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エアバス 空中給油の自動化実験に成功

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 エアバスは2020年4月17日(現地時間)、ポルトガル空軍と協力して、F-16に対するフライングブーム式空中給油の自動化に成功したと発表しました。給油ブームをF-16の受油器(レセプタクル)に、人間のオペレータ同様の精度で誘導することができたとしています。

  •  航空機の空中給油には、アメリカ海軍やロシア、ヨーロッパ諸国の飛行機、ヘリコプターが採用するプローブ&ドローグ式と、アメリカ空軍の飛行機が採用するフライングブーム式が主に使用されています。統一されないのは、それぞれの方式に一長一短があるのが一因です。


     受油側が自分で受油器を挿入するプローブ&ドローグ式は、給油機側に負担が少なく、一度に複数機に対して給油できるのが利点。また、回転するローターの関係で、ヘリコプターやV-22オスプレイのようなティルトローター機はプローブ&ドローグ式しか使えません。しかしその反面、燃料の流量が少なく給油に時間がかかります。


     給油機側の可動式燃料パイプ(フライングブーム)を受油側の受油器(レセプタクル)に差し込んで給油するフライングブーム式は、燃料を加圧して流量を上げることで、短時間で多くの給油ができるのが利点。しかし、気流を読みながらフライングブームを操作するオペレータに技術が必要なのが欠点です。


     このフライングブーム式の欠点を克服する取り組みが、エアバスのA3R(Automatic Air-to-Air Refueling)システム。フライングブームの動きを自動制御して、接近してきた受油機に空中給油を行うというものです。

     システムを起動させると、フライングブームは自動で給油対象となる飛行機の動きに対し、数cmの精度で追随。そして適切なタイミングを見計らって給油プローブを伸ばし、対象機の受油器(レセプタクル)に接続します。接続が確認されたと同時に給油が始まり、満タンになったことが確認されると、また自動的に接続を解除するという仕組み。この間、オペレータは動きを監視してトラブルに備えます。

     この実験には、フランス空軍やイギリス空軍で採用されているエアバスの空中給油機、A330MRTTと、実験に協力したポルトガル空軍のF-16が使われました。2020年初頭に大西洋上で、計45時間にわたって実施されたという実験で、エアバスのA3Rシステムは合計120回のドライコンタクト(給油をともなわない空中給油装置の接続)に成功したといいます。

     エアバスで空中給油機部門を統括するディディエ・プランテコステ氏は「今回のA3Rシステム開発に関する重要なマイルストーンの達成は、A330MRTTの優れた能力開発計画のハイライトであり、現在および将来における空中給油の世界標準となることを再認識するものとなりました。この計画に協力してくださるポルトガル空軍に、心からの感謝を伝えたいと思います」と、今回の実験成功についてコメントしています。

     今回の実験成功を受け、エアバスではA3Rシステムの開発を次の段階に進めることにしています。A3Rシステムを実装したA330MRTTの型式認証試験は、2021年の開始を見込んでいるとのことです。

    <出典・引用>
    エアバス プレスリリース
    Image:Airbus/USAF/USMC/ロシア国防省

    (咲村珠樹)

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