に感染する病原菌、動物が持っている菌が人へ渡った時に感染する(動物由来感染症)病原菌など、数え切るのが大変なほどの数の病原菌類がこれまでにも確認されています。

 野生のリスも、もしかしたら人間に影響を及ぼす病原性のなにかを持っているかもしれません。これはカラスやスズメ、その辺の昆虫類なども同様です。だから野生動物はある意味「怖い」のです。ただ可愛いからと手を差し出してしまい、もし咬まれるなんてことが起こったら、どのような菌に感染するか分かりません。

 動物園などの「動物ふれあいコーナー」では、ウサギやモルモット、小型の馬やヤギや羊など、あらゆる動物と触れ合える場所もありますが、動物を触った後に手洗いを徹底するように呼び掛けているのも、同じ理由から。

 もし、自然豊かな公園で、自然とともに暮らす動物たちに出会ったら、観察するだけにしておいてください。動物側から近寄って来たり、すり寄ってきたときは、必ず手洗いを徹底してくださいね。

<引用・参考>
井の頭自然文化園公式アカウント(@InokashiraZoo)
動物由来感染症 |厚生労働省
※画像は井の頭自然文化園公式アカウントのスクリーンショットです。

(梓川みいな/正看護師)