エアバスのソーラー無人機「ゼファーS」がアメリカでの飛行試験を終え、このクラスの高度世界記録を樹立したと2021年10月11日(現地時間)、エアバスが明らかにしました。この試験はイギリス国防省と協力して実施されたもので、高高度を長期間飛行して地上観測などの能力を確認しています。

 エアバスのソーラー無人機「ゼファーS(Zephyr S)」は、太陽電池でモーターを駆動して飛行する無人機。燃料の補給が必要ないので、何日間も継続して飛行でき、人工衛星よりも低い高度で高精細な地上観測や、通信衛星のように各種通信の中継点として利用することを目指しています。

エアバスのソーラー無人機ゼファーS(画像:Airbus)

 2021年の試験飛行で、エアバスはゼファーSに専用の地上光学観測システムOPAZ(Optical Advanced Earth Observation system for Zephyr)を搭載し、地上の撮影を実施。それとともに、無人機用に設定された空域の外、一般の航空機が飛行する空域において、ほかの航空機と一緒に航空管制を受けながら飛ぶことができるか、という実用化に向けた試験も行われました。

 一連の試験飛行は、イギリス国防省の防衛装備援護局(DE&S)と共同で実施されました。イギリス国防省側の責任者、ジェームス・ガビン氏は「エアバス、ゼファーのチームと2021年の飛行試験を行い、高高度プラットフォーム・システム(HAPS)実用化に向けての大きな前進が見られました。今回の飛行試験は、成層圏での運用に向けた重要なステップです」とのコメントを発表しています。

地上でのゼファー(画像:Airbus)

 アメリカ、アリゾナ州で低高度での飛行から、高高度の飛行へと計6回の飛行が行われた2021年の試験。成層圏での高高度飛行は2回実施されました。

 成層圏での1回目の飛行は、現地時間の7月16日朝6時39分に離陸し、8月3日に着陸。飛行時間は17日と23時間39分でした。2回目の成層圏飛行は8月25日に離陸し、18日と22時間30分後の9月13日に着陸しています。

離陸するゼファーS(画像:Airbus)

 高高度飛行試験において、ゼファーSはGPS高度計で7万6100フィート(約2万3200m)の飛行高度を記録。このクラスの無人機におけるFAI(国際航空連盟)世界記録を樹立しました。

飛行するゼファーS(画像:Airbus)

 また、ゼファーSは飛行試験において、初めてアメリカの航空管制システム(NAS)内でも飛行しました。FAA(アメリカ連邦航空局)の許可のもと、独立した試験飛行空域を脱し、ほかの民間機と同じ空域で事前に許可された飛行経路を飛行。問題なく無人機が民間の航空管制圏で飛行できることを示しました。

 エアバスの無人機部門を統括するヤナ・ローゼンマン氏は「既に実証済みの超長時間滞空性や成層圏での運動性、そして搭載機器の相互運用性は、ゼファーがこのセクターのリーダーであることを物語っています。これは持続可能なソーラー動力の偵察・情報収集能力(ISR)や、ネットワークを拡張するソリューションであり、将来の重要な通信中継や地球観測を必要に応じて提供することが可能となります」とゼファーの将来性について語っています。

 太陽電池を使った電動航空機は、燃料補給が必要ないため長期間にわたって飛行でき、しかも排出する二酸化炭素がゼロという「カーボンニュートラル」な存在。将来は軍隊の偵察・情報収集任務だけでなく、民間でも携帯電話の移動基地局など、様々な場面で活躍するようになるかもしれません。

<出典・引用>
エアバス プレスリリース
画像:Airbus

(咲村珠樹)