おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶

【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶「うちの本棚」、今回も園田光慶の作品をご紹介します。少年マンガ誌に進出してから初めてのオリジナルストーリー作品『ターゲット』です。本領発揮のハードボイルド・アクション劇画をご堪能ください。


  • 『あかつき戦闘隊』で「少年サンデー」誌上で人気を博した園田光慶が、本領を発揮したともいえるハードボイルド・アクション劇画。ストーリーもオリジナルである。

    家庭も仕事も順風満帆で幸せの中にいた主人公・岩神六平は、出張先の福岡のホテルで両親と妻そして幼い息子が自宅で殺害されたという警察からの電話を受ける。急遽帰宅した六平に刑事は、犯人が六平の弟、徹二だと告げる。

    クレー射撃に凝っていた徹二が愛用していた銃で家族は射殺されていたのだ。

    はじめは信じられなかった六平だったが、いろいろと調べていくうちに徹二に接近していた人物を突き止め、その人物がアフリカのある企業の人間だとわかると、単身アフリカに飛ぶ。そしてアフリカで徹二の姿を見かけるも、六平は身に覚えのない殺人容疑で絶対に脱獄不可能はいわれる監獄の島「終身島」へと送られてしまう。そこは看守長であるヤコブという男が支配する地獄のような場所であり、徹二への復讐を誓う六平はなんとか脱獄しようと執念を燃やすのだが、そこで知り合ったジョンというジャーナリストの協力により処刑されたと見せかけて脱獄に成功。そしてジョンの紹介によって殺人マシーンへと六平を生まれ変わらせる「アザーワールド」に向かうのだった。

    六平の右手はナイフで切り裂かれるなど負傷していたが「アザーワールド」で治療を受けると同時に第2、第3関節にダイヤモンドが埋め込まれ、ただ殴るだけでも相当な武器となる。このダイヤを埋め込んだ右手というのが本作の主人公の特徴ともいえるのだが(家族惨殺のショックで白髪にもなっているが)、作品を読み返してみるとそれほど右手を使ってのアクションが描かれていないのが意外だった。

    また日本からアフリカ、一旦は「アザーワールド」のあるニューヨーク、そしてまたアフリカ、最後には日本へと舞台も変わり波瀾のストーリー展開ともなっているのだが、最終的に弟の徹二がなぜ両親と兄の妻、子供を殺すに至ったかの明確な記述はない。ヤコブの所属する犯罪組織に徹二も加わっているのだが、それだけが動機ともいえず、むしろ兄と弟の確執のようなものが背景に置かれていたようなのだが、結局そこまでは描かれなかったという印象だ。実際、全5巻で完結はしているものの犯罪組織の全貌についてはまるでわからず、家族を殺された復讐という、ストーリーの発端ですら半ば果たされないまま余韻を残しての終了となっている。

    まあ、正直なところ少年マンガ誌向きの作品ではなかったといえるし、青年誌で連載していたらさらに面白いものになっていたのではないという感じもする。結果的にそういったところでストーリーの完全な結末を描かずに終わったのではないのだろうか。

    単行本に関しては、若木書房のコミックメイトが初単行本(70年)。前作『あかつき戦闘隊』は小学館のゴールデンコミックスでも刊行されていたが、この時期すでにゴールデンコミックスの刊行が終わっていたかもしれない。コミックメイトはサンデー連載作品を多く単行本化していた。また本作は当初全4巻とされていたが、4巻、5巻の巻末に読みきり作品を収録することで全5巻という構成になっている。4巻で収録するには予定よりページ数が多かったのかもしれない。

    コミックメイトが事実上絶版となったあと、徳間書店から同じ全5巻で刊行されたが(85年ころ)、いまこの版はネット上でも確認ができない。実はレアな版になっているのかもしれない。

    現在入手できるのはマンガショップシリーズの全2巻で、これはコミックメイト版を底本としている。連載中の扉など未収録ページが多数あるという指摘もある。また電子コミックスでも発売されている。

    ※本原稿執筆にはコミックメイト版を読了し、マンガショップ版を参考にしました。

    初出/小学館・少年サンデー(1969年20号~1970年24号)
    書誌/若木書房・コミックメイト(全5巻)
    徳間書店・トクマコミックス(全5巻)
    パンローリング・マンガショップシリーズ(全2巻)

    ターゲット1巻 ターゲット2巻 ターゲット3巻
    ターゲット4巻 ターゲット5巻

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)

  • 【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)

  • 【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶

  • 【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和也、新井光)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和…

  • 【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第七十回 ゴジラVSモスラ 決戦史/吉田きみまろ、久松文雄、園田光…

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    2. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    3. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    4. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    5. プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      アニメ映画「映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」公式は9月12日、「キミプリ♪ぬりえコンテスト」において…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト