「うちの本棚」、今回も園田光慶の作品をご紹介します。少年マンガ誌に進出してから初めてのオリジナルストーリー作品『ターゲット』です。本領発揮のハードボイルド・アクション劇画をご堪能ください。
『あかつき戦闘隊』で「少年サンデー」誌上で人気を博した園田光慶が、本領を発揮したともいえるハードボイルド・アクション劇画。ストーリーもオリジナルである。
家庭も仕事も順風満帆で幸せの中にいた主人公・岩神六平は、出張先の福岡のホテルで両親と妻そして幼い息子が自宅で殺害されたという警察からの電話を受ける。急遽帰宅した六平に刑事は、犯人が六平の弟、徹二だと告げる。
クレー射撃に凝っていた徹二が愛用していた銃で家族は射殺されていたのだ。
はじめは信じられなかった六平だったが、いろいろと調べていくうちに徹二に接近していた人物を突き止め、その人物がアフリカのある企業の人間だとわかると、単身アフリカに飛ぶ。そしてアフリカで徹二の姿を見かけるも、六平は身に覚えのない殺人容疑で絶対に脱獄不可能はいわれる監獄の島「終身島」へと送られてしまう。そこは看守長であるヤコブという男が支配する地獄のような場所であり、徹二への復讐を誓う六平はなんとか脱獄しようと執念を燃やすのだが、そこで知り合ったジョンというジャーナリストの協力により処刑されたと見せかけて脱獄に成功。そしてジョンの紹介によって殺人マシーンへと六平を生まれ変わらせる「アザーワールド」に向かうのだった。
六平の右手はナイフで切り裂かれるなど負傷していたが「アザーワールド」で治療を受けると同時に第2、第3関節にダイヤモンドが埋め込まれ、ただ殴るだけでも相当な武器となる。このダイヤを埋め込んだ右手というのが本作の主人公の特徴ともいえるのだが(家族惨殺のショックで白髪にもなっているが)、作品を読み返してみるとそれほど右手を使ってのアクションが描かれていないのが意外だった。
また日本からアフリカ、一旦は「アザーワールド」のあるニューヨーク、そしてまたアフリカ、最後には日本へと舞台も変わり波瀾のストーリー展開ともなっているのだが、最終的に弟の徹二がなぜ両親と兄の妻、子供を殺すに至ったかの明確な記述はない。ヤコブの所属する犯罪組織に徹二も加わっているのだが、それだけが動機ともいえず、むしろ兄と弟の確執のようなものが背景に置かれていたようなのだが、結局そこまでは描かれなかったという印象だ。実際、全5巻で完結はしているものの犯罪組織の全貌についてはまるでわからず、家族を殺された復讐という、ストーリーの発端ですら半ば果たされないまま余韻を残しての終了となっている。
まあ、正直なところ少年マンガ誌向きの作品ではなかったといえるし、青年誌で連載していたらさらに面白いものになっていたのではないという感じもする。結果的にそういったところでストーリーの完全な結末を描かずに終わったのではないのだろうか。
単行本に関しては、若木書房のコミックメイトが初単行本(70年)。前作『あかつき戦闘隊』は小学館のゴールデンコミックスでも刊行されていたが、この時期すでにゴールデンコミックスの刊行が終わっていたかもしれない。コミックメイトはサンデー連載作品を多く単行本化していた。また本作は当初全4巻とされていたが、4巻、5巻の巻末に読みきり作品を収録することで全5巻という構成になっている。4巻で収録するには予定よりページ数が多かったのかもしれない。
コミックメイトが事実上絶版となったあと、徳間書店から同じ全5巻で刊行されたが(85年ころ)、いまこの版はネット上でも確認ができない。実はレアな版になっているのかもしれない。
現在入手できるのはマンガショップシリーズの全2巻で、これはコミックメイト版を底本としている。連載中の扉など未収録ページが多数あるという指摘もある。また電子コミックスでも発売されている。
※本原稿執筆にはコミックメイト版を読了し、マンガショップ版を参考にしました。
初出/小学館・少年サンデー(1969年20号~1970年24号)
書誌/若木書房・コミックメイト(全5巻)
徳間書店・トクマコミックス(全5巻)
パンローリング・マンガショップシリーズ(全2巻)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)