おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第七十回 ゴジラVSモスラ 決戦史/吉田きみまろ、久松文雄、園田光慶

「うちの本棚」、前回に引き続き「幻のGコミック」を復刻したシリーズ第2弾『ゴジラVSモスラ決戦史』を取り上げます。映画本編とは微妙に異なる「モスラ」が登場するコミカライズ版も注目です。

「ゴジラVSキングギドラ決戦史」に続いて『ゴジラVSモスラ』公開に合わせて過去にコミカライズされたモスラが登場する怪獣コミックを復刻したもの。


  • 「決戦史」と銘打たれてはいるものの映画の方でも正面から対決するのは「モスラ対ゴジラ」くらいなものなので、本書に収録された作品でも、久松文雄が作画を担当した『モスラ対ゴジラ』以外では対決シーンは見られない。

    モスラ初登場となる『モスラ(前編では企画段階での『大怪獣モスラ』のタイトルで発表された)』は、吉田きみまろが作画を担当した本書収録のコミカライズのほか、ジュブナイル版のノヴェライズなども存在していて、それぞれに微妙な違いがあって面白い。コミック版では小美人を発見する中条博士の弟が全編を通して活躍している。

    また本書収録作品では150ページに近いボリュームの、園田光慶が担当した『南海の大決闘』が読みごたえがあっていい。内容は映画版を多少アレンジしてはいるもののほぼ再現しているといっていい。実際映画本編よりもこのコミック版の方がエビラ自体も活躍している印象があったりする。
    「ゴジラVSキングギドラ決戦史」に収録された作品で作画を担当していた作家たちが、ある程度怪獣コミックや特撮作品を手がけていたのと比べると、今回収録された作品は逆に怪獣コミックには馴染みのない作家といってもいいかもしれない。
    『モスラ』を担当した吉田きみまろは、これがほぼデビュー作ということのようだし、久松文雄も『スーパージェッター』に怪獣的なものが登場したりという程度にはキャリアの中で描いているが特撮作品のコミカライズはむしろロボットものの『魔神バンダー』などを手がけていた。園田光慶は劇画家ということもあり怪獣や特撮といったジャンルとはもともと縁が薄いと言っていいだろうが、テレビドラマの『怪獣王子』のコミカライズを担当していた経歴もある。もっともそれは本作が発表されたのと同時期のものでもある。そういえば『魔神バンダー』も『怪獣王子』も昨年やっと単行本化された。偶然とはいえなにか因縁を感じてしまう。

    怪獣映画のコミカライズは、単に映画本編のストーリーをなぞるだけではなく、怪獣が魅力的に描かれているというのがポイントになるのではないかと思うが、たとえば『モスラ』では設定段階の資料に沿って描かれており本編とは微妙に違う「モスラ」が登場したりしていて漫画家の思いとは違うところで読者がガッカリする結果になっている部分もある(もちろんいまから見れば設定段階の資料を検証する材料ともなるのだが)。

    前回に続いて本書でも、もう読めないと思っていたコミカライズ作品を読むことができ、それだけでも意義のある企画だったといえる。

    書名/ゴジラVSモスラ 決戦史
    著者名/吉田きみまろ、久松文雄、園田光慶
    収録作品/モスラ(「少年」前編・1961年7月号別冊、後編・1961年8月号本誌)、モスラ対ゴジラ(「冒険王」1964年5月号別冊)、ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘(「ぼくら」1967年1月号別冊)
    発行所/竹書房
    初版発行日/1992年12月27にち
    シリーズ名/BAMBOO COMICS


    【文:猫目ユウ】
    フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。 

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十回 挑戦資格/園田光慶(ありかわ・栄一)

  • 【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十九回 性病部隊/園田光慶(原作・小池一雄)

  • 【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十八回 ターゲット/園田光慶

  • 【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十七回 喪服紳士録/園田光慶

  • 【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和也、新井光)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和…

  • 【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十五回 アイアン・マッスル/園田光慶

  • 漫画家・久松文雄が「まんがで読む古事記」で神道文化会より表彰を授与
    ニュース・話題

    漫画家・久松文雄が「まんがで読む古事記」で神道文化会より表彰を授与

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      人には見えない“何か”を視ることができる人たちの目には、どのような景色が写っているのでしょうか。そん…
    2. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    3. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…

    編集部おすすめ

    1. 「M3GAN/ミーガン 2.0」公式サイトは日本公開中止の告知のみの画面に

      映画「M3GAN/ミーガン 2.0」日本劇場公開が突如中止 理由は不明

      10月10日に日本での劇場公開が予定されていた、映画「M3GAN/ミーガン 2.0」の公開中止が発表されました。8月1日に映画の公式サイトと…
    2. 「RO」シリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      ROシリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      GRAVITYは7月31日、開発中の新作MMORPG「Ragnarok Online 3」のフルゲームプレイトレイラーを公式YouTubeに…
    3. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    4. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    5. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト