おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)

【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)「うちの本棚」、今回は園田光慶が貸本作品を手がけていた時期に、ありかわ・栄一名義で描き下ろした『挑戦資格』をご紹介します。設定の隅々に、のちに『ターゲット』で描かれたものの下地を見ることのできる作品です。


  • 本作は、園田光慶が貸本作品を手がけていた時代に、ありかわ・栄一名義で発表したもの。本作を制作中に「少年キング」で『車大作』を連載し、雑誌にも進出することになり、結果的に1960年後半から描き下ろしを続けてきた貸本劇画の「ハードボイルド傑作集」シリーズを本作で終了することになったようだ。ちなみにこのシリーズは全26巻におよぶ。

    本作の冒頭で、主人公は記憶をなくしており、バーで知り合った猪又という老人の紹介でやくざが経営するクラブの用心棒となり、マシンガンの名手アゴの銀次と出会う。少しずつ記憶を取り戻していく主人公は、自分が早乙女 豪という名であったこと、アフリカから、現地で捕らわれている父を助けるため、人を集めるため日本に戻ってきたことなどを思い出していくが、やくざ同士の抗争のため、雇い主であった佐伯が殺され、アフリカへ戻る前に佐伯の仇を討つことになる。その間、怪力とブーメランのむっつりの牛や身軽さと爆発物を得意とする手品師の狂といったメンバーたちとも知り合い、ともにアフリカを目指すことになる。

    そう、のちに描かれる『ターゲット』が、まずアフリカを舞台にしていた下地がここにあったのだ。

    当初は反白人グループと考えられていたルムンバ団だったが(父も彼らに捕らわれている、と豪も信じている)、実は彼らは白人のグループであり、世界征服を企む集団だった。
    豪の父などがアフリカで掘りあてようとしていた金を資金に、細菌爆弾などを製造し、世界征服に向けた計画を進めていたのだ。このあたりの設定も『ターゲット』に通じるところだろう。実際『ターゲット』はこの『挑戦資格』を別の形で描いたものだったのかもしれない。

    タイトルの印象だと、主人公が何かに挑戦するために次々にハードルを超えていくようなストーリーを想像するが、実際のところあまり的確なタイトルではなかったようにも思える。ストーリーの基本は主人公の、父の奪還(途中で死んだという噂を聞き復讐へと目的は変わるが)であり、ルムンバ団の正体が明かされるのも、主人公が仲間と離れているときに、仲間たちが知るという設定で、ルムンバ団に対する挑戦という形もあまり的確ではない。そしてそこに「資格」が必要になるわけでもない。

    また作画面では、中盤以降は気合も感じるが第一部あたりは貸本劇画らしいといってしまうと語弊があるかもしれないが、流して描いているような印象も否めない。描き込みも『アイアン・マッスル』ほど描き込まれていない印象であった。

    ただ、ストーリー展開は先を予想できないもので、どんどん読みたくなる勢いのあるものだ。

    貸本劇画として刊行され、その後は再刊行の機会もなく埋もれていたが、パンローリングのマンガショップシリーズで再刊行され、再び読むことができるようになった。貸本で読んだことのある読者だけではなく、貸本を知らない世代の読者にも一読を薦めたい。

    初出/東京トップ社(1962~1963年描き下ろし)
    書誌/東京トップ社・ハードボイルド傑作集(全9巻)
    パンローリング・マンガショップシリーズ(全3巻)

    挑戦資格・MS上 挑戦資格・MS中 挑戦資格・MS下

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)

  • 【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶

  • 【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶

  • 【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和也、新井光)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和…

  • 【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第七十回 ゴジラVSモスラ 決戦史/吉田きみまろ、久松文雄、園田光…

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. Pentagon Pizza Report(@PenPizzaReport)

      ペンタゴン周辺のピザ屋が混むと世界が動く? ネットで再燃する“ピザ観測ミーム”

      アメリカ国防総省周辺のピザ屋の混み具合から「世界情勢の異変」を読み取ろうとするXアカウント「Pent…
    2. 東京ディズニーランド&シー、9億人目のゲストをお迎え

      東京ディズニーランド&シー、9億人目のゲストをお迎え

      東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを合わせた累計入園者数が1月6日、9億人に到達。運営するオリ…
    3. クマ出没マップ 「FASTBEAR」

      AI集約のクマ出没マップ「FASTBEAR」公開 全国の出没情報をまとめて可視化

      全国のクマ出没情報を地図上で可視化する「FASTBEAR(ファストベア)」の公開が、12月26日に発…

    編集部おすすめ

    1. ぐるなび、個人情報流出を否定 SNS投稿巡り調査結果公表

      ぐるなび、個人情報流出を否定 SNS投稿巡り調査結果公表

      飲食店情報サイト「ぐるなび」を運営する株式会社ぐるなびは1月8日、同社の個人情報流出を巡るSNS上の投稿について、公式サイト上で「調査の結果…
    2. コメダ珈琲店「珈琲所のプリン」が定番入り 真っ赤なチェリーが目印

      コメダ珈琲店「珈琲所のプリン」が定番入り 真っ赤なチェリーが目印

      コメダ珈琲店の定番デザートに、新たに「プリン」が仲間入りします。全国でフルサービス型の喫茶店を展開するコメダは、1月15日から「珈琲所のプリ…
    3. TOKYO FM、SNS上の「サイバー攻撃」指摘を調査 分析用データの一部流出が判明

      TOKYO FM、SNS上の「サイバー攻撃」指摘を調査 分析用データの一部流出が判明

      株式会社エフエム東京(TOKYO FM)は1月6日、サイバー攻撃や大量の個人データ流出を指摘するSNS投稿について事実確認の結果を公表しまし…
    4. EmEditor公式サイトの不正改ざん問題で続報 「攻撃者の高い執念が感じられます」

      EmEditor公式サイトの不正改ざん問題で続報 「攻撃者の高い執念が感じられます」

      テキストエディター「EmEditor」を提供するEmurasoftは1月4日、公式サイトに関するセキュリティインシデントの続報を公表しました…
    5. 日本自閉症協会、「デジタル自閉症」という表現に反対 誤解や偏見助長を懸念

      日本自閉症協会、「デジタル自閉症」という表現に反対 誤解や偏見助長を懸念

      一般社団法人日本自閉症協会は1月5日、比喩的に使われている「デジタル自閉症」という言葉について、反対する声明を発表しました。協会は、この言葉…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト